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乱痴気騒ぎは脱線気味4

「あっちゃあー……」


 奇妙な声を上げたのはアレックスだった。

 空港に着いた途端にアレックスはそう言うと、頭をできる限り低くし車の陰に隠れた。空港の前には一目でお里が知れるトレンチコートの男たちがいた。

 こっそりアレックスはバイクから降り、ガラスに顔を押し付けて空港の中を見た。


「ひーふーみーよー……。おーお、いっぱい使ってなぁ……。よっぽど俺らは大物と認めてるって事かねぇ……」


 それにしても、とアレックスは思う。

 あいつらはポリ公かあぶれもんか知らんが、どっちにしても敵には違いあるまい。そいつらがこんなにいちゃあ仕事がやりにくいな。何の騒ぎもなしにヘルメス号にたどり着くのは難しいんじゃねーか?

 そう思っていた時、突然後ろでバイクの爆音が響いた。

 振り向いたアレックスに見えたのは、彼のバイクに乗って走り去っていく男の後ろ姿だけだった。


「あ! コラ! またねーか、コラ! この、泥棒!」


 盗んだバイクを盗まれて、泥棒呼ばわりできるアレックスもアレックスだと思う。

 エンジンをかけっぱなしにしていたのがまずかった……と悔やんでる場合じゃない! 大声を出したせいか、あのトレンチコートの男どもが群がってきやがったのだ。


「どうしました? あ、ご心配なく。警察のものです」


 チラッと手帳を見せられたが、本当に警察手帳だったかアレックスには分からない。それよりなんとかごまかさなけりゃ。


「じ、冗談冗談! ジェームスの野郎が貸してくれって言うのを無視してたら、あんやろ勝手に飛び乗っていきやがって。はははは……」


 必死に誤魔化そうとするアレックスの努力も虚しく、刑事は喋っているアレックスの顔を見ながら一枚の写真を取り出し、見比べながらヒソヒソ話をし始めた。


「おい、この男……」

「え? そういえば……」

「もしかしたら……。おい、貴様!」


 人を貴様呼ばわりする奴がいい人間のはずがない。アレックスはとっておきの手を使った。すなわち……逃げるべし!


 思いっきりダッシュをかけるとばねを付けて歩道の柵を飛び越え車道に出た。

 連続するブレーキ音。玉突き衝突でもあったのか、車のぶつかる音も聞こえてくる。

 全くドライビングテクニックのねえやつは災難だなあと思いつつ、空港前の道路を混乱に貶めた元凶は軽く車の上を飛び越え、ボンネットからボンネットへと飛び移り、避けつつ転びつつ、道の向こう側へと渡ってしまった。

 来た方向を振り向くと大半がスクラップと化したエアカーの向こうで、あのトレンチコートの集団がこちらをあっけにとられたように見ているのが見えた。


「ざまあみやがれ」


 そう言いつつ身を翻そうとしたアレックスだったが、嫌な予感がして不意にまた振り向いた。

 刑事たちは何か無線機を使いつつ、連絡を取り始めていたのだ。


「……やっぺー……」


 慌てふためいていたアレックスでも、「とにかく人の多いところ行く方が有利」ということぐらいは考えついた。

 BGMはパトカーのサイレン。車13台、けが人21人の大事故を起こしたトラブルメーカーは、繁華街へと姿を消した……。



 その無線での知らせは彼にとって良いものではなかった。


「この、タコ!」


 アレックス手製の無線機には映像が映らない。従ってディアスのセリフにアレックスが耳を抑えたかどうかは分からない。


「そんなんたって、しゃーねーでしょうが。俺は捕まりたくねーですもん」

「馬鹿。違うってんだろ」


 すねたようなアレックスの声に、ディアスは答えた。


「なんで空港に逃げこまなかった」

「んな無茶な。中には警察が手ぐすね引いて待ってたんですぜ?」

「だからお前は修行が足りねぇんだ」

「山にでもこもれっつーんですか」

「誰もそこまで言っちゃいねーよ。いいか? うまく空港をひっかきまわしゃあ、ヴェルドゥの情報が分かるだろうが。しかもうまく行きゃあ、駐船場行きのシャトルに乗り込めたかもしれねえじゃねえかよ」

「それはそうかもしれねえけどさ」


 アレックスのブツブツ言う声をさりげなく聞き流し、ディアスは軽く言ってのけた。


「ま、そういうわけだからお前、空港に行け」

「ひっでぇ! 俺だけ差別じゃねえすか!」

「何言ってやがるんだ。こちとら、この町の顔聞きにあった後、マイクと合流しなきゃならんのだぜ? 少しは年寄りをいたわろうという気にはならんのか? え?」

「……自分から言うようじゃ先が見えてんなー……」

「何ぃ?」

「別にぃ? 行ってきますとも、我らがヒーロー、マーキュリーディアス殿」


 一方的に持ち上げておいて無線を切ったアレックスに対して、誰に言うともなくディアスは言った。


「わかってんじゃねーかよ……」


 無線機をしまい込むと、ディアスは今彼がいる街角をもう一度眺めた。

 古い町並みだった。古いと言っても豪華なものじゃなく、古臭い下町のゴミゴミした街だ。ディアスがこれから会おうとする人物はこういうところにいる。


 向こうからチンピラのような若者がふらふらとディアスの方へ歩いてきた。


「おっと」


 ……わざとらしい。あまりにもわざとらしく男がぶつかってきたので、ディアスはかえって呆れ返ってしまった。

 スリではなさそうだ。とすると因縁つけか。こんなやつにかまってる暇はない。ディアスはトコトコと通り過ぎようとした。


「おいおいおい、おっさんよぉ!」


 無視されたのに対して身の程を知ってか知らずか、相手は食ってかかってきた。


「人にぶつかっといて何も言わねえで通り過ぎる気か! 骨の一本や二本折れてたらどうすんだ、え!?」


 よく回る舌だ、とディアスは思う。骨を折った奴がそんなに喋れるわけねーだろうがと言おうとしたが、止めた。その代わりにディアスは別のセリフを言った。


「いい医者を紹介してやるさ。……急いでるんだ。坊主はどいてくんねえか」


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