その6
「これは勇者フレスベルグの腕ね。世界樹ユグドラシルの一部だと言われているわ」
「ユグドラシル……?」
風呂上がりのアサヒは老神父から借りた清潔な寝間着を着て、ベッドの上に腰掛けている。リアは机の横の椅子に腰掛けてアサヒの腕をじっと見ていた。備え付けの明かりがその黒い鎧をゆらゆらと照らしている。
「世界樹ユグドラシル。この世界群〈トランカータニア〉の中心となる『偉大なる存在』と呼ばれるものよ」
「デウス……」
リアは机の上に置いてある本の表紙を撫でながら話を続けた。
「この〈トランカータニア〉はいくつもの世界の集合体だって話はしたわね」
「うん。この〈ジルシー教会〉もそのひとつだって」
「でも、これらの世界は何の理由もなく集まってるわけじゃないの」
「何かの原因があって集まってきたということ?」
よくできましたとばかりにリアは首肯した。
「そう。世界の中には群を抜いて強力な存在があるの。その『偉大なる存在』が――」
「世界樹ってこと……?」
アサヒは両手をまじまじと見つめながら言った。その世界樹が今自分の腕として身体についているのは不思議な光景だった。
「そう。この世界群の中心たる世界の名称でもあるわ」
「ふうん、それが世界樹かぁ。でもどうしてそれが僕の手になってるわけ? 大きさも違うし、なんか動かしにくいんだけど」
指をわきわきさせながらアサヒが聞く。
おそらくだけど――とリアは前置きをした上で推測を述べた。
「何らかの原因で手以外が転移してきて、ここにいた勇者フレスベルグと入れ替わったんじゃないかしらね」
「そんなぁ……。困るなぁ。さっきも言ったけど、僕の手って一応商売道具なんだよね。なんとかして元に戻せないかなぁ?」
「ムチャ言わないでよ。こんな事例見たことないし、あたしだってどうすればいいか……」
「頼むよリア。君にしか頼めないんだよ」
手を合わせて上目遣いの表情を見せるアサヒ。大人の男性にしては情けない表情だったが、こういう表情にリアは弱かった。
「うーん……。あ」
リアは手をぽん、と叩いた。甲冑を着込んでいるので、『ぽん』というより『かちゃん』という感じだったが。
「何か方法があるの?」
「ううん、そうじゃなくて……。本人に相談すればいいんじゃないかって思ってね」
「本人?」
「ええ。世界樹ユグドラシル本人よ」




