攻撃3
責任転嫁のセリフが中佐によって言われる約1アワーズ前。
つまりキャップが戦闘準備と叫んだ直後。
こういう時がキャップとアレックスにとって1番生き生きとしていられる時なのだ。
頭を使う時とか口を使う時は、マイクに任せておけばいい。喧嘩こそわが命!の二人なのだから。
「バッキャロー」
インナービジフォンに飛びついてバルカン砲砲座のアレックスにキャップは怒鳴りつけた。ニヤニヤ笑いは消さないが。
「俺が指示もしねえのに勝手に仕事を放り出すやつがあるか。後で船内会議にかけてボーナス抜きにすんぞ」
「へいへい、命があったらそーしましょ」
「口の減らねえ奴だな」
「削りますか」
「見逃してやっから一隻でも沈めろ。調子に乗りすぎて弾切れなんてバカすんな」
「沈るなったって沈めるさ。弾切れの方は自信ないがね」
切れた通信に苦笑いを浮かべると、次々とディアスはクルー達に指示を下した。
「マイク、ハワード。スーパーユニオン砲準備。ドクター。駆逐艦砲を頼む。効率よく沈めて行けよ。エネルギーの無駄遣いすんな。セラ。相手の旗艦を探れ。いいな?」
「船長はどうするんですか」
「俺か? 俺はシャトルで出る」
「死ぬなよ、キャップ」
マイクが言う。
「ヘルメス号にはあんたの葬式費用なんか残っちゃいないんだから」
「バカ言え、俺がそう簡単に死ぬか。
俺が死んだら、マリアとエリザベスとジョセフィンとエレオノーラとエイミーとマギーとテレサと、とにかく、大勢の女が泣くことになるだろうが……おっとっと」
再びミサイルの振動がヘルメス号を襲った。
「同ジ場所デス。外壁ニ ヒビガ入リマシタ。今せきゅりてぃしすてむヲ作動サセテイルノデ被害ハ大シタコトアリマセン」
「しっつけえ野郎だなあ……」
うんざりした様子でディアスは言った。
「一アワーズぐらいで戻るから、ウォッカの用意をしとけよ、ハワード」
「命ガアッタラ ソーシマショ」
とぼけたように言うハワードにしかめっ面をしてみせると、ディアスは残り3人の方を見て声を掛けた。
「そんじゃ行ってくるぜ」
「怪我をした時は宇宙空間に放り出されないよう気をつけて。いくら私でも真空中じゃ手術はできませんからね」
「お気をつけて」
「まぁせいぜい頑張ってきたまえ。早く帰らんと僕がこの船を乗っ取ってしまうぞ」
ドク、セラ、マイク、三者三様の言葉を背に受けて、ディアスはブロック別にみると貨物室の中にある格納庫へと向かった。
ヘルメス号によるシャトルは、元は脱出用シャトルである。それをアレックスが改造し、戦闘機も兼ねるようになったのがこのシャトルなのだ。燃費もいいし、耐久力も普通のシャトルとは段違いに違う。レーザー砲を装備しイオン推進ミサイルも3000発を装備できる。速さも戦闘機並みではあるが小回りが効きにくいのが難点である。
この厄介な代物を乗りこなし使いこなせるのは、ヘルメス号の中ではディアスだけなのだ。本人が言うには、マイクと会う前にアクロバットチームのエースだったことがあり、シャトルの操縦にかけてはピカイチだったそうだ。……本人が言うことだから話3割に聞くとしても、なかなかの腕ではあるようだ。
前をあけっぱなしにしておいたスペーススーツの上着のチャックを上げると宇宙空間用の手袋とヘルメットをつかみ、シャトルに飛び乗りコックピットに座った。
鼻歌を歌いながら手袋とヘルメットを付け、機械のスイッチを次々と入れていく。かすかなうなりと灯っていくライトの明かりが、ディアスの鼻歌と妙にマッチしてるように思えるのはやはり気のせいだろうか。
「ハワード」
通信スイッチをいれてディアスは呼びかけた。
「こっちは準備OKだぜ。早くここから出せ」
「了解。 good luck」
格納庫のハッチが開く向こうに見えるのは、無数の星と戦艦の灯だ。
「いっちょうやってやるか」
一気にシャトルは飛び出した。一直線に艦隊の方へ向かおうとしたが、途中で方向を変えヘルメス号のデッキの前を通り過ぎた。
「ヘイ、マイク。 どんなに無茶しても構わんが、俺に当てるような真似だけはすんなよ」
「そっちがヘマしなきゃ当てませんよ。とにかく3時方向の敵は僕らが受け持ちますよ」
「そうかい。なら、俺は9時の方向のにするぜ」
「それじゃあ私は、5時方向の敵を頂きましょうか」
マイク、ディアス、ドクがそれぞれ取り分を決めると。
反撃は開始された。
*
アレックスは腐っていた。そして自分の愚かさを嘆いてもいた。
バルカン砲の範囲内に戦艦が入ってきてくれないのである。
戦艦の方はH中佐からバルカン砲の射程内に入らないようにと厳命されているからなのだが、それをアレックスは知らない。
すでに3時方向の敵は一掃され、ディアスは九時方向の敵の隙間で絶妙なテクニックを披露し、こういうことにあまり向いてないドクさえもすでに沈めた船は二桁を超えていた。
ヘルメス号の中で2番目に喧嘩好きのアレックスとしては悔しいものがあるだろう。
「アレックス」
セラの姿が突然インナービジホに浮かび上がった。
「おやおや、セラ。どったの」
「相手の旗艦はここにはいません」
「何?」
セラの後ろでマイクとドクが顔を見合わせるのが見えた。
「3時、5時、9時方向の敵の中に敵の旗艦はいません。どうやら離れたところから指示してるみたいで……」
「それで敵の御大将はどこに?」
マイクがセラに尋ねた。
「距離はまだよくわかりませんが、7時の方向の小惑星の影に主力艦隊がいます。……あ。主力艦隊が動き始めた……」
「どっちへ?」
アレックスが尋ねた。
「こちらへです」
アレックスは口笛を吹いてみせた。
「それは願ってもないことで」
「待ってることもないな。迎え撃つか」
マイクが言う。
「ヘルメス。7時方向へ方向転換後前進」
「いえっさー」
「キャップへの連絡はどうします?」
ドクの問いにマイクはこともなげに答えた。
「しない方がいいんじゃないかな。盗聴される危険があるしね。こういうことは相手の機転を制することが大事なんだ。それにやっこさんなら何も言わなくても気づくんじゃないかな」
「はぁ、そうですか」
マイクとドクの会話を聞きながらアレックスの気分はすっかり入れ替えられた。
だいたい敵がくるのをただじっと待ってるなんてのはアレックスの性分じゃないのである。こっちから出かけて行って叩きのめす方が好みなのだ、どっちかっつーと。
部下のそのまた部下をいじめて喜んでいるよりは、主君の首を取る方がどれだけいいことか。
ヘルメス号がゆっくり方向転換する際に、アレックスはディアスのシャトルが敵の中で孤軍奮闘してるのを見た。シャトルを落とすために次々と戦艦の中から戦闘機が湧き出てくるものの、ダンスの相手が多少増えたところでディアスには苦にもならないのだが。
3機で編隊を組んでいた戦闘機がディアスの後ろへと回った。しかし自分たちの後ろには気づいていない。射程距離内に入った敵を放っておくほどアレックスも暇ではない。
スコープの中で3機がバルカン砲の雨に打たれ、爆発する姿がはっきりと見て取れた。




