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ファイターズ5

「一人ですぜ」


 テレスコープを目から離してハゲの男が言った。


「一人か」


 隣でヴェルドゥが呟いた。


 ここは斜面から1キロアムルは離れたところにある岩場。戦いの中心ではなく、離れた所から高みの見物でもしようというつもりなのか。ここにはヴェルドゥと、ヒューマニア星系の小惑星に集まった部下のうち髭の男を抜いた全員がここにはいた。


「奴か?」


 ヴェルドゥの質問に無線機を持っている若い男が答えた。


「いや、そうじゃないらしいですぜ。どうやらそいつはアレックスと名乗ったそうで。もちろん偽名ということもありやすがね」

「奴はそんなことはせん」


 ヴェルドゥは言った。


「多分どこかにいる」

「来やすかね」

「来る」


 そう答えるとヴェルドゥは両目を閉じた。待つつもりなのだろう。ディアスを。


「あ!」


 テレスコープを覗いていたハゲの男が叫んだのはその時だった。


「なんだ」

「裏切り者が出やしたぜ」


 歯を噛み締めてハゲの男は言う。


「31番の戦車だから、トニオだ。奴め、味方を潰して行きやがる」


 誰かが笑った。くっくっくと喉の奥で。そしてそれはまぎれもなく、ヴェルドゥの声だった。


「ボス」


 片目の男が言う。


「どうなすったんで」

「やつだ」


 表情こそ無表情だったが、声には一片の歓喜が含まれているように聞こえたのは気のせいだろうか。


「いやしかし、本当にトニオが裏切ったのかもしれやせんぜ。連絡を取ってみやす」


 若い男はそう言って無線機を操作して呼びかけた。


「31番! 31番! トニオ! てめえ、仲間を裏切りやがったな! どういう目にあうか覚悟の上なんだろうな!え!?」

「……残念だったな」


 代わりに聞こえてきたのはトニオの怯えた声ではなく、低くかすれた男の声だった。


「トニオ君は今頃は土の上でおねんねだ。俺はその代理でね」

「誰だ、貴様は!」

「俺の名かい? マーキュリー・ディアスだ。どういう男かはあの世でお仲間に聞いてきな」


 音を立て、一方的に無線が切られてしまった。


「変わらんな……」


 そうヴェルドゥはつぶやくと、続けて指示を示した。


「拡散して31番の戦車とバイクを中心に据えた後、集中砲火しながら縮小。半径100アムルになった後、北方向の攻撃を緩める。他は奴等を北に向かわせるように攻撃しろ」

「へい、そう伝えやす」


 若い男がそう答えて無線に取り組むと、ヴェルドゥは遠くの山の頂上を見た。

 小指の先ほどの棒が立っているように見える。スコープを使えば木の杭に縛り付けられたマイクと、その周りを囲んでいる男達が見えるだろう。

 ヴェルドゥは5マイクロの間頂上をじっと見ていたが、突然目を見開くとハゲの男に片手を出した。素早く手渡されたスコープを覗き風景を確認すると、ヴェルドゥはそれを目から離し片目の男の方を振り向いた。


「なぜだ?」


 片目の男は何も答えなかった。たとえその声が静かなものであっても、彼にはそれが嵐の前の静けさであることがわかる。


「何故、奴がいる。5、6人配置しろと言った。ひよっこではなく、な。……答えろ!」


 片目の男はヴェルドゥの迫力に押されたかのように、目を伏せてぽつりぽつりと話し出した。


「時限装置なら……数はいらねぇと……思いやしたもんで……」

「それで無視した……?」

「いえ……そうじゃねえんで……」

「なら何故だ。……言え!」


 周りの部下たちは一瞬自分の目を疑った。あの冷静な、というより氷のような冷気の塊であるボスが、憤りを表立って顔に表しただけでなく、スコープを片目の男に投げつけたのだから。


 確かに彼らのボスは恐ろしかった。しかしそれは、何か底知れぬものを考えているであるのだろうがそれを表に出さぬ姿と、一旦堰を切った後の行動が恐ろしいのであって、物を投げつけて痛めつけるような子供っぽい恐ろしさではないのだ。

 なのに今のヴェルドゥは……。やはり自分の命令を無視されたことがこたえたのだろうか。千本ものナイフで突き刺すような視線でギリリと睨みつけられ、物も言えなくなった片目を男の代わりにハゲの男が口添えした。


「ボス。最初はどうだろうと、あの坊主は俺たちの船に乗ってたんですぜ。ヨブを忘れたんで? ボス。あの野郎も坊主と同じく乗って間もないやつだったが、逃げ出したあの野郎をボスはどうしやした? 忘れちまったんで? なら言って聞かせやしょう。ボスは奴を人間風船にしたんでさぁ。真空中にスーツ着せずに放り出して破裂させたんですぜ。船の情報を漏らしたかもしれねぇと言ってね。坊主だけ例外というわけにはいきませんぜ」

「……黙れ……」


 ヴェルドゥはつぶやいたが、それは以前ほど凄みのある言葉ではなかった。


「それにボス」


 若い男も口を添えた。


「あの坊主は、何の役にも立たねえただのガキなんでしょう? いつでも切って捨てられる、それだけが取り柄の、ただのガキ。……それともボス、他に何か役に立つようなことでもできるんですかい?」

「……計画を続行しろ。今回のことは不問にする」


 目を閉じて5マイクロ後、また戦場に目を向けたヴェルドゥは元の通りの彼らのボスそのものだった。……少なくとも彼らにはそう見えた。


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