その3
――が、今アサヒは教会の厨房で途方に暮れていた。
「…………火の付け方がわからない」
老神父が言っていたように、この〈ジルシー教会〉では何でも畑で採れた。野菜はもちろん、果物も。肉や魚が当たり前に畑に生えていたのはさすがに目を疑ったが。リアいわく『祝福』の加護の効果らしい。
そこで適当に食材を採取して厨房まで持ってきた所までは良かった。
食材を切り、中華鍋っぽい調理器具に油――これも畑で採れるという――を引いたところではたと気がついたのだ。
アサヒは現代っ子である。さすがにIHだけでなくガスコンロくらいは使えるが、当然ながらこの厨房はそのどちらとも異なっていた。昔ながらのかまどとも違っていた。
なにせ、鍋を置くと思われるところに穴が空いているだけで、火のコントロールをするとおぼしき場所がどこにも見当たらないのだ。たとえて言うなら大きな壺が置いてあるようなものである。壺の中に薪や炭を入れるのかとも一瞬思ったが、排気口がないのでそうではなさそうだ。
壺の裏側も含めて、いろいろ調べてみるが、どうにもわからない。
ほとほと困り果てているアサヒに助け船が出された。
「どうしたの?」
少し高いボーイソプラノの声。振り返ると、三人の子供たちが厨房の入口を覗き込むようにしていた。
この〈ジルシー教会〉には、旅人であるリアと転移してきたアサヒを除くと一八人が暮らしている。
もともとは老神父が一人で運用していた田舎町の外れに存在していた教会が〈トランカータニア〉に転移して世界〈ジルシー教会〉となったのは古く、三〇年ほど前のことである。
それ以降、老神父はひとりこの世界で暮らしていたが、転機が訪れたのは数か月前、一七人の子供たちが教会の門を叩いたときだ。
今厨房を覗いているこの子たちもその時に教会にやって来た。いずれも、自分たちの住む世界が〈スラーヴァ〉という世界の侵略によって追い出された戦争難民である。
三人のうち、アサヒと目があった一番小さい三歳くらいの男の子が満面の笑みを浮かべてとてとてと走ってきた。彼に続いて五歳くらいの女の子と、少し大きい――とはいえ八歳くらいの男の子が追うように厨房に入ってきた。
「どうしたの?」
小さな子が改めてアサヒに聞いてきた。アサヒはしゃがんで彼の目線にあわせた。
「うーん、それがね……」
アサヒは火の付け方がわからないことを素直に子供たちに説明した。
すると、子供たちの表情がぱあと明るくなった。
「ちょっと待ってて!」
そう言って、子供たちは厨房から走って出て行った。
彼らは少しして出て行ったときと同じように楽しそうに走って戻ってきた。
「これ!」
そう言って一番小さい子が元気よく差し出したのは赤い石だった。他の二人もそれぞれ同じ石を持っている。
「石……?」
頭上に『?』を浮かべるアサヒをよそに、三人は両手で石を包み込むように持って何やらつぶやき始めた。呪文だ。
すると、石が輝き始めた。赤い石は内部から光を発し始め、少しずつその光度を増しつつあるった。
三人の石はそれぞれ同じように光り始めている。ある程度光度が増したところで三人はめいめい壺の口に石を放り込んだ。
「『焼け石』っていうんだよ」
三人の中ではもっとも年長の、八歳くらいの男の子が説明してくれた。この石も〈ジルシー教会〉ではその辺に落ちているレベルでたくさん採れるもので、これを使って料理をしたり、暖を取ったりするらしい(お風呂は温泉が出てくるから湧かす必要がない!)。
壺に放り込まれたあとも焼け石の温度はさらに上がっているようで、壺の口からは熱気で空気が揺れているのが見えた。
「これで料理ができそうだよ。ありがとう!」
そう言って三人の頭を撫でると、子供たちは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて厨房から出て行った。




