その2
魔王を打倒した立役者――アレスを讃える人々の集まりから離れたホールの片隅に私はいた。彼らの声もどこか他人事のように聞こえてくる。
場違いな私。この場にいるのが最も相応しくないのは私ではないかと思えてくる。
この場に相応しいドレスを身にまとっていても所詮は庶民の子。共に魔王を討伐した勇者一行の一人であったからこそこの場に招待されているのだが、皆の目当ては勇者だけであり、ただの白魔導士であった私に目を向けるものは誰もいない。
いたとしてもどうして庶民の子がこんな所にいるのかという訝しんだ目だけだ。
乾杯の時に渡されたグラスはすでに空だ。それを弄びながらぼんやりと彼の方を見ていると、目の前に大きな影がぬっと現れた。
「どうした? ずいぶん浮かない顔をしてるじゃねえか」
ゆっくりと声のする方を見た。そこには、見上げるほどの大男が立っていた。
普段のいかつい鎧こそ着ていないが、鍛えた筋肉は彼が今身にまとっている礼服をはちきれんばかりの勢いで押し上げており、礼服にもこの場にも全く不釣り合い。
オスカー。勇者パーティーで前衛を務めた戦士だ。
私と同じく庶民出身の彼もこの上流階級の集まりに肩身が狭い思いをしているようだ。実際、その大きな身体を小さく縮こまらせて窮屈そうにしていた。
「知ってるぜ。あれだろ」
言ってオスカーはくい、と顎を動かしホールの中央へと注意を向けさせた。
彼の指した先には人だかりが。もちろんその中心には本日の主役たる勇者がいた。
「ち、ちがうわよ! 誰があんなやつ……」
私は必死になって否定したが、勇者パーティーの壁役はそんなことで引き下がったりはしない。
「おや? 俺は別にアレスのことだなんて言っちゃいないが? それにしてもよく見てるんだな。この人混みの中、俺はあいつがどこにいるかなんて全然わかんなかったぜ」
がっはっはと笑いながら私をからかう大男に、私は話題を変えるためにかぶせ気味に話を始めた。
「そ、それよりもシーズはどうしたのよ? あの子も招待されてるんでしょ?」
シーズとは友の旅をして魔王を倒した黒魔道士だ。普段地味な黒いローブ姿しか見たことがないので、この場でどんなドレスを着せられたのか実は密かに楽しみにしていたのだが。
「あ? あいつなら最初の乾杯の前に逃げ出したぞ」
「は!?」
おもわず声が出た。どうりで姿が見えなかったはずだ。
「ちょっと、それどういうことよ? 私が窮屈な思いをしてこんな所でオスカーなんかと壁の花やってるっていうのに、あの子ってば……」
「おい、オスカー『なんか』ってどういうことだよ。……? って、どうした? 何かあったか?」
私はとある一点を見たまま固まっていた。オスカーから見れば、私は目を見開いたまま卒倒しているように見えたのかもしれない。
「あ、あ、あ……」
そんな声というか、息が漏れたような音しか出すことができない。
オスカーは私の見ている方向を見て、すべてを悟ったかのようにぱちん、と自分の額を手のひらで叩いて「あちゃー」と呻いた。




