乱痴気騒ぎは脱線気味9
どこからか扉のきしむ音がする。
我ながら驚くほどの素早さで大きなゴミ箱の影にアレックスは滑り込んだ。
刑事か? 一般人かもね。どっちにしても伸びてる二人を見ちゃほっといてくれないんだろうな、やれやれ……。
「もしもし。そこのネズミさん」
艶やかな女の声がかけられた。
「出てらっしゃいな。私、味方よ?」
女? 辺りを窺うようにアレックスは首を出した。
声と同じぐらい艶やかな女がそこにいた。歳は……30を超えているかもしれない。しかしカール気味の黒髪と赤く濡れた唇が、まだ匂い立つ色気を彼女に与えていた。
幻? 本気で一瞬アレックスは思った。しかしすぐに彼は気がついた。今までレンガ造りと見えた壁の一部がドアになっていてあけっぱなしになっているのを。
「……味方?」
「そう。味方」
少し笑って見せると女は言った。
「私はこのアレキス政府に反旗を翻そうとしてる組織の一員なのよ。さっき無線を盗聴してたらまた毒牙にかかろうとしている人がいるって分かったから、助けに来たの」
「別に一人でも脱出できたんだけどなー」
「無理を言わないで」
流し目を彼女はアレックスに向けて言った。
「助けたかったの。あなたを」
……まあ、アレックスも男だからね。いい女が自分の為って言うと、時々ボーっとなっちゃうんだよな。(まあ、特にアレックスはね……)
道のところから他の男が顔を出し、無言でこっちに来るようにと合図した。
「急いで。見つかるわ」
「あ、ああ」
運を天に任せてしまえ。勧められるままに小さなドアを潜ろうとした途端。
後頭部に突然与えられた激痛!
……似たようなことを相手にされると腹が立つ、一瞬のことではあるが。一瞬後にはアレックスは気を失ったので。
男たちが出てきて崩れ落ちたアレックスの体を引きずり出してきた。堂々とした態度の女は男たちをアゴで使い、アレックスを運びださせようとした。2、3人の男はアレックスの手と足を掴んでぶら下げると、ちょうどやってきたジープに詰め込もうとした。
その音のせいだろうか。アレックスがパッパッと片付けた刑事の一人がうめき声を上げて目を覚ました。
「……だ、誰だお前は」
ごもっともな問いかけである。目の前にあの男ではなく、モデルと言うには年をくっているがとびきりの美人を見ては誰だってそう聞くだろう。
「アレキス情報部第3課、ローザ・マーシャル少佐」
冷ややかな声は刑事を一瞬動けなくさせた。
「こちらから通達したように、この者を捕らえるためにご協力いただき、ありがとうございます」
そして一層冷ややかな声でローザは言った。
「この作戦の総責任者はどちらに?」
「あー……」
「やはりFS通りの55に?」
刑事は思いっきり首を縦に振った。こんな女から離れるためなら何でもする。
「ありがとうございます。そのうち情報部から感謝状が出ると思いますわ。それでは」
微笑を残しつつゆっくりとローザは背中を向けると、ジープに乗り去っていった。
後にはほっとしたのもつかの間、上司に何と言われるだろうと不安になった刑事と、のんびりと気絶したままの相方の二人が残った……。




