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ファイターズ10

「全く、手こずらせやがって」


 そう嘯いたのは鎖手チェーンハンドのジョーンズと呼ばれる男だった。左手が義手であり、鎖が仕込んであるところからの呼び名だ。

 彼らを手こずらせたものは今、気を失ったまま縛られてジョーンズの視線を受けている。言うまでもなくセラである。


「いいスケじゃないですかい、兄い」


 ニヤケた笑いを浮かべて一人の男がジョーンズに囁いた。


「まあな」

「姦っちまいましょうぜ、兄い。ほっとくなんざ、もってえねえ」

「そうですぜ、兄い」


 血まみれになって仲間から治療してもらっている男がそれに同意した。


「そしてその後でバラバラにしてやりましょう。そうしちわなきゃ、気が収まらねえ」


 そうだそうだという声がジョーンズとセラを包んでいく。目をギラギラとさせ、淫らな笑いを浮かべて。ジョーンズもまんざらでもなさそうに薄笑いを浮かべている。


「しずまれ」


 しょうがないと思いつつジョーンズが言う。


「そうしてえのは俺だって山々だ。待ってろ。すぐにグリフォンの兄貴に許しをもらう」

「何でしらすんすか!」


 不満そうに部下の一人が言った。他のものもそれの後に続いた。


「そうですぜ! 横取りされちまうじゃねーですか!」

「ばっかやろう!」


 怒鳴りつけたジョーンズの目に、すでに苦笑の色はなかった。


「兄貴に逆らったらどんな目に合うか知らねえからてめえらはそんなことが言えるんだ! ただの男じゃ”ダークヘルの5本柱”とは言われねえんだぜ! それを忘れたのか、てめぇら!」


”ダークヘルの5本柱”


 彼らのうちの凄腕のうち、特に5人をさして言ったこの言葉にいきり立った彼らは静まり返っていた。屈折した色の視線を背中に受けながら、ジョーンズはインナーヴィジホンを取り指令室へ連絡した。

 グリフォンはすぐに出た。


「鎖手の。捕まえたか」

「へい」


 今まで部下に向かっていた態度とは打って変わり、上目遣いに媚を加えてジョーンズは軽く言ってのけた。


「ドアが開いた途端に旋風が起こりやして、遮霊布はおろか部下までなます切りみてえな目にあうわ、彼奴めがけてうとうとしたブラスターはカーブを描いて逸れるわ、スネイクは彼奴に向かって何もしねーわで大変だったんですが、睡眠ガスの煙幕を部屋に放り込んだらいっぺんで静かになりやしたぜ」


 しかし、彼は知らない。セラは睡眠ガスのために捕まった訳ではないのだ。


 あの時セラは彼らに応戦しつつ、キャップやマイク等に危機を知らせようと心を飛ばしたのだ。しかしその時に彼はロビンソンがブラスターを撃ち、今にも爆発することを知った。その時セラには彼ら3人をバリアで包むしかできなかったのだ。危機を知らせることも、その間中敵を食い止めることも、時間と彼の体調が邪魔をしてできなかった。

 彼は力を使い果たしてしまったのだ。


 それを襲撃者達は知らない。


「よくやったな。褒めてやるぜ」


 この言葉におずおずと顔がほころびかけたジョーンズだが、次のグリフォンの一声は彼には予想していなかったものだった。


「できるだけ丁重にこっちに連れて来な。かすり傷一つでもつけるんじゃねーぞ」


 部下たちはざわざわと騒ぎ始めたが、誰もまともに抗議しようとはしなかった。やっとそれらしきものを呟いたのは、やはり鎖手のジョーンズだった。


「……何でですか、兄貴。兄貴はここにいねえから知らねえんだ。俺らがこいつにどんな目に合わされたが、そしてこいつがどんなに……上玉か」


 ジョーンズと部下たちの暗く熱い目はモニターを通してグリフォンの前にまで届いた。彼は軽くため息をつき、彼らに言ってのけた。


「……口で言ってもわからねーらしいな。いいからナイフをそいつの体に突き立ててみろ。そうすればわかるぜ」

「そんなめんどくせえこと!」


 部下の中でブラスターの扱いが上手い奴が叫んだ。


「ブラスターにすりゃいっぺんで済みますぜ!」

「ナイフだ」


 画面を通しても半減することのない凄みと迫力とそして恐ろしさ。それに押されて沈黙が彼らを支配した。

 一人の部下が周りとジョーンズと画面のグリフォンを見回しながら出てきた。そしてニタアと笑うと大型ナイフを取り出し、刃の部分を舌でチロと舐めると白い衣に振り下ろした。


「うわっ!」


 叫んだのはセラではなかった。周りのものは叫んだ男とナイフに注目した。

 振り下ろし、体に触れると思った瞬間、刃の部分が粘土でできているかのようにぐにゃっと曲がってしまったのだ。

 あっけにとられている彼らの中で、インナーヴィジフォンの音声が響く。


「分かったか。だから手を出すなと言ったんだ。ブラスターなら自慢の腕が吹っ飛んでたところだぜ。

なんで世のヒットマンがジプシーだけは敬遠するのか知らねえのか。奴らにはどんな獲物も通じねえからよ。

ナイフは曲がる。トマホークも同じ。ブラスターは爆発する。戦車は動かねえ。どんなものも使いもんにならなくなりやがるのさ。しかもやつらの意思に関わらず、だ。素手のやつが向かっていたこともあったが、手足がブチギレたという噂もある。

死にたくなけりゃさっさと運べ。分かったか」


 顔色なく頷いたジョーンズ。それを見て画面の中の男は無表情のままスクリーンを消した。




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