ファイターズ9
「うるせーやい! 何を証拠に……!」
「つまりはこういうことさ、少年よ」
いくらなりそこないと言っても、いくらでも教授の口のあったマイクである。いきなり講義をし始めた。
「名付けて『バイオタイムボム』。
火薬はTATかLCP。どっちかは知らないが。そして起爆装置には味方の少年一人。
人質を取り返しにきたクルーたちに少年が叶うわけもない。特にうちの船員は特別製だしね。
仲間を呼ぼうと訳も分からず地面にブラスターを打つと、そこには一面に埋められた火薬の畑。かくして、少年は敵と共に名誉の爆死を遂げたのであった……という筋書きだったんだろうね。それにしてもほんと、助かったのは奇跡だ」
「ちょっと!」
いきり立ったのはドクだった。ロビンソンではなく。
「何なんですか、それは!」
「へ?」
「自分の仲間の人命をなんだと思ってるんですか! そいつはそれでも人間ですか!」
「知らんよ。僕はヴェルドゥじゃないんだから……」
突然、今までと比べ物にならないくらいの爆発音が丘の向こうから聞こえてきた。続いて2、3発の爆発音。
ちょっとマイクは首をすくめると、様子を見ようと駆け出したドクを落ち着いて呼び止めた。
「心配ないよ。キャップが戦車を爆発させたんだ。2、3台巻き込まれたみたいだな」
「それじゃあこうしちゃいられませんね。早くここから逃げ出さなくちゃ」
そう言って駆け出すドクをマイクは追いかけた。
「何か足代わりになるものでも?」
「ええ、ハイヤーが1台。傷をつけないように気をつけて運転するのが大変でしたよ。後で弁償代を払わされますからね」
「さすがはドクだ。後の二人とは比べ物にならない」
運転の腕のことか、それとも金銭感覚のことか、やたらに乱暴でないことか何かは知らない。そう言いながらハイヤーに近づく二人に、ロビンソンは慌てて立ち上がった。
「ま、待て! 待ってくれ!」
今まで黙っていたロビンソンの発言で、ドアの取っ手に手をかけたマイクはきょとんとしていた。
「何かい? 命に代えてでも行かせないとでも? それは困るなあ」
「いや、そんなことじゃないんだ」
彼は2、3歩前に出て、制服の上着を脱ぎ捨てた。
「連れて行ってくれ。いや、いってください。お願いします」
マイクは2、3回口をパクパクさせるとドクの方を見た。ドクも、重傷者が一晩ですっかり回復したという報告のような申し出に困惑していた。
「突然言われても……。どうして君は私たちと一緒に行こうと言うんです? よく分からないんだけれど」
「チャンスだからです!」
「……何の?」
盛り上がっているロビンソンにすっかり拍子抜けしている二人だ。
「俺が、俺の不幸な運命から逃れられる、これが唯一のチャンスなんです! もう俺は飽き飽きしたんすよ! V大佐ときたら元々嫌いなタイプの上に、しかもその専属に俺をしておいて、友軍の船を沈めたかと思ったら反乱軍まで乗っ取っちゃうし、しかも僕を殺そうとまでしたんですよ! これ以上ここにいる義理なんかないです! 連れてってください!」
「連れてってくださいったって……」
ドクの方をちょっと見て、頭をかきながらマイクは言った。
「君が転向するって意思を、どうやって証明するって言うんだね?」
「いや、マイク」
その問いに答えたのはドクだった。ドクはマイクの顔を、真剣な顔で真正面からじっと見つめた。
「私は彼の気持ちは嘘ではないと思いますよ。とにかく連れて行きましょう。マイクがダメと言うなら、私が引きずってでも連れて行きます」
マイクはドクの顔を見て、次にロビンソンを見、そしてまたドクを見た。そして片手で頭を抱えてしばらくうつむき、そして最後に上を見て大きくため息をつくと言った。
「オーライ。分かったよ。ドクにそうまで言われたら、僕は何も言えない。わかった。少年、のりたまえ。時間がないぞ」
「少年じゃない! 俺は22だ!」
「どうでもかまわんよ。少年だろうと、中年だろうと、実年だろうと。ドク、運転頼む」
「はい」
バタバタと相次いで三つドアの閉まる音がしたかと思うと、猛烈な勢いで車は駆け抜けてゆく。アレックスやキャップと違い荒っぽい運転ではないので、少し落ち着いた状態になった。
「……ところで、ちょっと落ち着いたところで尋ねたいんだけれどね」
乗ってから少しの間考え込んでいたマイクがドクに尋ねた。
「なんです?」
「あの爆発が起こった後、何が起こって僕らは助かったのか、ということなんだ。こればっかりはいかに僕でも分からんのでね。……知らないかい?」
「……分からないんです。無線機の声で起きるまでの意識がなくて」
「だろうね。僕も同じだ」
「……あの……」
意見を期待していなかった後ろの席のアンドリュー・ロビンソンから声が発された。マイクは後ろを振り返った。
「何かね、少年?」
「少年ってのはやめてくださいよ。これでもアンドリューって名があるんですからね……。実は、意識が途切れる前変なものを見た覚えがあって……。やっぱり幻覚だったのかな……」
「この際なんでも構わんよ」
マイクは顔だけでなく身体も後ろを向けた。
「なんだったんだい?」
「何て言うか……バリアみたいな、白い球状のものが俺たちを包んでて……それにぶつかる岩が粉々に崩れたような……。それから……もっとバカバカしいと思うのは、女の人の姿が見えたことなんです。一瞬だったから違うものかもしれませんけど……長い髪と白い衣の……。あれ? お二人ともどうしたんです?」
アンドリューは妙な表情で向き合っている前の二人に気がついた。ドクは安全運転をいつも心がけているのに、今回ばかりは横を向いている。
「……まさか……」
「……セラですか?」
「あり得るな。急ごう」
「ええ」
二人は緊迫した表情で前に向き直り、ドクはますますスピードを上げた。
「あのー……。何なんですか、セラってのは? どうかしたんですか?」
二人の様子にただならぬものを感じ尋ねたアンドリューへの答えは、ドクのつぶやきだけだった。
「全く……病人なんだからおとなしくしてなきゃならないのに……全く……」




