乱痴気騒ぎは脱線気味1
アレキス共和国惑星シルレス内でシャトル発着場のある有数の都市のひとつ、シルス市のまん真ん中を突っ走る2人乗りのバイクがあった……と書いたらもうわかってほしい。
バイクの後ろを走っているのはおともではない。パトカーが勝手についてきただけのことである。無論、規定速度を20kアムルも越してりゃ嫌でも来るんだけどさ。
「……うるっせーなー……」
後ろに乗っている中年っぽい男が呟いた。
「パーカーパーカーうるせえったらしょうがねえ。どうせ奴らの手下だろ? アレック、まけねえのか?」
「まけますよぉ? キャップさえのってなきゃね」
「バーロー! そんならできるとか抜かすんじゃねえやい!」
時速100kアムルぐらい出していると思われる大型バイクに、ぴったりとくっついて追跡しているパトカーにこそ私は拍手を上げたい。中にはいかにもサラリーマンの典型と言うべき二人組の警官が、市民の迷惑そっちのけでこの人騒がせなレースに参加していた。
「そこのバイク、止まりなさい。止まりなさい。止まれ。止まらんかい、コラ! スピード違反だってことを知ってるのか、君らは!」
「知ってるさぁ」
鼻歌まじりの声で、アレックスは後ろも見ずにパトカーからの呼びかけに答えてみせた。
「君らの父さん母さんは泣いておるぞ!」
「ふん。……型通りのセリフだけに迫力に欠けるな」
鼻でキャップが笑うとアレックの耳元で、ささやくと聞こえないから、怒鳴った。
「アレック! 俺はあのパトカーを止めてやるから、お前はシャトル空港に急げ! ヴェルドゥの野郎が関わってるとしたら、奴が俺らをやれなかったとしりゃあ、次に危ないのはヘルメス号だ。どうなったか探りを入れて、できれば奪わせるんじゃねえ。いいか!?」
「と、止めるったって、どーすんです?」
「とにかく、少しスピードを緩めてパト公に近づけ。あとは俺がなんとかやる」
「大丈夫ですかぁ?」
「てめえなぁ……。こんなことも出来ねえようじゃ、マーキュリー・ディアスの名が泣くわ。任せとけって」
アレックスはちょっと肩をすくめると、言われた通りにスピードを落とした。ディアスに逆らったら後が怖い。
みるみるパトカーとの距離は縮まり、目と鼻の先というぐらいにまで近づいた。自分たちに恐れ入ったものと勘違いした警官は、たちまち顔をほころばせた。
「そうそう、最初からそうやっておとなしくっ……っっっ」
一瞬何が起こったのか彼らには分からなかったろう。
後ろに乗っていたキャップはそのままポンと真上に飛び上がり、くるっと後ろへ一回転すると次の瞬間、彼の姿はパトカーの屋根の上にへばりついていた。
「わっ!わ、わわわわっ! こら! 降りろ!」
100kアムル近く出しているパトカーの上から降りるなどという無茶な注文を出す警官たちを尻目に、アレックスはキャップの方を振り向いて言う。
「キャップ! 頼んますぜ!」
おう、まかしとけとでも言うようにウインクするキャップを見届けると、アレックは一目散に走り去る。そうはさせじと追いかけようとするパトカーのフロントガラスに、何かがかぶさってきた。
「わー!」
「どけどけ! この!」
べろべろばーと化け物じみた顔で(おっとっと)警官たちの視界を遮っているのはディアスだった。ヨタヨタと蛇行するパトカーの上でこんな芸当ができるんだから、やっぱり人間じゃないのかもしれない。
そのディアスの姿が一瞬のうちにフロントガラスからフッと消えた。
警官たちがホッとした時、目前に迫っていたのは通りに面した洋服店のショーウインドウだった。
大音響とともにブティックにパトカーは突っ込み、目も当てられない状態。その上に乗ってたはずのディアスはぶつかる直前に例の妙技を披露して、一人無傷で道路に突っ立っていた。
「バイクにロボ・タクに、パトカー、プラスしてブティック……」
片手の指を折りながら数え上げる。
「まあた、マイクに何か言われんだろうなぁ……」
ディアスは困ったように頭を掻いていたが、結局、指を折った片手を一本ずつ広げながらのたもうた。
「ま、いいか」




