表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/83

危機から逃げ出せ5

 ……すみません。


 作者は典型的文系人間なのです。

 数学が得意な奴なんざ人間じゃねえと公言してはばからない人間に、二人の高数次元的な会話が書けるはずがない。

 割愛させていただきます。



 結果としては。


 全銀河中一の大天才が、一介の士官に劣るはずがない。見事と言うべき論理で質問を打ち破ると、返す刀で逆に質問を返し、見事に矛を収めさせてしまった。とはいうもののそれがマイクロフト・モーリーであるという証明には全くならない。


 しかし、H「大佐」にはそんなことはもう問題にはならなくなっていた。どういう名であろうとも構わない。ようはその頭脳なのだ。

その頭脳からは多くの武器、戦艦、秘密兵器が生み出されることだろう。そしてそれは自分の地位を固め、ますます自分の位を引き上げるだろう。そうなった暁には、なに、「マイクロフト・モーリー」の一人や二人や三人や四人、何とでも始末できる。

 ……そう考えているH中佐自身、上層部の連中からそう思われてることなど知る由もなかったが。


 まずは手なずけなくてはなるまい。


 マイクの解説が終わり士官がうなったところで、H中佐は急に立ち上がり一礼した。上層部以外の人に頭を下げる中佐など、彼の部下は見たことがあるだろうか。


「失礼いたしました、モーリー博士。このようなところへ押し込めた上、あらぬ疑いをかけられてはさぞご気分を悪くされたことでありましょう」


 そう言うと部下たちに言いつけ、マイクを高級士官だけが使えるスイートルームへと案内した。

 狭く、椅子と机だけ花の一つも飾っていないところから、毛足の長い絨毯、柔らかいソファー、名画はもちろんのこと、シャンデリアさえある部屋へ。

 きょとんとしたままソファーに座らされているマイクに浴びせられたのは、美辞麗句の嵐、そしてヘルメス号の悪言雑言。


「この銀河系中で不世出の天才であるあなたが、何故あのおんぼろ船のマネージャーごときをなさっているのです。我ら凡人と比べれば無限大にも等しい才能をもたれる博士が、女好きの船長と喧嘩好きの船員、まあまともなのは医者だけとしても、そんな奴らのために借金がある倒産しかけの船をやりくりすることで、その有り余る才能を削ってしまわれるのは、不祥ハウエル、惜しむばかりなのであります」


 『その通り だから余計に 腹が立ち』


 悪かったなあ、倒産しかけのおんぼろ船で。ヘルメス号のことを言われたのにはムカッときたが、自分が褒められるのを聞くのは嫌いではないので黙っていた。

 しかしよく回る舌だ。よく噛まないもんだ。……いい加減に飽きてきたな。それで口を挟むことにした。


「えぇと、Mr.ハウエル?」

「でありますからして……。は?」


 流れるような弁舌を途中で中断されて、少し不機嫌になった中佐である。


「つまり、あなたの言いたいのはこういうことですか? “早くおんぼろ骨に見切りをつけて自分の舌で働け”と」

「え? いや、そのように聞こえましたか?」


 それ以外に聞こえるか?


「いや、私が申し上げようといたしましたのは、博士の才能を余すところなく発揮できるような場所をですねぇ……」


 必死になって喋っている中佐にマイクは呆れはしたものの、少しかわいそうな気にもなってきた。それに少し考えるところもある。

 そこでマイクは、神妙な顔つきで言った。


「そうだねぇ……。僕も収納帳の上の数字と格闘するのにも飽きたしねぇ」

「そう、そうでございましょうとも!」

「僕がいなくったって、奴らなら海賊でもやって食っていけるし、第一、もう奴らに付き合うのも疲れましたしねぇ……」

「そ、それで!?」


 その後を続ける前にマイクはもう一度座り直し、中佐の顔を真正面から見て、真面目な顔つきで言った。


「大したことはできないかもしれませんが、よろしくお願いします」


 このセリフ。このセリフほどH中佐を喜ばせたものはなかった。上層部からの大佐に昇進させると言う通達でも、これほどは喜ばなかったに違いない。なにせ、この自称モーリー博士を手に入れれば、そいつらの上に登れるかもしれないのだ。


「……ただ……」


 覚束なさそうに切り出すマイクを、H中佐は促した。


「ただ、一つお願いがあるのですが」

「何かね?」


 自分のものと決まると途端に敬語をなくすH中佐だった。


「こちらに人質になっている、あのバカ船長」

「あぁ、あれか。それが?」

「僕にください」


 途端に中佐は表情を引き締め、まじまじとマイクを見た。もしかすると自分のもとに来るというのは演技で、船長を助けるためだけに言ったのかもしれない。


「誤解なさらないでください」


 ちょっと笑いながらマイクが言った。


「今まで彼にはひどい目に遭いましてね。無理やり商船に引っ張り込んだのもやつですし、今までに受けた暴力は数知れません。そのお礼をしなくてはと思いまして」

「あー、なるほど」


 合点がいったようにH中佐は笑った。


「早速手配しよう」


 そして傍に立って聞いていた士官に中佐は言った。


「やつはどうなっている?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ