ミーティング1
「心当たりは?」
ディアスが放り出した新聞を、読んだセラが聞いた。
「……ありすぎるな」
「だろうね」
お茶を飲みながらマイクが言った。
「そーゆーお前はどーなんだよっ」
ディアスがむきになっていうのを横目で見ながら、マイクは言った。
「僕の場合に関しては、対象は僕じゃなくてヘルメス号ですしね。恨みを買う覚えは僕を含めて、まあ、ドクとセラにはないでしょうね。ヘルメスはもちろんのことですが」
「俺は?」
一人抜かされた人間が尋ねた。
「ないのかい? 覚えが」
「うんにゃ……ある」
「なら言うもんじゃない」
マイクに窘められても、まだアレックスは割に合わないような顔をしていた。
全員は、あの偽職員たちの被害が一番少ない指令室に集まっていた。昨夜はほとんどゴミ箱のような各個室で寝たクルー達だった。ディアスはイライラ様子を隠そうともしていなかった。
「それにしてもなんなんだ、奴らは。本気で殺すつもりにしては中途半端なところが多くないか?」
「多い、ですね」
「そうですか?」
ディアスとマイクの話にドクが入り込んだ。
「私の場合は、一つ間違えば死んでたと思いますよ。実際あそこで馬鹿力が出なかったら、間違いなく死んでましたね」
「確かにそうではあるけどね」
マネージャーが言い返した。
「なんといっても詰めが甘い」
「甘い。確かに甘い」
アレックスが口を挟んだ。
「俺があんな程度の奴らにのされると思うなんてのは、考えが甘いってもんさ」
「確かに馬鹿なやり方だ。特に星間ジプシーにブラスター向けるなんざ、愚の骨頂じゃねえか。
“殺し屋殺すにゃ刃物はいらぬ ジプシー殺せと言えばいい”ってぇのを知らねえのかね」
「でも船長の場合、性格をよく捉えてると思うけどなぁ」
セラが言った。
「女性に喧嘩にお酒、でしょう? もし薬が粉状だったり液状だったりしたら、とっくにここにはいなかったでしょうね」
「あ、それは言える。そこのところだけはもー十分に言える」
「馬鹿野郎。悪かったな」
アレックスが手を叩いて喜ぶので、ディアスはしょぼくれて、そっぽを向いた。
「……キャップ。女の子じゃあるまいし、拗ねても可愛くないですよ」
「……」
男が可愛くなくったって大したことなんざねーよ、とディアスは言いたかったが、情けなくなりそうなのでやめた。
「それにしても、相手は全員亡くなられたんですね」
セラが新しい展開に話を持って行ったので、これ幸いとキャップも話に入ってきた。
「これはもう、口封じ以外の何者でもねえな」
「ということは、まだ他にもいるということかい」
うんざりと言うか、疲れ切った表情でマイクが言った。
「僕はもうこれ以上、備品補充に金をかけるのはごめんだぞ」
あ、真意はそっちにあるわけね。
「それにしても、おい、キャップ。本当に心当たりはないのかよ。
奴らは個人個人を狙ってるわけじゃなくて、たぶんヘルメス号のクルーを狙ってるんだぜ? 恨まれるようなことでもしたんだじゃねえのか?」
「アレックス。恨まれるんなら、お前も同罪だろーが。この3年だけでもぶっ潰した組織は両手の指じゃ足りねえし、それに手ぇ下したのはお前だろーが」
「あ、きったね。俺は、キャップがやれっつーたから行っただけだぜ?」
「一番楽しんでいたのはお前だろーが」
出ました! ヘルメス号名物“責任転嫁”!
「……もしかして、漏れたとか」
ふと、ドクが言った。
「何が?」
「武器密輸計画ですよ」
「なんだ? 武器密輸ってぇのは」
惚けたようにディアスが言うのを聞いて、周りの人達は呆れ返った。
「何言ってるんです。言い出したのはキャップでしょう? ほら、アレキス星系の。アラハンの」
「あ! あーあー! そうだった、そうだった」
「……いくら外見はごまかしても、やはり60年という齢には勝てなかったか。ついにボケてしまうとは……」
しみじみと言うマイクにディアスが吠える。
「誰がボケとるっつーんだ、え? この、中年男!」
「まあまあ、いい加減にしてくださいよ。それ以上続けたら、泥沼じゃないですか」
……ドクの『まあまあ攻撃』には誰も勝てない。
「でも」
セラが言った。
「漏れたとしたらどこからだろう?」
「決まってるさぁ」
自分の席に体を投げ出して、ぐたっと座っていたアレックスが言った。
「キャップがどっかの情報屋についつい漏らしちまったんだろ? おい、ハワード、コーヒーぐらい出せよ」
「無理デス。シバラクノ間 こーひーハ 飲メマセンヨ。偽職員ノヤツラガ こーひー豆ノ入ッテイタ袋ヲ破ッテ 豆ヲ バラマイテシマッタンデ 今、収集中デス」
「あんの、偽もんやろう!!」
それを聞いて、やっと彼らに復讐の念を抱いたようなレックスだった。
「おい、アレックス」
珍しくディアスが間に入った。
「盛り上がるのもいいが、それは奴らに会った時にしておけ。
それに俺は計画のことは一言もいっちゃいねーぜ。たとえ気づかれたとしても、みんな俺の古いなじみばかりだ。口を割るような奴らじゃねえ」
「でも、僕はたとえそこから漏れたとしても、それが原因じゃないような気がするんですよね」
セラの反論に一瞬、全員が口を閉じた。
「なんでだ?」
「聞いたんです。僕にブラスターを向けた人の、心の声を」
そこでセラは、接触テレパスで聞いたことを話した。
「この『トルト……』というのはトルトニウムのことだと思うんです。だとしたら、僕らが狙われる原因はトルトニウムにあるんじゃ……」
「いやいやいやいや、そーとは限らんぜ」
勢い込んでキャップが言った。
「ほら、その後に『ごめん帰れ……』とかなんとか言ってんだろ? だとしたらそれは、家族や恋人の名の一部かもしれんぜ? ほら例えば、トルトンだの、トルトニアだのさぁ」
「やけに力を入れてきますね」
疑い深そうにマイクロフトが言った。
「何か心当たりでもあるんじゃないですか? え?」
「いいや、ないない」
「本当ですか?」
「あのなー、俺はこの船の船長だぞ! 船長! その船長が信じられねぇのかよ!」
「ハイ」
突然のハワードの介入に皆ずっこけた。
「何でそこにお前が入ってくるんだ、え?」
「内蔵シテイル嘘発見器ノ結果ヲ オ伝エシタダケデスヨ」
「そうですかぁ」
「そうだろうと思ったんだよなー」
「やっぱり化けの皮が剥がれましたね」
「素直に言った方がいいみたいですよ?」
「お前らー」
口々に言ってくる皆にたまりかねて、大声をあげたキャップであった。
「ア、ソウソウ。まいくろふとサン、めっせーじガ すてーしょんカラ来テマスヨ」
これを聞いてディアスは、一瞬目が点になった。
「あ、てめえ、それならさっさとそれだけ言ってよかっただろうが!」
「根ッカラノ正直者ナモンデスカラー」
「こらこら遊んでるんじゃないよ。ヘルメス、プリントアウトしておいてくれ」
「いえっさー」
打ち出されてきた紙片をマイクは手に取ってみた。
「やっと手続きが降りましたか?」
ドクが聞くのにマイクは読んでいる姿勢そのままで。
「いや、それとはちょっと別の件でね……」
そして視線を残したまま頭を起こすと、指で紙片を弾いた。
「こんなことだろうと思ってたけどね」
「どったの、マイク?」
「この前壊された分の一部でもいいから払ってくれないかなと思ってたんだがね。まさか一か月間、ゴミ箱の中で暮らすわけにもいかないしさ。読んでみたまえ」
手渡された紙片をアレックスは読んでみた。
「えーっと……。『補償金の件についてお答えいたします。当ステーションに設置しております三種の保障制度のうち、第一番目であります事故補償はこの場合適用されません。次の盗難補償も、盗難による被害のない以上適用されません。最後の刑事補償も未だ捜査の進行状況がはっきりせず、実際に』……『実際に事件が起こったかどうかの立証ができないため、適用できません。したがって当局への補償金は出ません。あしからず』っ!? 馬鹿にしやがって!!」
アレックスは顔を真っ赤にさせてペラペラの紙を床にたたきつけた。……器用なやつ……。
「僕らがおカネ目当てに芝居をうった可能性があると言いたいわけですか」
セラが言うのに、キャップは苦虫を潰したような顔をした。
「お見事お見事。これも奴らの仕業だってんなら、俺は逆立ちしながら拍手してやってもいいぜ」
「間違っている!!」
いきなり机を叩いて叫んだ者がいた。ドクだった。え?
「私たちは法を守り、穏やかに暮らしている一市民じゃないか! それなのに害を及ぼしたものも罰せず、被害を受けた者に何の庇護をも与えないとは、何を考えているんだ!」
いきなり演説ぶるドクを見て、回りはオロオロしだした。
「おいおい、ドク。大丈夫か」
「あの、目が座ってますよ?」
「あの偽者たちがステーションに圧力をかけたのか!?」
まだ演説は続いている。
「そうに違いない! 違うなら、なぜいわれのない悪名を私達に着せるんだ! よし、掛け合って確かめてやる!」
ドクはすっくと立ち上がり、おもむろに指令室から出て行こうとした。
四人は慌てて抱きとめた。
「まあまあ落ち着け、ドク。いくら言ったってそんなこと言うわけねえだろうが!」
「言わせてみせます!」
「とにかく落ち着けって!」
傍から見ていると、いつも落ち着いて仲介をしてるドクがいきりたち、いつもはその仲介を受けてるキャップが一生懸命になだめているのって。
……意外と面白いと思う。
「とにかく落ち着け、ドク!」




