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W線上のアリア  作者: 雪見桜
プロポーズから始まるボーイ・ミーツ・ガール
13/16

その2

「俺と結婚してください!」

「え? 別にいいけど」


 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。


 戦いの最中、突然起こった入れ替わりという現象に混乱していたのだろうか?

 いや、戦いに集中していたからこそあり得ない。あの瞬間、世界がゆがみ、目の前の勇者が消えて別人に入れ替わったことははっきりと見ていた。何が起こったのかも正確に把握していた。おそらく、あの瞬間どこからか新しい世界が転移してきて、その余波で勇者とその世界の住人が入れ替わったのだ。


 そういう願望があったのだろうか?

 それだけはない! 断じてない! 私には、そういうことを考える余裕も資格もない。ないんだ……。


 言葉の意味をよく理解していなかったのだろうか?

 それはあるかもしれない。それまで散々勇者に対して話し合いを主張していたから、降って湧いた友好的な言葉につい反応してしまったということはあり得るだろう。特にあのクソガキ勇者の直後だけにギャップが激しかったことは否定しない。

 いきなりプロポーズされて冷静になれる人も少ないはずで……。


 というわけで、よく考えずに返事をしてしまったに違いないという結論を得て納得したということで相手と目があった。いや、こちらはギアを着ているので、目があったと認識しているのはこちらだけだろうが。

「何よ……」

 思わず睨み返してしまった。




「あんたさ……」

 さすがに目があっただけで睨み返したことに罪悪感を覚えたのか、黒い鎧を着た女性――おそらくそうだろう。声の質もそうだし、鎧の形も女性らしい曲線をしている――の口調は少しだけ柔らかくなった。彼女は隣に座っていた旭陽の方に向き合って話しかけてきた。

「どうしてあんなこと言ったの?」


「えっ?」

 その時になって初めて旭陽は気がついた。

 自分の立場からすれば仕事部屋にいたはずなのに気がつけば森の中にいたということになるが、この鎧さん(仮称)からすれば、目の前に突然現れた男がいきなりプロポーズをしたということにならないだろうか?


 それは実に困る。旭陽自身はまだ結婚するつもりもないし、何より目の前の鎧さんに失礼ではないだろうか。ちゃんと説明しなければ。

「えっと、僕は漫画家なんですけどね」

「マンガって何?」

 ああ、そこからか……と思いながらも旭陽は丁寧に説明した。


「えっとつまり……マンガ? の登場人物の台詞だった……ってわけ?」

「そう! そういうことなんですよ! 担当の久我山さんの押しが強いから、それを覆すためにキャラになりきって……」

「はぁ……」

 旭陽の言葉を遮るように、鎧さんの特大のため息が盛れた。


「そ、そういうことなのね。うん、そうよね。なんとなくそうなんじゃないかとは思っていたのよ」

 鎧さんはうんうんと満足そうに頷いている。

「本当にすみません。鎧さんも誰かとお話をしている最中だったんですよね? 僕が突然現れてしまったばかりにおかしな事になってしまって」


「え? そうそう、そうなのよ! せっかく話がまとまろうとしてた所でこうなっちゃったでしょ、だからもうあたしびっくりしちゃってね。というか、鎧さん……?」

「ああっ、すみません。なんて呼んだらいいのかわからなかったので……」


 そう言われた鎧さんは自分の両手を見てからその硬質で冷たい右手を旭陽に差し出した。


「アーディミヴェスト・リアフォーレル・ゼス・マギア・カリミエイニXIV(フォーティーン)よ」


「あーでぃみ……? りあふぉ……?」

「リアでいいわ」

「あ、よろしくお願いします」

 そう言って鎧さん改めリアの手を握った。鎧越しなので硬くて冷たかった。

「旭陽。有坂旭陽です」


「よろしくね、アサヒ。ところでアサヒ」

「はい、なんでしょう?」

「どうして敬語なの? あんた、あたしと同年代でしょ? もっと気楽にしていいわよ」

「え? そうなんで……そうなの?」

 漆黒の全身鎧を着た人物に同年代だと言われても全くしっくりこないが、まあ相手がそう言うならそうなんだろうと思っていたのだが――


「あたし一八歳よ。もしかして、あたしの方がちょっとお姉さんだった? ふふっ、『お姉さん』って呼んでもいいわよ」

 胸を反らしてどこか誇らしげなリアだったが、

「いや……。僕、二一なんだけど……」

 一瞬の沈黙。

「ええっ!? マジ? 全然見えないんだけど! ウソでしょ?」

 いやまあ、背も低いし、そういう風に見られることも多いし、ちょっとそれで営業していたこともあったけど、面と向かって言われるとちょっと悲しい。


 そんな風に肩を落としていたら、リアはそれを敏感に感じ取ったのか、話題を変えてくれた。礼拝堂の長椅子に座っているアサヒを頭から足の先までまじまじと見つめ、

「そういえばあんた、変わった服着てるわよね。見た感じ、特に魔術的な加護はないみたいだけど、あんたの世界ではそういう服が普通なの?」

「えっ!?」


 言われて自分の今の格好を改めて見た。白を基調とした冒険の服。イベントなどでよく着ている勇者アレスのコスプレだった。そういえばコスプレをしてアレスになりきり、『俺振り』最終話の展開を検討しているところだった。

「いや、これは話せば長くなるんですが、僕の描いている『俺振り』って漫画に出てくる勇者アレスのコスプレで……」

「『勇者』ぁ……?」

 アサヒの説明はリアの不機嫌そうな言葉でかき消されてしまった。


「お食事の用意ができたので、皆さん食堂に……どうされました?」

 アサヒとリアを呼びに来た老神父が奇妙な空気感の二人に首を傾げていた。


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