その1
「うわあああああああん、いっちゃやだー!」
子供たちの中で一番小さい子が泣き出したのを皮切りに、一七人の子供たちは一斉に泣き出した。その中の何人かは走り出し、アサヒとリアに抱きついた。
アサヒは隣に立つリアの方を見ると、彼女もアサヒの方を見ていた。その表情は鉄仮面に覆われてわからないけど、おそらくは彼と同じく困った表情をしていることだろう。
リアとアサヒが〈ジルシー教会〉を旅立つその日。教会の前には今この世界にいる二〇人――一七人の子供たち、老神父、リア、アサヒ――が集まっていた。
二人が両手に持つ大きな袋には老神父が厚意で分けてくれた食材やら鍋などの調理器具が入っている。
加えて、リアは背に肩紐のついた小さな本棚を背負っている。本棚にはリアが魔法を使うときに開く魔導書が数冊収納されていた。
「ごめんね。でも行かなきゃいけないんだよ」
アサヒが自分の足元で泣きじゃくる子の目線にあわせるためにしゃがむと、その子はさらに号泣してアサヒに抱きついてきた。
「もう……会えないの……?」
後ろで泣いている年長の子が訊いてきた。彼女は料理に興味があるとのことなので、この数日間でできる限り調理を教えてあげた。これでアサヒがいなくても彼らの食事事情は改善するだろう。
「会えるよ。世界樹まで行って、元の世界に帰ってから、また――」
「会えないわ。もう、会えないのよ。永遠に」
「リア……!」
アサヒの慰めを全否定するリアの言葉に子供たちはさらに泣きじゃくり、収拾がつかなくなってしまった。
結局、別れらしい別れはできず、老神父が子供たちのケアをしている間に逃げるように教会を出てきてしまった。
教会から森の中に入り、そのまままっすぐ歩いて行く。
「なにも、あんなこと言わなくても……」
黙って前を歩く黒い全身鎧のリアにアサヒが言った。長い付き合いではないし、わりときついことを言うタイプだと思っていたけど、人の心を理解できない人ではなかったはずだ。
なのであの発言には驚いた。
「その場しのぎの優しさは優しさなんかじゃないわ」
森の中で突然リアが立ち止まった。振り返ってアサヒを見る。彼女の見えない視線がアサヒをその場に縫い止めた。
「あんた、元の世界に帰るんでしょ? 〈トランカータニア〉に属していない世界に転移するってそんなに簡単な話じゃないの。それなのに、期待を持たせてどうするの?」
「そうだけど、でもあんな言い方は……」
「じゃあどうすればよかったっていうの? 期待を持たせるようなことを言って、ずっと待たせるつもり? まだあんな小さな子に、この先ずっと待っていろと?」
「そうは言わないけど、でも……」
そのアサヒの言葉にリアは反応せず、代わりに正面を向いた。
彼女の目の前はまるで定規で線を引いたかのようにくっきりと景色が変わっている。手前は木々がうっそうと繁る〈ジルシー教会〉の森が広がっているが、奥側はただ延々と白い景色が広がっている。雪原だ。




