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30章 遺跡突入準備

マター博士との話を終えても尚、彼女たちはソフトクリームを食べていた。

白い渦巻きが小さくも、視界の中に映っている。その冷たさを何処か感じ、"食後"として食べたくなってしまう。

彼もやはり我慢出来ず、そのまま椅子から立ち上がっては小走りで向かう。

彼女たちもやって来た彼の存在に気づき、優しくも彼の分まで用意してくれた。


「…あ、ありがとな」


「…で、貴方も行くの?話はマター博士から聞いたでしょ」


「…当たり前だ。未踏の地に趨けるなんて、考古学者からしたら嬉しい話だろ」


彼は立ちながら、付属されたプラスチックのスプーンでソフトクリームをよそって食べる。

カップの形状に入れられた白い台風は彼の中で美味しさを渦巻かせる。

赤々とした舌を降り行く雪のように白くさせて、皚皚の色に変貌させる。

やはり甘いものは美味しい。大人ぶって食べない事が到底馬鹿らしく思えてきたのだ。

搾りたてと言う事も含めてか、極めて濃厚な牛乳の味わいが口内で繰り広げられる。


「…でも、私たちの後をつけて奴らが追いかけてくるかもね。

―――まあ、其れはそれで楽しいかもしれないけど」


「………俺の車を破壊した奴らを許してはいけない」


戒めのように彼が言うと、彼女は案の定かと頷いた。

こいしとケット・シーは既に食べ終えて、暇なのかフロントにあるテレビを観ている。

慧音は再び腹が減ったのか、皿を持ってはバイキングを再開する。

彼は静かな世界の中、目の前にいるパチュリーと話を続けた。


「…まあ、私たちは私たちの役目に専念すべきね。

―――何時か戦争も激化状態に入って、この安穏が消える日が絶対来るわ。

…其れまでに遺跡の調査は終わらせないと、過去には戻れないからね」


彼女は真剣にそういい残すと、そのままマター博士たちの元へ去ってしまった。

彼は1人、その場に佇んだ。何処か引け目を感じて、悲しみを募らせた。

…今も尚、人の命は1つ、また1つと消えていく。そんな事象に何も手を出せない自分に…。


…ホテルは今日も平和に営業している。

しかし、今が戦時中であることに対しては何ら変わりは無い。安穏も、所詮は表面上だけだ。

彼は満腹になってないが、丁度7分目くらいで抑えた。普通に食べた感覚がする。

天井ではシャンデリアが太陽の眩しい光と共に広々とした室内を更に照らす。其れも相俟って、彼は何処か遠くに望む水平線が見えたような気がした。


◆◆◆


会計を済ませ、彼らはそのまま研究所へ帰った。

近くの自販機で売っていたWANDAのモーニングコーヒーを購入し、それを懐に仕舞う。

やはり外の空気は冷たい。腕時計は時刻を午前9時半と指し示していた。


「…さて、今から遺跡に赴くための準備をするかぁ」


大きく背伸びをして、明日に赴く予定の遺跡に向けて彼は準備をすることにした。

車から降り立った彼は早速遺跡に戻ろうとするが、暇そうなパチュリーは彼の後ろをついていった。

そんな滑稽な姿に慧音とマター博士は微笑んでいた。


「…思いは伝えにくい、ってものね」


「…青春は二度と訪れない。ああいうのを眺めてるだけで、古くて懐かしい過去が蘇る気がするのう」


2人は何も気づかない鈍感な彼に思いを寄せていた彼女に、哀愁を抱いた。

過去は二度と帰らない。ただ、似たようなものは現実で起こせるのだ。


◆◆◆


その日は宵闇へと消え、遂に遺跡探索当日が訪れた。

市街地まで赴き、ホームセンターでレポート用紙や縄、ピッケルなど探索には欠かせない道具を買いに行ったのだ。

パチュリーは既に準備が出来てると言っていたが、どうやら繕うための嘘だったことが発覚し、一緒についてきた。何とも言えない気持ちのまま、彼は彼女を受け入れた。


「…私の嘘、怒ってないよね」


「…怒る理由が無いだろう」


朝になって、準備が完全に整った彼らはジェネシスの部屋で話していた。

ジェネシスは考古学者らしい恰好を志したのか、茶煤けた服を纏い、縄と護身用の拳銃、そして鞭などの遺跡散策で使える小道具を仕舞った下げ鞄を肩から提げ、いざという時の為のブレイズバリスタを仕舞った鞘を背中に背負った。

スマホを懐に、軽い装備が重要視される遺跡探索に於いて最善の選択を取ったのだ。パチュリーも同じような態勢だ。


「…こいしも準備万端だよ!」


手をバタバタさせて2人の元にやって来たこいしも、如何にも考古学者のような身振りだ。

トレードマークである帽子を深く被って、小道具をしっかりと下げ鞄の中に仕舞っている。

二丁銃を何時でも取り出せるように2つの懐の中に小奇麗に片づけている。


「…GPS情報だと、熱帯雨林の奥深く…深淵だな。

―――何があるか分からないし、軍隊アリとかも余裕で群生している。下手したら死ぬぞ」


「…分かってるわ。…でも此れが考古学者の運命でしょ。

―――それに、派手なアクション映画は好きよ、私は」


…そうだ、此れから彼らの壮大な冒険譚が―――――始まるのだ。

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