危機から逃げ出せ2
「あぁ! だめだ! 引き返せ!」
突然セラの出した大声に、3人は驚いた。今の今まで敵旗艦の弱点を探っていたセラが、別のことを言い出したのだから。
「ハワード、引き返すんだ! 船長が捕まった!」
「何ぃ!?」
「引き返すんだ!」
セラは驚くみんなの声を尻目に叫んだ。
「船長を助けなくちゃ!」
「待った」
落ち着いた声がセラの声を遮った。
「引き返すことはないよ、ヘルメス。全速前進。旗艦を強襲する」
「マイク! しかしセラの言うことが本当なら!」
「いいかね、ドク」
諭すようなマイクの声。
「今からキャップを助けに行くとして、だ。
前方と後方から挟み撃ちになることはまず間違いないだろうね。いくらヘルメス号でもキャップをかいた上に挟み撃ちではひとたまりもない。
それよりは相手の旗艦を叩き潰してからにすれば、敵の指揮系統が混乱するのは目に見えている。そうすればキャップも抜け出せるよ。それにね」
片手で少し長めの髪をかきあげると、いつものマイクには似合わない蛇のような瞳で入った。
「キャップだって、いくら自分が人質になったからって、敵にへーこら頭を下げるヘルメス号なんざ、見たくないだろうしさ」
「おいおい」
アレックスがたまりかねてインナービジフォンの画面内で喚いた。
「自分ばっかりいい格好すんじゃねーよ」
「残念だったねぇ。戦闘に目がくらんで勝手に部署についた報いって奴だよ」
「アノ、チョットイイデスカ?」
「どうしたのかね?」
ドクがハワードに尋ねた。
「せらノ言ッタコトハ本当ラシイデスヨ。今、相手カラ通信文ガ届キマシタ」
プリントアウトされた通信文をドクが取って目を通していたが、悲しそうにセラのほうを見た。
「なんですって?」
「君の言う通りだよ。助けたくば降伏し、接舷してハッチを開けろと言っている」
「絶対Noなんだろ?」
突然自動ドアが開いて、入ってきたアレックスがそこにいた。
「砲座にいたんじゃなかったのかい?」
「いや、あそこじゃどうしても目立たないんでね。ここじゃないといい格好しても見てくれる人がいねぇから」
「ご立派ご立派」
アレックスを茶化すと、マイクは続いてハワードに向かっていった。
「ヘルメス、敵さんに10分待つように言ってくれないか」
「らじゃー」
「時間稼ぎですか?」
「まさか」
ドクの意見をさらりと否定すると、これからの行動予定をマイクは説明してみせた。
*
3分が経過した。
その時。
突然船を襲う揺れにH中佐は驚いた。
「どうしたのだ!?」
「H2B4の外壁が破られました。ヘルメス号が接舷し、三人の賊が入り込んだ模様です」
「まさか。まだ10分は立っておらんのだぞ」
「考えますに、こちらを油断させるためにわざと時間を区切ったものと思われます。それよりも中佐」
K少佐は言った。
「ここから避難された方がよろしいのでは。H2B4は司令室とは目と鼻の先ですが」
「避難? なんの、吾輩はたかだか商人ごときを恐れはせんぞ。第三艦隊長とは違うのだ」
まだ根に持っているらしい。
自動ドアの向こうの人達の叫び声がだんだん大きくなる。
「……ギャッ」「グワッ」「ギエッ!」
ドアの向こうの物音が大きくなるにつれて、ドアとは反対方向へH中佐が椅子の上の体を滑らすのを、K少佐は見逃しはしなかった。
ドアの前には銃を持った兵士が二重に囲み、ドアが開くのを今か今かと待ちかねていた。
ドアが開きそこに3人の人影を認めると、兵士達は一斉に引き金を引いた。
あれ? 気は焦るのに弾は出ない。兵士の中には銃口を覗き込む者さえいる。
3人の中で一番若い赤い髪の男がニヤニヤと人の悪い笑いを浮かべると、次の瞬間にはそこにいた5、6人を吹っ飛ばしていた。
「ぐっ!」「グワッ!」
その男が周りを見回し、指を鳴らしながら言うことには。
「いやぁ、待っててくださるとありがたい。なんせこの2週間っつうもの、暇で暇でねぇ」
「こらこらアレックス、雑魚には構わずに早く親玉を捕まえたまえよ」
となりのひょろ長いメガネの男が言う。
「こっちには時間がないんだから」
「がってん承知の助」
赤毛の男はそう言うと、すぐに人を踏み倒しながら中佐の方へ進んでいった。
もう1人白衣を着込んだ医師らしい男は、相手を殴りつけながら何か言っている。どうやら相手の怪我を見立てているらしい。
バキッ「単純骨折、全治一ヶ月」
ズコッ「肋骨が折れたな。3ヶ月はベッドの上ですよ」
バシッ「あ、今のは脳震盪だな。命に別条はなし」
ゴン「突き指ですね。何も触らずに医務室に来なさい。引っ張ったり押したりすると余計に悪くなる」
さっきのメガネはどうしているかと言えば、逃げている。
避けたりするのは抜群に良いのだが、相手をやっつけようとしない。かえっておとりになり、中佐から護衛を引き離そうとしてるようにも見えるが、実はあまり格闘技に自信がないのでただ逃げるためだけに決めていたのだ。深い考えがあったわけではない。体力は温存しておくに限る。
「に、逃げるぞ」
H中佐は言った。
「いや、吾輩は逃げるのではない。吾輩は転進するのだ。K少佐! 貴官が盾となれ! 貴官が死んだ後、我らは貴官を永遠に英雄として讃えよう。そら、行け!」
「冗談じゃない! なんで私が!」
土壇場になってK少佐の本音が出てしまった。
「奴らが狙ってるのはあんたでしょ。あんたさえいなけりゃ俺たちは安全なんだ。離れろ」
「貴様ぁー、そんなことを考えていたのか!」
「あんたは早く殺されなさい。その方が軍のためです」
そう言ってる間にも赤毛の男は迫ってくる。
その時だった。
突然空調の音が変わった。それに気を取られているすきにK少佐が倒れた。
「おいおい、死んだのか……」
そう言っていた H中佐も続いて倒れた。
次にアレックス、兵士たち、ドクにマイクも。司令室にいた人々すべてが倒れた。
死んだのではなさそうだ。いきはしている。
それじゃ一体何をしてるのか。
……眠っているのである。




