乱痴気騒ぎは脱線気味3
手元で金属音の音がする。
「逮捕する」
……これだった。
傷をつけないよう細心の注意を払い、やっと返しにきた3人に対する従業員のセリフがこれだった。
いくらこの世は無常と言ってもこれはあまりにもという気がする。従業員に変装した刑事たちは、砂糖に群がる蟻のように3人に群がり、ドクター・モーリーをうんざりさせた。
「……まだね、密貿易とか、麻薬所持とか、詐欺の疑いとか、事実無根の容疑だったら僕だって抵抗したんだけどさ」
懐かしの護送車に入れられたマイクは、そうぼやいた。実際彼らの容疑は「バイクの窃盗及びロボタクシーの破損」。……事実だけに力が抜けたのだろう。
「諦めましょう、マイク」
ポンとマイクの方に手を乗せたドクが言った。
「悪いキャップとメカニック思った運命だと思って」
「何のために僕はあいつらを養ってきたんだ。彼らの身代わりに逮捕されるために僕はヘルメス号の切り盛りをしてきたわけじゃない!」
ディアスが隣にいたら「違ったのか?」と切りかえされそうなセリフを息巻いていうマイク。
すると突然忘れ去られていた人物が頭を抱えてうずくまった。ため息とうめき声をあげている。
「ど、どうしたんです? 頭でも痛いんですか? 参ったなぁ……。応急箱をヘルメス号に置いてきたからなあ……」
人の良いドクがうろたえるのに、ロビンソンは鼻をすすりながら言った。
「ち……違うんです、ヒック。運命、運命ってのは、いくらあがいても、どうやっても、無理なのかと、思い、ヒック、知らされて……」
「悲観主義はよぼよぼになって生きるのが精一杯ってときに使いなさい」
マイクは淡々と言ってのけた。
「運命論者ってのはどうも性に合わん」
「そんなのは!」
おっと、珍しくロビンソンの逆襲だぁ!
「僕の過去を知らないから言えるんだ!」
「人の愚痴聞く趣味はもともと持ってないんでね」
「マイク!」
温厚なドクもこのセリフにはカチンと来たらしい。
「いくらなんでもそういう言い方はひどいじゃないですか!」
二人からいっぺんに責め立てられてマイクもげんなりしてきた。ただでさえディアスやアレックスに気を揉んでる上、今こうして警察に捕まっているのに、その上やいのやいのと責め立てられちゃたまったもんじゃない。
「……まあ確かに、ちょっと言い過ぎたかもしれんね。すまん。ちょっと我と我が身の不幸に感傷的になってたもんだから」
「どれだけの不幸か知りませんけど」
膨れるとロビンソンは一層少年に見える。
「僕ほどではないと思いますね」
「……今更、ここで不幸のくらべっこしてどうなるってんだい……」
3人揃って手錠をハメられて。一つの護送車に仲良く座っていらっしゃる中で。しかも刑事の監視付き。
「全く……」
普通だったらこんなところには絶対に似つかわしくないような刑事が呟く。
「男のくせにピーチクパーチクしゃべってんじゃねーよ。俺だって好きでお前らの監視してんじゃないんだぞ、まったく……」
「残念でしたね、グラマーの美人じゃなくて」
ちょっと苦笑してドクが言うのにチッと舌打ちすると、刑事はまたプイと横を向いた。
「……まったくだ」と言う独り言を3人が聞いていたかどうか。
「……これからは僕らはどうなるんです?」
これはマイクからの至極真っ当な質問。
「俺が知るか。上のやつらが決めるだろ……と言いたいところだが、まあ、どこかの空き家でも調達してそこに入ってもらうことになるかね」
「何を言ってるんですか」
勧善懲悪一日一善のドクが言う。
「こういう軽犯罪なら罰金刑が相場でしょう。まあ、留置所に入れられるのはしょうがないとしても、なぜ空き家なんです」
「ドク」
ポンとドクの肩に手を置くと、マイクは言い聞かせた。
「僕らには法は適用してもらえないんだよ、この星ではね」
「……まさか」
「そうじゃなけりゃ、ヴェルドゥが一旦警察に捕まった僕を捕まえられると思うかい? 多分それと同じことさ」
「それじゃあV大佐……いや、あんなやつ呼び捨てでいいんだ……ヴェルドゥが軍の方から警察に手を回しているんですか?」
ロビンソンはヴェルドゥを思い出した。あいつが本気になったら……やっぱり俺たちお陀仏だな。
「軍? は!」
馬鹿にするように声を吐き出すと、刑事は言った。
「あんなゴチゴチの何考えてるかわからんようなやつと一緒にするな。これは警察署長の高度に政治的な英断で行われているのだ。軍の奴らとは関係ない。手に入れた交渉カードを渡すものか」
「墓穴を掘ったねぇ……」
のんびりといった感じで言うマイクに刑事は注意を向けた。
「何?」
「まだ気づいておらんのかい? 今ので君はこの逮捕は法によるものではない、つまり僕らが君らに協力する必要はないということを証明したんだよ?」
「!」
それほど揺れはしないが動く車の中でバランスを取りながらゆっくり立ち上がると、マイクは刑事の体を検証し始めた。
「背格好はドクに近いな。顔は帽子を深くかぶればいいとして、髪の色が致命的だなぁ。見せないように帽子の中に入れなけりゃ」
「おいおいおい、お前、一体何を」
「何をって」
マイクは独特のいたずらっ子のような笑顔を作ってみせる。
「決まってるじゃないか。お宅は一人で、僕らは3人なんだよ?」
はっと気がつくと、彼は体を捻って運転席の仲間に何か言おうとした。するとマイクが口を塞ぎ、あと二人も黙って見てはいなかった。
護送車の中に乱闘、格闘の物音が響く。運転席の二人の刑事は思わず首をすくめた。そしてしかめっ面をして二人で後ろの方を見た。一人が小窓からくらい後ろへ向かって声をかけた。
「おいジャック、うるさいぞ! 何とかしろ!」
「……すまねぇ」
いつもより低く小さな声でジャックが言った。
「奴らが暴れだして、今、収まらせた」
「一人で大丈夫か? 一人応援に行こうか?」
「大丈夫だ。一人で十分だ」
「……そうかい?」
運転をしていた者たちが変だと思わなかった、と言えば嘘になる。
しかしこっちはプロだし、相手は素人だ。しかも「危険である」と上司からくどくどと言い聞かされた船長とメカニックの男はいない。いくら3人と言っても何も恐れることはないだろう。
……と思ったのが命取りになる。まあこれは後に置いといて、今とにかく床に伸びてるのはたった一人であったとだけ言っておこう。(あと何人増えるかは作者にもわからない)




