その4
「さて、やりますか」
三人を見送ったあと、改めて厨房に向き合うアサヒ。焼け石はいい感じで温まっているようで、その配置も相まって三ツ口コンロのような見慣れた風景になってきた。
先ほど油を引いた鍋を手前側のコンロに置くと、いい具合に温まって湯気が立ち始めた。
温度計はないが、湯気の立ち方でだいたいわかる。
タイミングを見計らってあらかじめ刻んでおいたピーマンっぽい野菜とタケノコっぽい野菜を鍋に投入。
少し火力が弱く感じられたので、壺のフチを時計回りに撫でた。
そう、このコンロというか壺、焼け石の火力調節ができるのだ。鍋を載せる口の部分を時計回りに撫でると火力が強まり、反時計回りだと火力が弱まるという、なんともユーザーフレンドリーな仕様である。
やや強めの火力でピーマンとタケノコをさっと炒めたら、一旦皿に取る。
鍋は洗わずにそのまま追加の油を投入して先ほどと同じように油が温まるのを待つ。
油が十分温まったら、少し火力を弱くして細切りにした肉とみじん切りにしたニンニクと生姜を投入。肉どうしがくっつかないように気をつけながら炒める。
肉に火が通ったら先ほど皿に取っておいた野菜を再度投入。強火で勢いよくかき混ぜる。
肉と野菜が混ざり合ったところで別に作っておいた合わせ調味料を入れる。これは酒と醤油っぽい調味料、片栗粉などを混ぜ合わせたオリジナルの調味料だ。本当は鶏ガラを入れたかったのだが、今回は間に合わなかったので、しいたけっぽいキノコを水に通して出汁をとった。
そのまま強火で調味料を混ぜ合わせる。少しとろみがついたら火を止め皿に移して完成だ。
「名付けて、ジルシー風チンジャオロースってところかな」
時間の都合で一部再現できなかった部分もあるけど、おおむね満足できる出来になった。それにしてもどんな食材でも手に入るここの畑はすごいと思った。
「さて、これをどうしようか」
と、思ったところで視線に気がついた。
振り向くと、最初と同じように、厨房の入口から三人がこちらを眺めていた。
アサヒは手に持った皿と子供たちを交互に見た。
「食べる?」
子供たちの目が輝いた。
結論から言うと、ジルシー風チンジャオロースは大変好評だった。今までただ野菜を焼いただけ、肉を焼いただけの食事をしていた子供たちからすると当然のことだった。
お代わりを要求する子供たち、加えて残りの子供たちもやって来て厨房は一時期大混乱に陥ったが、老神父が駆けつけて場を納めてくれた。
夕食まで我慢しなさいと。
夕食時。テーブルの上には大皿に盛られたジルシー風チンジャオロース。その前には今か今かと目を輝かせながら待ち受ける子供たち――と全身鎧の女性。
今か今かと待つ子供たちは、食事前のお祈りにも身が入ってなさそうだ。
そしてついに老神父からの許しが出た。
「「「いただきます!」」」
夢中になってチンジャオロースを食べる子供たちを見て、アサヒの目はつい細くなる。
「あら、おいしい。あんた料理上手いのね。人は見かけによらないっていうけど、びっくりしたわ」
「そりゃどうも。褒めるならもうちょっとわかりやすく褒めてよ」
子供たちに混ざってチンジャオロースをぱくぱく(という表現が合うのかどうかわからないが)兜の中に入れていく全身鎧。
「いやよ。だってあんた、褒めるとすぐ調子に乗るもん」
「うっ……」
昨日出会ったばかりの相手なのに、デビュー前から付き合いのある担当の久我山と同じことを言われてしまったアサヒは言い返せない。
「ねえ、もっとおかわりないの?」
「え? もうないよさすがに」
「ふうん。まあ物足りないけどいいわ。腹八分目っていうしね」
異世界にもその諺あったんだ。というか、リアも結構食べていたはずなんだが、まだ物足りないのかと驚いていると、リアはさらに驚きの提案をした。
「そうだ! あんたしばらくここで料理番してみたら? 我ながらいいアイデアね、うんうん」
「えぇ!? そんな突然……」
アサヒがなけなしの勇気を振り絞ってリアに抗議していると、思わぬ所から援軍がやって来た。
「えっ、アサヒくんが料理してくれるの?」
「やったぁ! わたし、アサヒくんの料理大好き!」
「ぼく、お手伝いするよ」
……リアの援軍だった。
結局、老神父の「ご迷惑でなければ……」という腰の低いお願いには勝てず、出立までの数日間、〈ジプシー教会〉の料理番になってしまった。




