ミーティング3
……出向の許可が下りた。
しかも保証金も降りた。見舞金とは銘打ってあるがとにかく内容は保証金だ、うん。
なんだい、不思議そうだね。
別にディアスがステーションを脅したわけじゃないんだよ? アレックスがお金盗み出したわけじゃないし、セラがコンピューターに命じて出させたわけでもないんだよ? もちろんドクが怒鳴り込んだわけでもない。(安心した?)
ごくごく平和的に、マイクがステーションに行って話し合った結果なんだよ? 無論、話し合いというのがどういうものだったかは知らないけど。そういえば後でヘルメス号に見舞金を渡しに来たステーションの人、随分やつれてたな、どーしたんだろー。
それから商船協会の方から保険が下りた。マイクが今までコツコツと積み上げてきたのが報われて、やっと備品の補充ができるようになった。
「今頃ヘルメス号は、備品の取り替えで大忙しだろうなあ」
ここは駐船場の食堂。ステーションなら喫茶室があるのだけど、ここには食堂しかない。そこにマイクとセラが来ていた。
ヘルメス号が忙しいんなら行けばいいのに、マイクは「僕はあいにく頭脳労働者ですんでね、肉体労働は肉体労働者に任せるよ」と言ってさっさと来ちゃうし、セラは前にも言ったけど、普通なら出港までやることはないんだ、彼は。
それでも一応、掃除だけはしてきたけどね。セラがやったら早い早い。セラが動かなくても風が手足となって行ってくれるからだけど、それをやったせいで今は少しぐったりとしていた。
「横になってた方が良くはないかい?」
「え? いや、大丈夫ですから」
セラは元気だって見せるために、少し微笑んでみせた。
「やっぱりどこか具合が悪いんじゃないのか? 今までだってあれくらいの力は見てきたけど、そんなになることはなかったじゃないか」
「……この頃修業、怠けてましたからね。他の人のように細々としたことばかりに心がとらわれていて解放してやりませんでしたから、いきなりさっきみたいに風とコンタクトしようとしても、なかなか向こうと同じぐらいのところまで心を大きくできなくって」
「うーん……」
困ったようにマイクは呻くと、少し頭をかいた。
「ちょっとよくわからないけど、つまるところ別に体が悪いわけじゃないのか」
「はい」
はっきりとしたセラの言葉に、一応マイクは安心した。
「そうだ」
ふと思いついたように、マイクが言った。
「そういえばまだ聞いてなかったっけ。どうだった、図書館での収穫は?」
「えーと……。ここにまとめたノートを持ってきてないんですけど……」
「いいよいいよ。うろ覚えでいいから、何か気になったことがあったら言ってくれないかな」
「それじゃあ」
セラは話し始めた。
「まず一つ気になったのは、船長がいったいどちらの反乱軍に武器を渡すつもりなんだろう、ってことなんです」
「“どちらの”?」
「今、アラハン政府と対抗している反乱軍は二つあるんです、マイク」
セラの話によると。
ウィリアム・マルカナが軍部と手を結び、政府に反旗を翻した。
それに対し政府も傭兵を雇い対抗した。
元々マルカナは政界での権力争いに負けて追い出された俗人だったものだから、マルカナ氏が作った反乱軍もそういう権力色に覆われていった。つまり、悪い意味でこの星には政府が二つあって、ちょっとキケンな政界闘争を広げていたのだ。
ところが3年前、そのマルカナ系の反乱軍から分離して、それとは別に政府軍に反旗を翻す団体があらわれた。
彼らはアラハニア・ドリーマーズを名乗り、ジュリアス・ロモンと名乗る青年を中心として政府軍や反乱軍と戦いを始めた。
ドリーマーズは人民のための政治、政財界の癒着の禁止、それからアラハンの中心産業の一つであるウィトゥリアンという物質の販売停止、不公平税制の緩和、一党独裁政権の打倒、傭兵の追放等を求めて戦っているのだ。
今、アラハンではこれらによる三つ巴の戦いが繰り広げられている……。
「まあ、多分船長が力を貸すのならドリーマーズの方なんでしょうけどね。それにしては船長もはっきり言わなかったから」
「実際、今回のキャップの態度は変ではある。いつもならもう少しいろんな計画を自慢げに話すところなのに、何も言わんのだからな」
しみじみとマイクが言った。
「……一度吊るし上げる必要があるかな」
「……過激だなあ」
呆れたようなセラの声に一瞬いたずら坊主のようにくしゃっと笑ってみせたマイクは、またすぐにいつものとぼけたような顔に戻った。
「で、他には何かあったかい?」
「アラハンとは別に関係はないんですけど、今回の仕事と関わりがありそうなのがひとつ」
「なんだね?」
「海賊です。しかもトルトニウムばかりを狙う」
「海賊。キャップやアレックスが聞いたらコースを変更してでも会いたがるだろうなあ」
「いえ、変更はしませんよ、多分。海賊が出没するのはアルゴム星系、アレキス星系両方面ですから」
「……ちょっと。それじゃあ、真っ正面からぶつかるじゃないか」
「ええ、そうなんです。だから、もしかしたら僕らを狙ったのもその一味じゃないかなと思って」
「うーん……」
マイクは頭を抱え込んでしまった。
「しかし普通なら海賊が自分の持ち場を離れるということは少ないし……。とはいうものの無関係ではなさそうだしなあ……」
少しの間そうやって考え込んでいたマイクだったが、突然頭を上げると。
「やはり海賊のやつらが僕らを襲ったとは思えないな。第一彼らが海賊の一味なら、なんでクルーを殺そうとする理由があるんだ? クルーがいなければ自分たちのところへトルトニウムを運んでもらえないじゃないか。しかもその気になればトルトニウムを持ち出せたのに持っていかなかったし」
そしてセラを見て言った。
「今のところは二つの勢力がいると考えておいた方が無難だろうね」
「……そうかもしれませんね」
そう言ってセラは紅茶を口に運んだが、まだ釈然としないようだ。……ジプシーの第六感にひっかかるものがあるのかもしれない。




