その1
朝日が客間を明るく染め上げ、彼女にとって長い長い夜が明けた。
結局一睡もできなかった。
「それが、その……。客間は一部屋しかないのです」
「はあ」
「あら、あたしは別にいいわよ」
思い返せば、あの時反対しておけばよかった。クールぶっていた自分をぶん殴りたくなる。彼女とて一八歳の年頃のお嬢さんなのだ。
彼女は事情により人前で全身鎧を脱ぐことができない。だから何の問題もないと思っていたのだが、甘かった。リア自身のメンタルがギリギリだった。
シャワーを浴びていたときは本当にいっぱいいっぱいだった。自分でも何故先にシャワーにいったのか意味がわからない。誘っていると思われなくて本当によかった。
シャワールームにに踏み込まれたらどうしようもなかった。魔導書を持ち込むわけにもいかず、かといって鎧を着ているわけでもないので反抗のしようがなかった。
幸いにして、何も起こらなかった。もっとも、間違いが起こることは物理的にあり得ないことだが。
シャワーを浴びた後、しっかりと鎧を着込んで戻るまでアサヒはベッドの上に座っておとなしくしていた。その後も当たり障りのない話をしていたらいつの間にかアサヒは眠っていた。ぐっすり熟睡である。
「まあ、それはそれでなんかムカつくのよね」
独りごちながら全身鎧を着込んだリアは森の中に分け入っていき、W線の手前で魔法陣を描いていく。
今この〈ジルシー教会〉は敵の攻撃を受けている。
“敵”と言われてもあまりピンとこないが、〈ジルシー教会〉とW線を接する〈スラーヴァ〉という世界が〈ジルシー教会〉に侵略しているのだ。
最初の襲撃の時、たまたま立ち寄っていたリアがスラーヴァ軍を撃退した。その後、リアがこの場に留まり、これまでに五回の襲撃を撃退した。
その後六回目の襲撃としてやって来た勇者フレスベルグをも撃退し、今に至る。
七回目の襲撃は早晩来ないと予想はしていたが、それでも絶対はない。リアがこの地を去った後でもどうにかなるように対策を講じているのだ。
これをやってからこの地を去る。老神父にもアサヒにもそう伝えていた。
「あー、もう! ムカつく!」
ちょうど魔法陣を置こうと思っていた場所に大きな岩が埋まっていた。
「ムカつく! ムカつくのよ、あいつ! ちょっとはあたしのこと見ろっての!」
ムカついたので魔導書を取りだして何度も攻撃を加えてやり、ばらばらにしてやった。ちょっとスッキリした。
「あいつが悪いのよ……」
自分でもわかっている。こんな真っ黒の鎧を着込んでいる女を見てくれる人なんかいない。
「俺と結婚してください!」
あれは間違いだったってわかってる。自分に向けられた言葉ではないのだ。しかしあの一言で自分でも知らなかった自分の乙女な部分が呼び覚まされていたのもまた事実なのであった。
そんなことを考えている余裕も資格も自分にはないというのに。
「…………仕事しよ」
大きくため息をついて漆黒の全身鎧の少女は次の魔法陣を描くために森へと入っていった。




