その8
ばくん!
その巨大な口が燃え盛る剣ごとアサヒを丸呑みした。
「あ、あ…………」
その瞬間、リアの眼の前が真っ暗になった。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに理性を取り戻し、魔導書の別のページを開く。
「何か……何かないの? なにか打開策は? 今ならまだ助けられる!」
ページを開くも、そんなものが簡単に見つかるはずもない。あるならとうに試しているからだ。
焦りから思考が空回りして、魔導書に書かれていることが理解できない。冷静にならねばと思えば思うほど焦りが募っていく。
周囲に何冊も魔導書を散らかして魔導書のページをただただ捲っているだけだったのだが、当の本人は気づく由もない。
「早く……早くしないとアサヒが……!」
そうしている間にも金のひと粒に等しい一分一秒が失われていく。だが、アサヒを救い出す秘策は見つからない。そもそも、そんな物があるのかどうかすら定かではない。
次第にリアの心を絶望が満たしていく。
「嫌……いや……」
リアの魔導書のページを繰る手が止まった。
「嫌よ。アサヒ」
全身鎧の体が揺れる。声が震える。外からでは見えないが、リア自身の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「アサヒ……アサヒ……アサヒぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ぼごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
その時、巨大な破壊音とともに、ベヒーモスが大きくのけぞった。
と同時に、破壊音の中心――ベヒーモスの頭部から何かが飛び出した。
その小さい何かは地面に落下すると、ゴロゴロと転がってそのまま静止した。
「ごほっ、げほっ!」
アサヒは激しく咳き込むと、そのままうずくまった。
「アサヒ!」
リアが大急ぎで駆け寄っていく。
「大丈夫? 怪我はない?」
「げほっ、なんとかね……ごほっ」
アサヒは咳き込みながらもふらふらとなんとか立ち上がる。
「ねえ、リア」
「どうしたの、アサヒ? どこか痛いところでも?」
「いや、あのさ……」
アサヒがリアと自分の足元を交互に見る。
「なんでそんなに離れてるわけ?」
「え、そりゃあ……」
リアはアサヒを見ながらなにか言いづらそうにしている。
「汚いじゃん。臭いし」
「ひどい……」
アサヒはショックを受けたが、ベヒーモスの唾液まみれになっているのは事実なので仕方なかった。




