その1
「どうぞ。これでも飲んで体を温めてください」
「あ、どうも。ありがとうございます」
穏やかそうな表情の老神父が旭陽のために淹れてくれた素朴な木造りのカップからは温かな湯気が立っている。口に付け、なみなみと注がれていた飲み物に口を付けると、その温かさが身体じゅうに染み渡っていくようだ。
(あ……)
それはよく知った味だった。ストレートの紅茶である。
「蜂蜜もありますから、お好みにあわせてお使いください」
そう言って老神父はにこやかに小さな瓶を差し出してくれた。
「ありがとうございます。でもこのままで十分おいしいので、このままいただきます」
「お口にあったようでよかったです。お茶も蜂蜜もこの世界で採れたものなんですよ」
そういう言葉を残して老神父は奥の部屋へと下がっていった。
(この世界……?)
老神父の口ぶりに違和感を覚えた旭陽だったが、その疑問に答えてくれる相手はこの場にいなくなってしまった。
旭陽は今、森の中に建てられた、古びた宗教施設――教会の中にいる。
遙かな昔に建てられたと思わせる素朴なつくりの礼拝堂は、静かな時間の底に沈んでいるようだった。木造の梁や柱は長い年月を経て黒ずみ、ところどころに刻まれた傷が、数えきれない歳月の積み重なりを物語っている。森の中にひっそりと建っている教会らしく、礼拝堂そのものもそれほど広くなく、また目を見張るような装飾など皆無だ。壁も天井も素朴な造りのまま、ただ祈りの場として使われ続けてきたことがうかがえた。
細い窓から差し込む赤い月明かりが堂内を橙色に染め上げる。その光に応えるように、祭壇脇に置かれた一本の燭台が小さな炎を揺らしている。夕映えと灯火が重なり合い、古びた木の床や長椅子に柔らかな影を落とす。そこには祈りが静かに息づく、穏やかで慎ましい空気で満ちていた。
この教会の主であるという老神父が淹れてくれた紅茶に再び口を付けながら、今自分がこんな場所にいることについて考える。つい三〇分ほど前までは仕事部屋で『俺振り』最終回の展開を考えていたはずなのだ。
それが突然周囲の風景が変わったかとおもえば森の中にいた。そしてそこにいた全身鎧の人に連れられて今、ここにいる。
「何よ……」
カップに口を付けながら礼拝堂にいるもう一人の人物にちらと視線を向けると、じろりと睨まれた。あの時の全身鎧は、戦いが終わって礼拝堂の中に入ってもまだ全身鎧を着けたままだ。




