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第六話 名前だけ

翌朝。


レオンは目を覚ますと、最初にガルドという名前を思い出した。


昨日ほど鮮明ではなかった。


大盾。


酒。


笑い声。


そのあたりは、まだある。


でも。


顔。


声。


いつから一緒だったか。


そこはもう、ほとんど分からなかった。


レオンは起き上がった。


机の上に紙を置く。


しばらく迷って。


《ガルド》


と書いた。


それだけ。


何か説明を足そうとした。


《仲間》


筆が止まった。


本当に。


そうだったか。


記録にはいない。


ミリアもエルネも覚えていない。


レオン自身も。


昨日までなら、もっと確信があった気がする。


《重戦士》


それなら。


たぶん。


大盾を使っていた。


そう思う。


でも。


どこで見た。


分からない。


結局。


《ガルド》


だけ残した。


紙を折って、鞄に入れた。


ギルドへ行く。


ミリアとエルネがいた。


「おはよう」


「おはよう」


三人で掲示板を見る。


ミリアが一枚取る。


「これ、どう?」


近郊の害獣駆除。


危険度は低い。


「いいんじゃない」


エルネが言う。


レオンもうなずいた。


受付を済ませる。


三人で出発した。


街道を歩いている途中。


ミリアが何気なく言った。


「昨日の、ガルドって名前」


レオンが振り向く。


「うん」


「まだ覚えてる?」


「ああ」


ミリアは少し考えた。


「私は名前だけ」


「私も」


エルネが言った。


それだけだった。


ミリアはすぐに別の話を始めた。


「そういえば、この先のパン屋、まだあるかな」


「街道沿いの?」


「そう」


ガルドの話は。


そこで終わった。


依頼はすぐに済んだ。


畑を荒らしていた角鼠が二匹。


レオンとエルネが一匹ずつ仕留める。


ミリアが周囲を確認する。


王都へ戻ったのは昼過ぎだった。


三人で食事をした。


最近できた店の話。


次に受ける依頼。


エルネが読んでいる本。


そういうことを話した。


誰も。


ガルドという名前を出さなかった。


レオンも。


出さなかった。


不思議だった。


朝までは。


あれほど気になっていた。


でも。


三人で話していると。


別にどうでもいいことのように感じる。


食事を終える。


ギルドで報告。


三人で別れた。


宿へ戻って。


鞄を開けた。


紙が出てきた。


《ガルド》


レオンは。


一瞬。


何の紙か分からなかった。


すぐに。


朝のことを思い出した。


自分で書いた。


忘れないために。


何を。


そこが。


もう少し遠くなっている。


レオンは椅子に座った。


紙を見る。


ガルド。


人の名前。


たぶん。


誰か。


たぶん。


仲間。


たぶん。


言葉を重ねるほど。


かえって。


何も分からなくなる。


レオンは新しい紙を出した。


《ガルド》


もう一度書く。


朝の紙と並べる。


同じ文字。


同じ名前。


それでも。


二枚目の方が。


少しだけ他人の字に見えた。


レオンは手を止めた。


自分の字だ。


間違いない。


ただ。


その文字を書いた時の自分と。


今の自分の間に。


少し距離がある。


そんな感じがした。


レオンは紙を裏返した。


また表に戻す。


《ガルド》


意味を足そうとした。


《仲間》


やめた。


《重戦士》


やめた。


《大盾》


やめた。


何を書いても。


間違っている気がする。


結局。


名前だけ。


残った。


翌朝。


レオンは紙を見た。


《ガルド》


読める。


でも。


昨日より。


少し。


遠い。


それでも。


捨てなかった。


なぜか。


それだけは。


してはいけない気がした。

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