↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/14

第七話 昨日

その日は、特に変わったことはなかった。


三人で依頼を受けた。


王都南部の巡回。


昼前には終わった。


異常なし。


ギルドへ戻る。


報告。


三人で酒場へ行く。


エルネが本を開いていた。


ミリアがスープを飲んでいた。


レオンは肉料理を食べていた。


途中。


エルネが言った。


「この店、前より静かじゃない?」


ミリアが顔を上げる。


「そう?」


「なんとなく」


「時間が早いからじゃない?」


「そうかも」


それだけ。


少しして。


ミリアがエルネの本を覗き込んだ。


「また同じ本?」


「違う」


「同じに見える」


「表紙が似てるだけ」


「何の本?」


「古代魔術」


「面白い?」


「面白い」


「全然分からない」


エルネが少し笑った。


レオンも笑った。


普通だった。


その夜。


宿へ戻ったレオンは、鞄から紙を出した。


《ガルド》


まだある。


意味は。


かなり薄い。


でも。


捨てていない。


レオンは新しい紙を一枚出した。


今日のことを書いておこうと思った。


理由は。


よく分からなかった。


《今日》


《レオン》


《ミリア》


《エルネ》


三つの名前。


少し考えて。


《三人》


と書いた。


それだけ。


別に必要はない。


そう思った。


紙は机に置いたままにした。


翌朝。


目を覚ます。


昨日の紙を見る。


《レオン》


《ミリア》


《エルネ》


《三人》


全部ある。


レオンは着替えた。


宿を出る。


ギルドへ向かう。


ミリアがいた。


「おはよう」


「おう」


二人で少し待った。


レオンが言った。


「エルネ遅いな」


ミリアが首をかしげた。


「誰?」


レオンは動かなかった。


「エルネ」


「誰、それ」


「昨日、一緒にいただろ」


ミリアは少し眉を寄せた。


「昨日?」


「ああ。酒場にもいた」


「いなかったよ」


すぐに返ってきた。


「昨日は二人だったでしょ」


レオンは何も言わなかった。


鞄から紙を出す。


《レオン》


《ミリア》


《エルネ》


《三人》


ミリアが覗き込んだ。


「これ、昨日書いたの?」


「ああ」


「ふうん」


レオンは《エルネ》を指した。


「エルネ」


「うん」


「知らない?」


ミリアは紙を見る。


少しして。


「誰?」


ともう一度聞いた。


レオンは紙を畳んだ。


古い登録記録を見せてもらった。


《暁の剣》


レオン。


ミリア。


二名。


結成時から。


ずっと。


レオンは帳簿を見た。


昨日の紙を開く。


三つ。


また帳簿を見る。


二つ。


ミリアが隣から言った。


「何か間違えて書いたんじゃない?」


レオンは答えなかった。


昨日のことを思い出す。


酒場。


スープ。


肉料理。


本。


古代魔術。


笑った。


そこまではある。


エルネ。


そうだった。


たぶん。


でも。


顔が。


少し遠い。


黒い外套。


魔導書。


香草を避ける。


そんなものが。


まだ。


少し。


残っている。


レオンは帳簿を閉じた。


「今日は依頼どうする?」


ミリアが言った。


レオンは少しだけ彼女を見た。


「……今日はいい」


「休む?」


「ああ」


「分かった」


ミリアはそれ以上聞かなかった。


レオンは一人で宿へ戻った。


机。


昨日の紙。


《レオン》


《ミリア》


《エルネ》


《三人》


長く見た。


《エルネ》


その名前は。


まだ。


ガルドより近い。


本。


魔法。


黒い外套。


香草。


少し。


ある。


レオンは新しい紙を出した。


《エルネはいた》


書く。


その下に。


《昨日》


書いた。


少し考えて。


《本を読んでいた》


《古代魔術》


そこまで書いた。


手が止まる。


これは。


本当に昨日の記憶なのか。


昨日の紙には。


本のことは書いていない。


今の自分が。


そう思っているだけ。


線は引かなかった。


消しもしなかった。


その下に。


《ミリアもいた》


書く。


さらに。


《レオンも》


三人。


昨日。


そうだった。


たぶん。


いや。


昨日の自分は。


そう思っていた。


それだけは。


紙に残っている。


レオンは二枚を並べた。


昨日の自分が書いた紙。


今日の自分が書いた紙。


どちらも。


自分の字。


でも。


昨日の紙の方が。


今の記憶より。


少しだけ。


信用できる気がした。


そのことが。


嫌だった。


翌朝。


目を覚ます。


紙を見る。


《エルネはいた》


《昨日》


読める。


意味も。


まだ分かる。


本。


魔法。


黒い外套。


少し。


残っている。


レオンは紙を鞄に入れた。


ギルドへ向かう。


ミリアがいた。


「おはよう」


「おう」


二人で掲示板を見る。


護衛。


討伐。


採取。


ミリアが一枚取った。


「これでいい?」


レオンは見た。


「うん」


それだけ。


エルネのことは。


口に出さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。