31章 遭遇したカーチェイス
観測された遺跡に向かう為に国が用意したバギーは黄色い…ジープであった。
バギーは個人や2人乗り専用の全地形対応車に対し、ジープは多人数乗りである。最初から間違いは予測していた彼は、駐車場での光景に嗚呼、と呻ってみせた。
多くの白衣の考古学者に用意を手伝いされながら、新たな遺跡への道のりを静かに狭めていく。
「…わしも、久々の冒険じゃのう。…そういやチャカ・リプカは…」
「あんな遺跡、知りませんね。行こうと思えば墜落させられて、今や私は飛行機恐怖症を患いました。これもチャカ・リプカの神聖なる力だと思うと、納得せざるを得ませんよ」
冗談交じりで本当の事を述べた彼は、二度と飛行機に乗るのを嫌悪していた。
仕事で用いるよう言われようが、全力で彼は拒否するだろう。…それも其の筈、曾て乗っていた飛行機でテロが起きて、結局何百人も死に急いでしまったらしい。
そしてフィラデルフィアがハルバード王国へ宣戦布告した主な理由となっている。
「…こいしね、初めての遺跡探索だよ!ワクワクする!」
「遺跡探索はワクワクなんてものじゃない。常に死と隣り合わせだ」
こいしの持っていた幻想を撃ち砕くかのように言い放つジェネシス。
彼はマター博士に教わったとはいえ、何年も此処で働く存在である。
何度か遺跡探索に行ったことはあるが、困った事にシュトラ文明などは極めて高い知識を持っており、志半ばで壊滅した文明であるため、遺跡にも何らかの仕掛けは施してある。
侵入者撃退用の罠に掛かり、曾てはつり天井で死にかけたことだってある。その時は慧音のお陰で助かったが、何が起こるかなんて分かるものじゃない。
尤も、新約水晶髑髏聖書によればシュトラ文明はクリスタル・スカルの力を受けて成り立った文明であるが。
「…でも、何だかんだで楽しみにしてたんでしょ?…ジェネシス」
慧音は運転席に座りながら、彼を見据えて静かに述べた。
辛辣な表情を浮かべる彼の本質を見抜いてたのか、彼の顔の形は一気に崩れていく。
柔和した彼は溜息を一つ、落ち着いて吐くと背負っている鞘の存在をしっかりと柔らかな掌で触れて確認する。
暖かな温もりとは相反的に、鋼の冷淡さがしみじみと伝わってくる。
「…私は…別に」
「此処でツンデレを披露してても、何の意味も無いよ!」
こいしに諭されて、再び溜息を一つ吐く彼。
自分自身、思ったことを述べただけでツンデレ扱いにされるとは…と困惑や当惑を抱きながらも、静かにジープの後ろの席に乗り込んだ。
既にパチュリーが乗っている。そして彼が乗りこんだ後、こいしが挟み撃ちを掛けるように乗り込んできたのだ。サンドイッチにされたかのような彼は居心地を悪くしながら、真上に開ける大空を見据えていた。
―――――今日は雲一つない、美しい天気だ。素晴らしい眺めも、また一興。
「…寄りによって、こんな状況なのね、ジェネシス」
「…ああ、その通りだな。…漢字で表せば『嫐』、だな。意味は聞くな」
こいしの肩の上には、いつの間にかケット・シーが乗っていた。
ふさふさした毛は太陽の光を吸収し、普段よりも暖かな肌触りとなっていた。
全員の乗車を確認すると、駐車場にいた多くの考古学者たちに見送られた中、ジープは出発した。
慧音やマター博士、こいしは彼らに返しのさよならを告げていた。
しかし、パチュリーとジェネシスは多人数の中に晒された環境を好ましくさえ思っていないようであった、
早く出発して欲しいのか、退屈そうな顔を浮かべて…。
◆◆◆
熱帯雨林の中に中途半端に敷かれたコンクリート整備も、進むうちに無くなってしまった。
GPSで場所を特定しながらも、ジープは鬱蒼とした木々の中を進んでいく。
アマゾンと言う熱帯雨林は、遥か昔に消えてしまったという。其れも人間が材質確保の為に荒らした結果だというのである。
何年前かは忘れたが、おおよそ30年前ぐらいであろうか。
フィラデルフィアの熱帯雨林は全くの手つかずで、材質確保の為に入った貪欲な業者も、帰ってこないのが現状だ。まるで熱帯雨林全体に何かの魔法が掛かっているかのように…。
彼は後ろに何処か気を感じながらも、座っていた。
木々の根っこや隆起した土壌などを進んでいくジープの揺れは激しいものであった。
パチュリーは車酔いし、こいしはジェットコースター感覚で楽しんでいる。年によってこんなにも違うのか、と日に日に増える年齢への畏怖を彼は感じた。
「…おぇ…おぇぇ…」
「汚いぞ、パチュリー」
「…車酔いは誰にだってあるのよ…おぇぇ…」
事前に持ってきていたのか、車酔い止めを急いで飲む彼女。
何とか事態を取り戻し、元の常体に立て直った彼女は尖った発言をしてきた彼を押し倒した。
グーパンチ一発が、彼の懐に飛んでいく。勢いよく彼はそのまま席の背凭れに凭れ掛かるようにして倒れた。
「…ひでぇ」
「車酔いしてる人に対して『汚い』だの侮辱してくる貴方の方が酷いと思うんですけど…」
「いやー…あはははは…」
彼は倒れたまま、起き上がろうとした時であった。
最初から後ろに気配を感じていたが、やはり実態を見ると…"笑うしかない"。
ジェネシスたちのジープの後をつけて、軍用車で走っていたのは―――ハルバード軍だった。
「…お久しぶりね、ジェネシス」
「…あ、どうも…お久しぶりです、さとりさん…あはははは…」
凭れ掛かったまま、目が会う2人。
最初はお互いがニコニコ笑っていたが、其れはあくまでも演技上であった―――。
繕われた演技に気づいた彼も焦り、呑気に過ごしていた彼女たちにもすぐ伝える。
慌てていた彼にいち早く察したのが、こいしの肩の上で彼女と仲良く話していたケット・シーだった。
「…ん?どうしたん、ジェネシスはん」
「来た、奴らが来た」
緊張と焦りで片言言葉しか話せない彼は身振りで必死に後方を示した。
其処には笑顔で拳銃を向けていたさとりの姿があった。
多くの仲間である兵士を連れ、遺跡調査に趨かんとする彼らを追跡して―――。
「……………撃て――――!」
◆◆◆
笑顔から豹変し、桃色の髪を靡かせて大声を発する彼女。
その瞬間、全員が気づいたと同時に銃声が発せられ、一先ずはしゃがんで時を過ごす。
流石に慧音とマター博士も気づき、焦りの色を見せたと同時に2人へ当たる風がより一層重くなった。
「こんな時にも、奴らは………!」
全速力を出すジープに対し、さとりたちも見失わないように追跡を行っていた。
放たれる銃声の中、相手を撃退する為にも後方座席のジェネシスたちは拳銃だけ外に向けて無差別に撃つ。
相手は身を乗り出して射撃しているため、何人かが倒れる音が鼓膜の中で響き渡る。
「…新たな遺跡には行かせないわよ」
「…どうしてこうなるの~!?」
弱音を吐きながらも射撃を行う彼。
慧音は必死に前を観て運転し、マター博士はGPSで位置をしっかりと特定している。
「ジェネシス!ケット・シー!こいし!パチュリー!
―――貴方たちに守備は任せたわ!だから、運転はこっちが保証するわ!」
「そうじゃ!わしは自負するのも何だが、方角に関しては得意分野じゃ!
そなたたちは防衛の事だけを考えているんじゃ!」
「わ、分かってるわ!」
パチュリーの声が風に乗って響く。
銃声が響く中、次々とさとりたちの仲間の兵士は撃たれて死んでいく。
邪魔になった死体で車の面積が埋められないよう、足で蹴落としていくさとり。
辛い表情をして、銃撃戦では対等に持ちこめない事が分かると運転席に命令を下す。
「スピードを上げろ!私が直々に戦う!」
「はいっ!」
気持ちがいいほど清々しい返事と共に、軍用車は勢いを上げて熱帯雨林の中を走行する。
やがて並走になると、しゃがんでは後方防衛に尽力していたジェネシスたちに向けて銃声を発する。
すぐさま気づいた彼は大剣を盾代わりに銃弾を防いでいく。
「…余りそう言うのは感心しないわね!」
電気ロッドを持ち、電気を靡かせた状態で敵の軍用車に乗りかかったパチュリー。
敵の陣地を破壊すべく、さとりにも襲撃し、銃声は鳴りやんだ。
女同士の意地の戦いが開幕し、其処にこいしも参戦した。
「あんたなんか考古学者の面して他人の研究結果しかパクれない屑の中の屑よ!」
「何を!?腕立て腹筋背筋も出来なさそうな弱い体つきの貴方が何を言えるのよ!?」
いつの間にか敵陣地はビンタ合戦になっており、風の中で清々しいくらい鮮烈な音が響き渡る。
其処にこいしが乱入、追撃を加えるとバランスを崩したさとりはそのまま車の上で倒れてしまう。
顔を覗き込む2人。どっちも浮かべた顔は、男にとってはこの世の崩壊のようなものだ。
「さ、さとり様に手を出すな―――!」
隠れていた兵士が2人に襲い掛かるや、こいしはそのまま彼をジェネシスたちのバギーの中へ投げ込んでしまう。そのまま兵士はジェネシスの膝を枕とするかのように飛び込んでくる。
まるで耳かきをして貰っている親子のような絵であった。
「…おっす」
「…うっす」
簡単な挨拶を交わした後、すぐさま取っ組み合いになる彼ら。
軍用車の上では兵士が襲撃した隙を狙って起き上がった彼女たちがビンタ合戦を繰り広げている。
ジェネシスと同じ体格の兵士は車の上でお互いの服を引っ張りあったり、グーパンチで威勢よく殴ったりと暴力沙汰になっていた。
「おらぁっ!」
殴りあいの中、隙を見計らったジェネシスは勢いよく殴ると、そのまま兵士は車から落とされ、彼の視界の中から遠くに消えてしまった。
一方、さとりたちはビンタ合戦を続けているらしいが、2つの車の間に木々が隔て始め、やがて分岐することとなった。ジェネシスたちからは見えなくなったが、きっと勝つだろうなと予測していた。
パチュリーは疲弊を感じながらも、さとりと頬のビンタ合戦を行っていた。
熱帯雨林の端まで走行していた軍用車は崖擦れ擦れの場所を疾走している。
内側に寄りたくても、熱帯雨林の壁が出来ていて入れないのだ。
「落ちなさい!」
さとりはパチュリーを崖側まで追い詰め、ビンタの一撃を蒙らせる。
その一撃は神経にまで届いたのか、痺れた一撃を受けた彼女は酔いながらフラフラする。
その隙を見てさとりは両手で崖下に押し出そうとするが、此処で制止に掛かったのがこいしであった。
「そうはさせないよ!」
彼女はさとりがパチュリーを押し出そうとした瞬間、拳銃で彼女の右肩を射貫いたのだ。
血しぶきが出たと同時に脱力した彼女は倒れ、パチュリーの一転攻勢となる。
倒れていた彼女の胸倉を掴み、崖下に落とそうとした瞬間、運転手が覚悟を決めて襲い掛かったのだ。
しかしパチュリーはさとりと言う武器で薙ぎ払い、運転士は断末魔を上げて崖下へ落下した。
運転士が不在になった事で不安定になった軍用車はそのまま崖へ落下しそうになるが、こいしが運転代理を務めた。
器用な手裁きで何とか車を崖から離し、パチュリーはさとりを威勢よく―――突き落した。
「死になさい!」
さとりは落とされたが、土壌が突出した部分に鞭を放ち、何とか掴む。…そう、助かったのだ。
命綱として助かった彼女は足下が空虚な中、何とか鞭を登って元の大地に降り立った。
「…チッ、次は覚悟しなさい」
今まで乗っていた車のエンジン音がドップラー現象として耳の中に段々小さくなって響く。
彼女はその場で佇み、決して車を追いかけるような真似はしなかった。だが、汚くなった自分の服を見ては、彼らへの怒りを更に募らせた。
◆◆◆
2つの車は途中で合流し、再会する。
パチュリーは疲れ切った顔でジェネシスを見据えるや、彼もまた殴りあいで負傷していた。
鼻の下から出血し、唇は切れ、頬には痣が出来ている。兵士との格闘の凄まじさが其処から垣間見えた。
「…お疲れね、ジェネシス」
「お前もだな。パチュリー」
お互いを慰め合い、何時もは見せない笑みをお互いが浮かべた…その瞬間。
バックミラーで確認したケット・シーは後続の存在を2人に知らせる。
「お互いいいムードの途中で悪いはんねんけど、まだ敵はおるで!」
その瞬間、熱帯雨林の中から迷彩を象ったハルバード軍の軍用車が現れたのだ。
其処に立っていたのは、如何にも見た目が偉そうな黒いマントや帽子を被った存在であった。
それをバックミラーで見た瞬間、マター博士は驚いた顔を見せる。
「あ、あれは…ハルバード王国の機械軍壱號式枢機卿…"霧雨魔梨沙"じゃ…!」
畏怖したような様子を見せて、彼は怯え始める。
そんなマター博士に気づいた慧音は深呼吸をすると、運転を彼に任せた。
「…マター博士。ここは私たちに任せてください。…所長と言いながらも、私だって拳で戦えるんですから!」
「…分かった」
彼が運転役になり、慧音もガントレットを装着して、後続に迫る壱號式枢機卿を見据えた。
見下している魔梨沙はジェネシスたちを見ては薄笑いを浮かべ、拳銃を取り出した。
何人かの兵士たちを従え、マントを風に靡かせて直立不動している姿は、何処となくクールに見えてしまう。
「…馬鹿げた真似をするからだ。…最初から純情になればいいものを…。
……………撃て――――――――!」
◆◆◆
彼女の掛け声と共に一斉放射された銃弾。
ここで慧音はこいしが運転する軍用車にジャンプして移り、ケット・シーとジェネシスはしゃがんで銃撃戦に入る。銃声が飛び交う中、向こうの兵士たち何人かがジェネシスたちの銃弾に直撃して倒れていく。
ジェネシスは隠れているため、向こう側の世界が見えない。だが、見た瞬間に狙撃されて絶命するだろう。
銃撃戦が行われている間、こいしが運転する軍用車は見えないように2台の車から離れ、スピードを落としていた。銃撃戦を行っている魔梨沙たちへの車に背後から忍び近づく…とパチュリーは思って"いた"。
「ええーい!派手に行くよー!」
「ちょ!?え、…ええ!?」
熱帯雨林の中に姿を眩ませていた彼女たちの軍用車は一気に魔梨沙たちの車へタックルし、予想外の一撃を蒙った彼女たちはバランスを崩す。
そのまま3人は乗っていた車を乗り捨て、ジャンプして魔梨沙たちの陣地へ乗り込んだ。
襲い掛かってきた兵士たちは拳銃で応戦するが、ジェネシスの銃弾を受けて倒れていく。
担当を分割させた魔梨沙は、二手に分かれた兵士たちの狭間に存在していた。
銃声が響く中、慧音は兵士たちに回し蹴りや拳を浴びせていくが、銃弾はやはり恐ろしいものであった。
「…静かにしてなさい!」
パチュリーは電気ロッドで兵士を殴り、狼狽えた瞬間に拳銃を奪取する。
銃口を向け、至近距離でありながら引き金を引いて、兵士たちを撃ち落としていくパチュリー。
こいしも懐から二丁銃を取り出し、まるで西部のガンマンのような手裁きで射貫いて行く。
兵士たちの数の減少に伴って、舌打ちをした魔梨沙は自らを戦いに赴かせる。
パチュリーとこいしに向かって素早い手業で銃弾を射貫こうとするも、慧音の蹴りが腹部に直撃した。
めり込む足。彼女はそのまま狼狽し、苦痛そうな表情を浮かべながらも銃弾を穿とうとする。
しかし、何処からか纔かに小さな礫…小石を持っていたこいしは銃口に其れを急いで埋め込んだ。
引き金を引いた瞬間、銃弾が銃口に埋まった小石と衝突して爆発、拳銃は爆発した。
手の中で爆発した魔梨沙は驚愕したと同時に焼けつくような熱さの掌に大声を上げた。
「ぎゃあああああああ!!!」
狂ったような感覚に陥った彼女はそのまま自ら車から落ち、熱帯雨林の中に消えていった。
しかし最後に残った運転手が意を決して3人に襲い掛かってきたが、慧音の拳一発で沈んでしまう。
邪魔になった兵士を外へ放り出し、運転席を陣取った慧音。
その光景をまじまじと見ていたジェネシスは何処となく恐ろしいような気がした。
「3人に勝てるわけがないだろ!」
◆◆◆
しかし、まだチェイスが終わるわけでは無かった。
同じ軍用車が登場、今度はさとりと魔梨沙を乗せてやって来たのだ。途中で拾ったのだろう。
「…此処で諦めるわけには行かないわ!」
「さっさとくたばるんだな!」
さとりと魔梨沙は拳銃を構えて、後ろにいた慧音たち目がけて穿とうとする。
気づいた彼女たちは車を乗り捨て、急いでジェネシスたちの車に移る。
乗り捨てた車は車止めの役割を果たし、さとりたちが乗る軍用車の大きな壁として存在した。
「…退けろ!」
魔梨沙の一言で兵士の1人がバズーカで車を破壊、車のパーツは飛翔する中、軍用車は駆け抜けた。
巨大な深紅の爆発の中を潜って、再び熱帯雨林の中で銃声が飛び交った。
ジェネシスとケット・シー、そしてパチュリーとこいしが再び銃撃戦に加わり、防衛を図っていた。
運転していたマター博士を移らせ、ハンドルを再び握った慧音に、彼は安堵を覚えていた。
「…助かったのかのう」
「当たり前ですよ。こんな鬱蒼とした木々の中が墓なんてお断りですね」
後ろの4人が防衛で拳銃を構えていた時、ジェネシスの拳銃の手ごたえがなくなった。
……………銃弾切れである。戦えなくなった彼はブレイズバリスタの銃部分を敵に向け、扱い難いと言えど銃弾を放つ。
―――刹那、慧音の大声が響き渡った。
「全員、掴まってろ――――!!!」
反射的に車の何処かを掴んだ彼ら。そのまま車は大きな段差に踏み切り、車は勢いよく横転してしまう。
後続のさとりたちも同様、勢いよくジャンプして横転、同じ結果となってしまったのである。
ジェネシスたちは全員息をしていた。何とかなったものの、敵も全員無事であった。
瞬間的に、車から脱出したジェネシスたちに銃口を向ける魔梨沙。クールなイメージを付けていた服装も汚れてしまっている。
「…な、そうだよな…此処でお前らは終わりなんだ…」
彼女は震えていた。身体全体に畏怖を感じ取ったのか、悍ましいものを見たかのように。
さとりは魔梨沙の震えの理由が分からないでいた。其れはジェネシスたちや他の兵士たちも同様であった。
「…おい、どうしたんだ。私たちが怖いってか」
冗談交じりの発言をしたジェネシスに対し、魔梨沙は動けないでいた。
彼女の視線は下を向いている。横転して燃え行く車を背景に、何処となく恐怖を覚えて。
そんな姿は何処となく不気味であり、やはりジェネシスたちやさとりたちも動揺してしまう。
―――しかし、その理由もやっと判明した。…嫌な意味で。
茶色い蟻が一匹、魔梨沙の手に付着していたのだ。




