攻撃2
「完璧だ」
その日5度目のセリフをH中佐は呟いた。
それほど彼は自分が立てた計画に自信を持っている。計画の内容は大した問題ではない。ただ自分がその計画を考え出したからこそ完璧なのだ。
三方からきた船隊は回り込みながらヘルメス号に砲弾衝撃を加える。レーザーは使わない。いっぺんにダメージを加えては興がそがれるというもの。やはり砲弾でじわじわと苦しめるのがいい。決して商船に常備が義務付けられているバルカン砲の射程内に入ってはならない。こちらが無傷でいるからこそいいのだ。
船隊が周りを囲んだのなら電気ネットで商船を生け捕りにし電流を流す。船のコンピューター、機械類から出る火花が乗員たちを焦がすところを見れないのが残念だ。
動けなくなった船からトルトニウムを運び出し、まだ生きている乗員を乗せたまま時限爆破装置を付けた船をパレサルガッソーへと落とす。ヘルメス号が発火装置となり、難破した船たちが次々と爆発する様は美しい限りだろう。
たいした能力もなくくたびれた商船に乗っているつまらん命で、そのような美しいものができるのだ。彼らは私に感謝すべきであろう。
これを終えれば大佐、そして少将、中将、大将と上り詰め、ついには上層部の一員として……。
この空想を打ち破ったのは、旗艦司令室からの緊急連絡だった。
「……何の用だ」
個室でゆったりと想像に浸っていたのを邪魔されて、幾分苛立った中佐は言った。
「大変です! 第七艦隊が壊滅しました!」
「!?」
中佐は一瞬パニック状態に陥った。
「そーっ、そ,そ、そ、そんなはずはない! 相手は古びた、ただの商船だぞ! なんでだ! なぜ壊滅した!?」
「スーパーイニオン砲です! スーパーユニオン砲を積んでいたんです!」
「スーパーイニオン砲?」
これを聞くと中佐はどんと机を叩いてモニターの向こうの部下を叱りつけた。
「バカもいい加減にしろ! そんなわけがないだろうが!」
H中佐が言うのも無理はない。
スーパーのついていないイニオン砲であっても普通商船についているようなものではなく、軍用船の中でも小型な駆逐艦に乗っているものなのだ。その上スーパーがつくイニオン砲は、戦艦の中でも乗せているものはまだ少ないという代物。確かにごく普通の商船に乗っているはずがない。
……まあヘルメス号が普通の商船かと言うと、疑問の残るところがあるけどさ。
「しかし現に第7艦隊が……! しかも商船内からシャトルが飛び出し、我が軍の駆逐艦を次々と沈めています! あ、今第三艦隊から連絡が入りました。退却の許可を求めていますが……いかがしますか?」
「たった一隻! たった一隻の、しかも商船相手に退却! 退却だと!」
完璧と自負した作戦の散々たる失敗に怒り狂ったH中佐である。
「そんな馬鹿げたことがあるか! いいか? その腰抜けどもにはこう伝えろ。『貴官らが我が作戦に忠実であったならば退却の必要はないはずだ。この失敗は全て貴官にあり。恥と思うならヘルメス号に体当たりでもしてこの大宇宙に果てよ』」
「は、はい。伝えます」
「やつらの失敗のせいで主力艦隊を動かさねばならん。全く我が軍の恥さらしだ。これからブリッジに行く」
「……イエッサー」
ビジョンが消えるとH中佐は個室から出て指令室へ行かねばならなかった。彼と一緒に司令室に行く耳のいい部下がいたら、次のようなH中佐の独り言を聞くことができただろう。
「……私の失敗ではない。完璧だったのだ。奴らの責任だ。ヘルメス号についてろくに調べなかった部下が悪いのだ。クソ。上層部の一員になったら真っ先にこいつらを始末してやる……」




