きつねとたぬき4
クルーたちが船に関わって忙しいのは出港と入港の時だけで、後は全てコンピューターにまかせっきりなのが昨今の情勢。もちろんヘルメス号も例外ではない。
仕事がたいしてないから自然、生活のリズムも乱れてくる。遅寝遅起きなど日常茶飯時である。
その中で一番早く起きるのはハワードである。……あ、ハワードは寝ないのか。失礼。
人間の中で一番早く起きるのは、セラである。自然と一体になるのが目的である星間ジプシーであればこそ、ちゃんと規則正しい生活ができるというものであろう。
次はドク、そしてマイク。なんとなく納得できるな。そして最後がアレックスとディアス。思いっきり納得できてしまうなあ。
そしてその日のラストはキャップだった。
遠慮がちなノックの音でキャップは目が覚めた。珍しい。いつもならハワードの怒鳴り声でも起きないところなのに。……いや、わざと起きないふりをしているのかもしれない。
「……うっせーな……誰だぁ?」
「あ。起こしましたか? 私です。ドクターです」
キャップの声にドアの向こうからドクの声が応えた。
「ドクぅ? 何か用かぁ?」
「よくわからないんですが」
ドクターは言った。
「とにかくマイクが行け行けってうるさいもんですから。あの……寝てたんですか?」
それでキャップは、やっと昨晩の事を思い出した。
ちぇっ、マイクの野郎、こんな朝っぱらから来させなくたっていいだろうが。
ちなみに今は7アワーズ近くである……十分人間の活動範囲内だ。結局自分が怠け者であることに、まだ本人は気付いていない。
キャップは一つ大きな欠伸をして上半身裸の上にスペースマンスーツを引っ掛けると、ドクを中に入れた。
「まあ、座れや。いっぱいどうだ」
ドクをベッドの端に座らせると自分はベッドの上であぐらをかき、自ら不文律を破って持っている酒のボトルを見せた。
本人にしてみりゃ「不文律なら破ったって構わんだろうが」とでも言うつもりだろうが。
「……まだ7アワーズですよ?」
「それがどうした」
キャップはそう言ってのけるとコルクの栓を派手に抜き取り、二つのコップに注ごうとした。
「お構いなく。夕食前にお酒は飲まないことしてるんです。……みんなには言いませんから、そのボトル早くしまった方がいいんじゃないですか?」
ドクに言われて一つ舌打ちすると、渋々ながらキャップは酒をしまい込んだ。
「……あのー……私はどうすればいいんでしょうかね」
困ったようにドクが言った。
「行けばわかるって、マイクに言われてきたんですが」
……マイクのバーロー! 再びディアスは、心の中でマイクに文句を言った。こっちが切り出しにくいような口実でこさせるんじゃねえ!
「あー……それな。実はアラハンの反乱軍への差し入れのことなんだがな」
「あぁ、あの武器の密輸ですか」
「……まあ、そのことはおいおい話すとしてだな……」
まずディアスが話したのは、昨夜のマイクとの会話だった。無論、自分が酒瓶を探し回っていたところを見つかったのは抜いて。
「……なんて、マイクの野郎は当て推量をしやがったんだけれどな」
「しかし、マイクらしい論理展開ですね」
「やつならその論理で、黒でも白といん含められるだろ。だから、うちのマネージャーやってんだ」
「的外れだったんですか? マイクの考えは」
「ああ……それな……」
酒が飲めなくて口寂しいのかディアスはタバコを一本くわえたが、火もつけないうちに突然ドクの服の襟首を掴んで引き寄せた。
「ドク! おめえ、男だな!?」
「は?」
「お と こ だ よ なっ!?」
「は、はい。そうです」
「そうか。俺も男だ。お前も男なら、男と男の約束を反故にするような真似はしねえよな?」
「それはもう」
どういう約束かも知らないうちに、基本的に熱血漢であるドクはドンと胸を叩いて言った。
「不祥、アーサー・カンツォーリオ、一度約束したことを翻すような卑劣な真似はしません」
「そうかい」
それを聞くと、まずキャップは襟首から手を離してタバコに火をつけた。
「いいか。これから言うことは絶対誰にも、特にマイクには言うんじゃねえぞ」
「……はい」
「実はな、あながち的外れじゃねえんだよ、マイクの考え」
「え……」
ドクは驚いた。
「じゃあ、本気でこの荷物を横流しする気でいたんですか?」
「まあ、似たようなことは考えていたけどよ」
「……キャップ」
突然言ってきたドクをキャップは見た。
「あなた、船長ですよね」
「ヘ?」
「船 長 でしたよねっ!?」
「あ? あ、ああ、そうだよ」
あ、まじ怒ってんな。
「その船長が、約束を違えて荷物を勝手に処分して、いいと思ってるんですか!?」
普段大声を出さない人間が凄まじい勢いで怒る時ほど、恐ろしいものはない。しかも正義の味方を辞任している人ほど、厄介なこともない。
「まあまあ 、落ち着け。どうどう」
「……私は馬ですか」
「おう。少し落ち着いたらしいな」
ふてぶてしいまでのキャップの態度を見て、ついついドクの怒りも消し飛んでしまったらしい。
「マイク怒ったんじゃないですか? そういうことはマイクが一番許せないことでしょうに」
「いや、別に。俺がシラを切り通しだったんで、呆れてたんじゃねえか?」
灰が今にも落ちそうなのに気がついて灰皿にタバコの灰を落とすと、ふてぶでしさからまるで手の内にロイヤルストレートフラッシュを隠し持ってるような笑いへとディアスの態度が変化した。
「ところでドクトル・カンツォーリオ。実は、かの有名なあのモーリー博士でさえご存知でない事実を、俺は知ってんだがね」
「なんです? それは」
「俺が頼まれたのはな」
ディアスは言った。
「トルトニウムの差し入れじゃねえ。言うなら、その逆さ」
「逆?」
ドクはチェシャキャットみたいなニヤニヤ笑いを浮かべたディアスを、あっけにとられたように見つめた。




