ファイターズ8
いきなりだった。
戦いに夢中になっていたアレックスとディアスは思わずそちらを見ていた。
今までマイクがいたあの丘が。ドクが助けに行ったはずのあの丘が。
突然大音響とともに大爆発を起こしたのだ。無論人影はない。
あまりのことに二人はおろか、敵方さえも動きを止めていた。
「……キャップ……」
無線機から呆然としたアレックスの声が流れてくる。それによってディアスは我に返った。そして怒りが湧いてきた。彼の仲間を、彼の大事なドクターとマネージャーを、彼の最高のクルーを奪った奴らに対する怒りが。
「……上等じゃねぇかよ……」
ディアス自身が内心驚くほど、それは低くこもった声だった。目つきも爛々と輝きを増していた。
「……アレックス……ヘルメス号には戻らねえぞ……」
「……え?」
「奴らを全員地獄へ落とさずに生きて戻れるかよ!」
猛虎一吠! 戦車の中のディアスを見た者がいなかったのは幸いなのかもしれない。彼はまさに地獄の業火渦巻く中に住むケルベロスであった。
「……死ぬときは一緒ですぜ?」
いつものアレックスとは思えないような臭いセリフを口にした彼に、ディアスもいつになく真面目な声で答えた。
「……当たり前だ」
1対17でもう無謀とはもう言わせない。こちらが二人に対して相手は20倍30倍はある。
団体戦なら負けは明らかだろうが、そこが二人の偉いところ。アレックスが敵の陣営を切り崩し、バラバラになったところをディアスが狙い撃ちする。
これで全滅は免れない所を、互角に戦っている。さすがにヴェルドゥが狙うだけのことはある。
しかしやはり、ものには限度がある。ものの5ミニッツもしないうちに、キャップが自分のやっていることにイライラしてきた。こ、こいつら、どっかで細胞分裂でもして増えてんじゃねーのかぁ?
片っ端からぶっ潰していく傍ら、今までオフにしていた敵用の無線機を(これがあるなら盗聴して相手の動きの裏をかくこともできたろうに……。まあ、逆上してたんだろうね)オンにしたキャップは、どこかでいるであろう敵の司令官に向かって怒鳴った。
「てめえ! やつらの陰に隠れてねえでとっとと出てきやがれ! それとも何か!? 俺じゃ一騎打ちの値打ちもねぇとでも思ってやがるのか!? いい根性じゃねえか。その通りかどうか確かめてみろってんだ、この大馬鹿野郎!」
「……うるさいなぁ、もう……」
キャップの怒鳴り声に答えたのは敵の司令官ではなく、ましてやアレックスでもなかった。
「僕を難聴にでもするつもりか? 障害者でも何でもないのに、46で補聴器なんてみっともないったらありゃしない……」
「まーっ、まっ、まっ、まっ、ま……」
「マイク! 生きてたのか!」
いち早く敵の方の無線を切ったので、アレックスとキャップの叫び声を満たしたのはアレックス作の無線機だけだった。声の主は二人の声をそれほど驚かずに受け止めた。
「おや、どうしたね? 突然どもりの発作でも起きたのかい? そんな持病持ちとは知らなかった」
「……その物言いは確かにマイクだな……。てめえ! 生きていやがったのかよ! どんだけ俺らに心配かけたら気が済むんだ、このボケ!」
「ボケとはなんたる言い草だ。
……とにかくヘルメス号の優秀なマネージャーと優秀なドクターは健在だよ。五体満足だ。足の一本もかけちゃいない。見せたいぐらいのもんだ。まあ、詳しいことはドクの方がよく知ってるけどね。……ついでにもう一人も生存中」
マイクは地面に横たわったドク以外の人物を見つめた。
「もう一人? 誰です、そいつは?」
「そのことと、ロボタクシーと、バイクの件については後で話し合おう……。それよりも作戦は成功したんだろう? 今こそ転進すべきじゃないのかい? とにかく今の戦力じゃ、ヴェルドゥには勝てそうにないしね」
「え? ヴェルドゥが?」
今までロビンソンの様子を見ていたドクが振り向いた。
「本当ですか?」
「間違いない。本人に会ってちゃんとご挨拶したからね」
2、3秒の沈黙の後、突然無線機から何かを叩く音がして、その後キャップのしわがれた声がした。
「……しつけえ野郎だぜ……蛇みたいな野郎……」
「キャップ?」
「帰るぞ! 悔しいがマイクの言うとおりだ。出直すっっきゃねぇ。50マイクロ後に自爆させるぞ。アレックス。迎えに来いよ」
「合点承知」
「ドク! 上手く逃げろよ!」
「キャップもお気をつけて」
音を立てて通信が切れ、その後アレックス作の無線からは声は流れでなかった。
「……うっ……ううん……」
ドクが無線機を懐にしまった時だった。それまで気を失っていたロビンソンがようやく息を吹き返した。
「大丈夫ですか? しっかりなさい。もう安心です」
ドクが医者らしい優しい言葉をかけると、ロビンソンは薄目を開けた。
「何がどうなったんです……。僕は……」
まだはっきりと意識がしていないらしい。マイクは少年のそばにしゃがみこんで顔を覗き込んだ。マイクは硬い表情のままだった。
「それを言う前に是非答えてもらわなければ困りますね」
そして、もっと顔を近づけていった。
「なぜ、あの時、地 面 に 向 か っ てブラスターを打ったんです?」
「地面に……あれは……手に負えなくなったら……そうすれば仲間が来るからと……。あ! 俺!」
やっと自分の状況、そして話している相手が敵であることが分かったらしい。ガバッと起き上がり、後ずさりしていくロビンソンであった。
「どうしたんです? どうかしたんですか?」
いきなり態度を変えたロビンソンに、驚いてドクはまごまごした。
「大したことはないさ、ドク。状況を把握しただけのことさ。……それにしても」
まだ警戒を解かない彼に、ちょっとからかうようにマイクは言った。
「もしかしたら人望のないのは、そっちじゃないのかい?」




