奪回3
ビクティー少佐の案内で兵士の一団の護衛を受け、海賊たちはヘルメス号の白い機体を後にした。
案内されたのは機能重視というよりはただ単に殺風景と言うべき必要最小限のものしかない、だだっ広い部屋だった。海賊たちはある程度部屋の中に入り込んで見回した。
「グローバルのやつは他の奴らとは違って華美な品物は嫌いだったらしいが」
グリフォンは呟いた。
「ここまでとは思わなかったぜ」
「何を言っちょる。しょうがあるまい」
突然、グリフォンの隣にいたピクティー少佐の言葉が、銀河共通語から少し訛りの入った言葉に変わった。グリフォンは自分の脇腹に硬いものが押し付けられのを感じた。
「!」
「お主らがヘルメス号を持って行きよってからここを用意したんじゃ。これでも上出来。文句を言うもんじゃないぜよ」
自分たちの兄貴に何が押し付けられているかすぐに思いついた部下たちは、すぐめいめいの獲物を抜いた。
「てめえ……!」
一斉に少佐に襲いかかる!
「動くな」
一瞬ビクッと海賊たちの動きが止まる。それを見計らって周りの兵士たちが一斉に銃を向ける。
「動くと、こん男が死ぬことになる」
そう言ってのけると、男は格好はそのままで頭をブルブルと振った。きちんと分けた髪がボサボサになり、前髪は目の辺りまで垂れた。グリフォンが口惜しそうに呟いた。
「少佐じゃねえのか……」
「ほんに共通語はしんが疲れるわい。サム・ローマンちゅう半端もんじゃ。覚えとけ。何時までかは知らんがの」
「今すぐにでも忘れてやる」
そう言うが早いかローマンの腕を巧みに外したグリフォンは、倒れながらもすばやく腰からブラスターを抜いた。そしてそれが銃撃戦の合図だった。」
飛び交う弾薬と血煙が舞う。
3分後。
一人の男がドアを蹴破って転がり出た。彼の後を銃機の音がおった。男は血のにじむ左腕と右足をかばいつつドックへと走り出した。男はグリフォンだった。
ダークヘルの5本柱の一人に彼が目されたのはその智謀によってであった。もし、その銃の扱いによってであれば、今頃部屋の中で立っていたのは彼の方であっただろう。彼をドックへと向かわせたのも、その彼が誇る智謀によってであった。
「ヘルメス号だ。あれさえ手に入れば……」
ヘルメス号は来た時と同じようにその白い船体を晒していた。グリフォンは後ろを振り返りつつハッチへと近づいた。まだ敵は遠い。グリフォンは早口で言った。
「スネイク」
「……イエス、マスター……」
いつもの声が流れた。幾分かほっとしながら、グリフォンが言った。
「バリアを張れ。床はいい。他のやつが近づかんようにしろ」
「イエス、マスター……」
一瞬後、遠くの景色に霧がかかったようになる。追いついた敵はヘルメス号が白くぼやけているのに少しぎょっとしたが、グリフォンを見ると打ってきた。
白い霧の表面を火花が走る。これがバリアなのだ。グリフォンは片頬を歪めた。
「ハッチを開けろ」
グリフォンは言った。
「今すぐに急発進する。他の基地へ移るぞ。ここは罠だ」
「他ノ乗組員ハ、マスター……」
「見捨てる」
きっぱりとグリフォンは言った。
「いくら部下を失っても構わんが、ヘルメス号だけは失えん。早くハッチを開けろ」
「ノー、マスター……」
一瞬の間。
その間にグリフォンはスネイクの言葉を何回も咀嚼し、もう一度尋ねた。
「……何と言った?」
「……ノー、マスター……ト言ッタノデス……。せらニ対スル扱イ……マッタク人ヲ何ダト思ッテルンデス。味方さえ敵ン中ニ置イテキボリニ シヨウッテンダカラ、コレハモー驚キ以外ノ何物デモナイデスネ」
低いトーンからだんだん高いとコンピューターボイスが変わっていく中で、グリフォンは動けないまま声を聞いていた。汗が額を落ちる。
「ソンナニはっちヲ開ケテ欲シインデスカァ? きゃっぷぅー、開ッケマッスヨー」
グリフォンは2、3歩後ろへよろめいた。ゆっくりとハッチが開く。
「……うちの船とクルーとブレインがえらく世話になったようで」
顎に髭を生やした男はゆっくりと低い声で不気味に言った。
「重病人を人質に取るとはどういう了見なんですか!」
白衣を着た男が正義感そのままに叫んだ。
「天に代わって成敗してくれる!」
若い男はそう言うとハッチがあくか開かないかのうちに飛び出した。
男に捕まえられる前にグリフォンは身をかわし懐へと手をやった。かわしながらも後悔が走る。あの部屋だ。あそこにブラスターを置いてきた。
「あぶねぇっ!」
ブラスターで狙っていると踏んだディアスはすぐに自分のを抜き放つ。2発続けて発射。
しかし二つはことごとくかわされた。床を転げ回りながら、グリフォンは自分が絶体絶命の危機に陥ったことを知った。何とかしなくては……しかしその暇はなかった。
もう一度プラスターの音が響く。それを避けた途端、グリフォンの体は靄のかかった壁に入り込んでいた。
……バリアーは外からのビーム、弾丸、その他の物質ETCを食い止め破壊し、本体に影響を与えないようにする。しかしそれと同じように中からのミサイル、レーザーそして通り抜けようとする物質を破壊する。
耳をつんざく悲鳴が襲った。グリフォンの体を火花が包む。居合わせた人々は皆目を背ける。蝋細工であるかのように身体全てが溶け始め、それに火がつき燃え上がる。……そして残ったのはひと掴みの炭だった。
「……おえっ」
床に座り込んだままで、顔をしかめて腹を押さえたアレックスが言った。
「男の裸の次に見たくねーもんを見ちまったぜ」
「……なんてことしてくれるんです!」
じとっとディアスを睨みながらドクが恨みがましげに言った。
「それは確かにあの人はセラを誘拐しましたし、ヘルメス号を乗っ取りもしましたし、ハワードの電脳の中を弄りもしましたよ。でも、何も殺すことはなかったじゃないですか!」
「わざとじゃねえ! 不可抗力だ!」
少しむくれたディアスは少しガキっぽく見え、それがドクの非難をそいだ。
「まぁ……因果報応ですけどね……」
いつまでも灰を凝視してるのに疲れてふと遠くを眺めた。入り口の辺りで武装解除しているノーマンの部下たちと、近づいてくるローマンがいた。
「おっと、解除、解除だ、ハワード。あんなグロテスクなもん、もう二度と見たかねーぞ」
慌てて指示するディアスに明るくハワードは答えた。
「おっけー、きゃっぷ」




