きつねとたぬき5
以下船長談。
つい先日。
ほら、せらとの連絡を取りにラドラスのジプシー紹介所へ行ったら、そん時に古い知り合いに行ってな。
古い知り合い。
昔、俺がヘルメス号を持たずに他のやつの城で働いてやってた時に知り合った……まあ、言うなら戦友だな。なかなか骨のある親父さんで……今でもそうだけどよ。
その親父さんにあったんだよ、酒場でな。
いーだろーが。自分の金で行ってんだぜ? 船の金使ったわけじゃねーよ。マイクの野郎がうるせえだろーがよ。
もとい。
会って一緒に飲んでると親父さん、船降りてゲリラやってるって言うじゃねえか。なんとかドリーマーズとかいうやつでよ。驚いたぜ。俺ぁ、あの人は一生船の中で暮らすもんだとばっか思ってたからな。実際、そういう人でさ。
まあー、30年たってっかんな。いろいろあったのかもしれんが。
その親父さんが俺に頼みたいことがあると言いやがる。聞いて驚いたぜ。政府軍からトルトニウムを奪い取って処分しろ、なんて言いやがんだからな。
なんでも今、政府軍じゃ秘密兵器を完成していて、その原料がトルトニウムなんだとさ。 それで俺にご相談ときたんだろうが、これはちっとばかし手に余る。
すると親父さんがちっと漏らしてきたのさ。
俺らが今回契約したロルボラン社。そこのニルス支部が中心となって、政府軍に援助してんだとよ。つまり、ロルボランにトルトニウムがなけりゃ、政府軍にも手に入らない。
そんでな。マイクのこともあるし。
一度、ニルスまでトラウトニウムを運ぶ。
金はもちろんもらう。運んでやったんだからな。
そしてその運んだ分と他の船が運んだ分をごっそりいただく。
そのとった分を……さあって、どうするか。
アレキス政府にでも売りつけようか。あそこから政府軍にはいかないからな。
くくくくくく。神様でもご存知あるめえってやつさ。
*
「どうだ。ぐうの音も出んだろう」
はあ、とため息をついたドクに、キャップは得意げに言った。
「……確かにすごい計画とは思いますが」
ドクは言った。
「なんでそれをマイクに言わなかったんです? 今回はキャップもなぜかはっきりものを言わない、ってマイクがぼやいてましたよ」
「お前なぁ~……。この船になって何年になんだよ」
「12、3年でしたっけ」
「それでもまだやつの性格見抜いてねーのかよ」
「そりゃ、二十数年付き合ってるキャップには負けますけど」
「あーそうかもしれんなぁ。それじゃあ一丁教えてやろうか」
こう言ってずずいとドクの方に身を乗り出すと、いつになくキャップは真面目な顔をした。
「実はな、奴の正体は、大型電子計算機の化け物なんだ」
「……は?」
「思い起こせば20と数年前。大宇宙に捨てられたオンボロコンピューターありき。俺あ、かわいそうに思って有り金叩いて修理してやってな。するとそのコンピューターの言うことにゃ、お礼がしたいなんざ殊勝なことを言うじゃねえか。ハーレムとか金とか考えたが一つだけって言うもんだから、俺は船が欲しいって言ったんだよ。そうして手に入れたのがこのヘルメス号で、マイクはそのコンピューターが化けた姿なんだ」
「そんなバカな」
「まあ、それは冗談としてだな」
すっとぼけた口調でそう言いながらディアスはタバコの火を消した。
「実際、奴は人間コンピューターだっておかしかねーぞ。アイツにゃ冒険なんて言葉はねぇよ。どれだけ成功の確率が高いか計算してから行動するんだぜ。そんなかったるいことをしてられるわけねーだろ。
これは俺の恩人の親父さんから頼まれ、そして俺が受けた仕事だ。今更“No”なんざ言えるわけねぇ。だから内容を隠して、なし崩しに認めさすことにしたんだよ」
「そんなもんですかねぇ……」
「それにな、男の意地ってもんがあるだろうが」
「意地……ですか」
「おうとも。“私の言う通りじゃないですか?”と言われて誰がそう簡単に“はいはい、そうでございます”と言えるか。まるで簡単に人に考えを見透かされちまう、底の浅い人間とでも言ってるみてえじゃねえか」
「そうですかー?」
「おい、お前までマイク化するんじゃねぇ。男と男として約束したなしたからには言うんじゃねえぞ。お前を男として信頼して打ち明けたんだからな」
「はい、キャップがそう言うのなら私も男です。男に二言はありません」
ちょっと馬鹿馬鹿しいとは思ったが、「男同士の約束」やら「男として頼む」やらの言葉にめっきり弱いドクであった。
*
「はい、キャップがそう言うのなら私も男です。男に二言はありません」
このセリフを。
アレックスは、機関室で暇つぶしの機械分解をしながら聞いていた。
セラは、個室で心を体の中にしまいこんでから聞いていた。
マイクは、喫茶室でコーヒーを飲みながら聞いていた。
もしも指令室やトイレや廊下にいたとしても聞くことができただろう。ディアスの個室を除いた全てに船内放送で流されていては。
「イインデスカ、まいく。モシきゃっぷニ知ラレタラ全テ責任ハまいくニカブセマスカラネ」
「何言ってるんだ。ヘルスも共犯だろ?」
「私ハ人間ニ忠実ナ単ナルこんぴゅーたーデス。ソンナ大ソレタ事ナド考エモツキマセンヨ」
「単なるコンピューターが、反乱を起こそうなんて考えを起こすかね」
「昔ノ話デスヨ。昔ノ話」
「まぁ、こうとでもしなきゃ、キャップもそう簡単に教えようとしないだろうしね」
しみじみとマイクが言った。
「ドクに言うとキャップが言い出した時に、たぶんドクに言い含めて口封じするんじゃないかなと思ったら、本当にそうだったな。
いくらあの人がみんなに知られたと知ったって、どうせいつかはみんなに知らせなくちゃいけなかったろうし、いつまでも意地とかいうようなものに関わりあってる人でもないからね。多分何も言わないさ。
ヘルメス、珈琲もう一杯ね」
頭脳プレーでは一枚上手のマイクであった。




