その3
とりあえず男性はサンピに任せてアサヒとリアは家畜を探すことにした。思ったよりも元気そうなので、コッパが人を連れてくる前に町まで歩けそうな感じだった。
「さて、どうしよう……?」
「探し物なら探査魔法で探せばいいわ。問題は……」
「あの人の言っていた『化け物』だよね」
『化け物』と聞いて最初に思い浮かぶのはアンデッドだ。
この世界はセト王が倒れるまで死の世界だった。それは人間に限らず動物も植物も平等に襲いかかる『属性』だった。
「じゃあ、アンデッドの化け物がいると?」
「それか、別の世界から入り込んだ何者かがいるかも」
人がW線を超えられるのだから人以外の何物かが超えられない道理はない。多くの生物には縄張りというか行動範囲があるから能動的に超えることは少ないかもしれないが、可能性としてはなくはない。
「どっちにしても出てきたら退治するしかないわね。頼むわよ、アサヒ」
「わかった」
アサヒが世界樹の剣を出し、リアは魔法書を開いて探査の魔法を起動する。
「こっちね」
二人はリアを先頭に荒野を歩き出した。
リアの魔法のおかげもあって、探している家畜は順調に見つかった。
「一、二、三……あと一頭だね」
荒野に集めた家畜たちを数えつつ、アサヒが言った。
男性は『べこ』と言っていたが、探し出した家畜は牛だけでなく、ヤギや羊や、中にはアサヒが見たこともない毛むくじゃらの動物もいた。
「うーん……」
だが、リアは浮かない顔だ。
「どうしたの? 見つからない?」
「ええ。範囲外に行っちゃったのかも」
「それじゃ、少し動いて探さないといけないね」
「そうね。暗くなる前になんとかしたいわ。急ぐわよ」
「オッケー。急ごう」
二人は荒野の中を歩き出した。家畜たちは『化け物』に追い立てられて逃げたと予想されたので、どっちの方に行けばいいかはだいたい予測ができた。実際、ここまでに見つけたほとんどの家畜たちはその方角から見つかっている。
「ねえアサヒ」
「どうしたのリア?」
荒野を歩きながら、探査魔法の合間にリアが話しかけてきた。
「あたし、お肉が食べたいわ」
「えぇ……」
間違いなくあの家畜たちを見てそう思ったんだろう。牛や豚から牛肉や豚肉を想像できない現代っ子のアサヒはちょっと引いた。
「お肉なら出してるじゃない」
「干し肉はもうイヤよ。あと、肉っぽいけど肉じゃないニセ肉も」
『肉っぽいけど肉じゃないニセ肉』とは肉がないこの世界向けにアサヒが連日試行錯誤している、豆で作る料理のことだ。
自分では悪くない完成度まで高めたと思っていたが、この世界でただ二人の味がわかる人間の片方であるリアはお気に召さなかったようだ。
肉がないと困っているところにやってきた家畜たち。これは僥倖と思わなくもないが、遊牧民のあの男性が家畜を譲ってくれるとも思えない。
遊牧民にとっての家畜とは財産と同じだと聞いたことがあるからだ。
「美味しい料理方法、今から考えておいてよね」
すっかり肉の舌になっているであろう食いしん坊さんはまるで狩人のように荒野を突き進んでいく。




