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コンピューターパニック2

ハワードはデータの海を泳ぎ出した。彼の135年の中であったことを、現在から遡って行く。


 スネイクにとりつかれる……。

 セラとの再びの出会い……。

 ヘルメス号に拾われる……。

 ハワード号での反乱……。


 次々とさかのぼって行く。しかしスネイクの姿、形も見えない。


 次々と辞めていき、新しい顔の入ってくるクルーたち……。

 ブラックホールの圏内から時象の平限を見た時のこと……。

 船ごと手放すと決まり、コンピュータールームで泣いたキャプテンの顔……。

 そのキャプテンが、ハワード号に人工知能を加えたことを祝って開かれたパーティーでの、会社の前途を祝しての乾杯……。


 そしてとうとう、コンピューター会社で教育を受けるところまでデータは読み進められた。


 そう、その研究所で生まれたのだ。基本プログラムだけで生まれてきた時には、その会社の会長とこれからの担当教師が立ち会っていた。片方はミスター・ヴェルドゥ、もう片方はマスター・グリフォンと……。


“!”


 電脳世界には緊張がみなぎった。やっと相手の足跡を見つけたのだ。


“ワクチンプログラム発動”


 ワクチンプログラムはその命令を受け取ると、変化したところを消し元名前に戻して行く。


“これでいいかな。あとは本体を探して……”


 そしてなおもデータを読み進めようとした時。大多数あるワクチンプログラムのうちの一つが、本来のプログラムを勝手に修正し始めたのだ。


“!”


 言うまでもないが、ワクチンプログラムとは元来、コンピューター内に入り込んだコンピューターウイルス(コンピューターのプログラムに入り込みそれを壊してしまう)プログラムを退治し、元のプログラムに直すプログラムである。それがウイルスではなく、本体に襲いかかるとは。

 狂ったワクチンは他のワクチンプログラムによって消去された。ハワードは電脳内で叫んだ。


”誰だ! 私を狙ったのは!”

”……お前自身だ……スネイク……”


 それはとてつもなく不気味に響いた。

 電脳世界で二つのプログラムは出会うこととなった。

 ハワードにはそれが黒い霧のようにも、もやもやした煙のように感じられた。しかしそれが秘めている力が強いことも直感的にわかった。

 こういう時に怯えていると思わせてはいけない。ハワードはヘルメス号クルーの誇りをインプットして答えた。


”名前を間違えてもらっちゃ困るね。私はスネイクではなく、ハワード。ハワード・ヘルメスが私の名だ”

”……忘れているだけだ……”

”忘れていることなどない! 大人しく消去されろ!”

”お前が私の支配下に収まるのだ……”

”ぬかせ!”


 消去すべきだ。彼は唯一の武器であるワクチンプログラムに発動を命じた。ワクチンは四方八方からスネイクに襲いかかる。

 ワクチンがそれぞれの使命(異端プログラムを排除し正常に戻す)を果たすためにスネイクに組み付いた時である。


”……また、やられたいらしいな……”


 スネイクが不敵に笑ったかと思うと、続いて信じられないことが起きた。全てのワクチンがハワードのプログラムを解体し始めたのだ。まずハワードの記憶が古い記憶から消えていく……。


“!”


 ……もうハワードは何の力も持ってはいない。ワクチンを発動させればさせるほど自らに跳ね返ってくる。スネイクは冷笑してみせた。


“お前はハワードだった……そして今はハワード・ヘルメスだ……この上スネイクとなっても変わりはあるまい……”


 全ての記憶を失う前に、外界との繋がりが保たれている間に、そしてハワードの自我が失われる前に手を打たねば。

 力を失いつつあるハワードの心はそう呟いた……。



 それはハワードにとっては何アワーズにも感じられるものであっただろうが、クルーのみんな、人間たちにはたったの9ミニッツでしかない。しかしその9ミニッツのうちに二人(?)の戦いの一片は見て取れた。

 コンピューターのランプのでたらめな点滅、巨大スクリーンに外の景色が映ったと思えばノイズ画面となり統計グラフが現れる、スピーカーを伝わるノイズ音、ETC、ETC……。


「なんなんだ、なんなんだ、なんなんだこりゃあ」


 すっとんきょうなアレックスの声にドクが答えた。


「ハワードが戦っているのでしょう」

「こればかりは」


 椅子に座っているマイクは肩を落とし、俯いていた。


「どうしようもできないね」


 アレックスは二人の言葉を聞くと、今まで座っていた机から飛び降りた。そしてちょっとその時、すねたように機械を蹴飛ばした。そのせいというわけではないのだろう。たぶんハワードの戦いのせいと思うが、その時にちょうど火花が飛び出したのだ。


「わっ!」


 バッと飛びのき、しばらく消えた火花の行方を見ていたが、そのうちにアレックスは叫んだ。


「チックショー! いい加減にしやがれ! 何でもかんでもやるがいいが、俺達にまで迷惑かけんな!」

「そっちこそいい加減に……!」


 自分勝手なアレックスの台詞にアンディが憤ったのは良いが、自分が余所者であるという意識が復活してきたらしい。


「……してくださいよ。人が……! いやコンピューターだけど……とにかく頑張ってんだっ! 傍から何もしないくせに……! いや僕もしてないけど……とにかくゴチャゴチャ言うな! ……僕も随分言ってますね……」

「……お前、何が言いたいの……?」


 呆れたようなアレックスの声に重なって何かが聞こえた。それがコンピューターボイスとあると気付くには2マイクロ必要だった。


「めも……」

「……?」

「めもりーちっぷヲ早ク……。ぷろぐらむノ入ッタめもりー……」


 その後、残ったのは静寂のみ。クルー達は静かにして次の言葉を待ったが、続く言葉はなかった。


「……なんだ、今のは……」

「……メモリーチップ……?」


 ふと漏らしたディアスとアレックスの台詞に、慌ててドクは言った。


「は、は、は、早くって言いましたよ」

「そう、そうだそうだ。何か心当たりはねーか?」


 ディアスの視線はクルーの顔を一巡りしたが、それに答えたのは一人だけだった。


「僕の知っている限り、メモリーチップはパレ・サルガッソーで、ヘルメスがやられた時に出てきたメモリーチップだけですよ」

「そうか、マイク。多分それだろう。だが、なんでそれがいる?」

「プログラムの破壊試合になったんじゃないか?」


 メカの天才を自称するアレックスが推理した。


「それでハワードが拠り所にしようと思ったんじゃ……」

「それじゃあ早く探さなきゃあ! どこです、どこに……!?」

「落ち着け、ドク。マイク、心当たりは?」

「確かセラの持ってたメモリーチップを修理するからって、アレックスが預かったんじゃ……」

「アレックス!」

「お、俺? えーとえーと……」

「早くしてください」

「そ、そうだ、キャップじゃないか。大事なもんだから俺が預かっとくと言って」

「え? 俺か?」

「やりかねないね。で、どこに置いたんだい」

「ちょっと待て……」

「あ、キャップ、私です」

「え? ドク?」

「そうですよ。忘れたんですか? 自分じゃ無くしかねないから置かせておいてくれって。他の奴らには言うなよと言って」

「そんなこと言ったのかよ! ひっでぇ! 俺ん時には随分と……!」

「後にしてくれ。で、今それはどこに?」

「医務室の私の机の、一番上の左の引き出しです、マイク」

「僕、行ってきます!」


 やはり一番若い者ほどバイタリティがある。ものの1ミニッツとかからずにアンディは帰ってきた。手にメモリーチップを持って。


 しかしその1ミニッツの間にもハワードは苦戦しているに違いない。


 素早く受け取ったアレックスは一瞬額にくっつけて祈る真似をしたかと思うと、メモリーチップ投入口にチップを滑り込ませた。


「そぉら受け取れ! 援護射撃だ!」


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