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第五話 ガルド

朝。


レオンはギルドの前で二人を待っていた。


先に来たのはミリア。


少し遅れて、エルネ。


「揃ったね」


ミリアが言った。


「ああ」


三人で中へ入る。


掲示板を見る。


今日は北東の街道で荷馬車の護衛依頼が出ていた。


危険度は低い。


「これでいいんじゃない?」


エルネが言う。


レオンもうなずいた。


受付で手続きを済ませた。


参加者欄。


レオン。


ミリア。


エルネ。


三名。


依頼は簡単だった。


商人の荷馬車を半日ほど護衛して、隣町まで行く。


盗賊も魔物も出なかった。


昼過ぎには到着した。


商人から確認の署名をもらい、そのまま王都へ戻る。


帰り道。


ミリアが言った。


「今日、静かだったね」


「依頼が?」


レオンが聞く。


「ううん」


少し考える。


「なんか」


「何」


「分からない」


それで終わった。


王都に戻った頃には、夕方だった。


報告を済ませる。


三人で報酬を受け取り、そのまま酒場へ向かった。


一階は混んでいた。


「上にする?」


ミリアが言った。


「ああ」


二階。


いつもの個室。


レオンが窓際。


ミリアが向かい。


エルネが壁側。


三人で座った。


料理を頼む。


「三人だと広いね」


ミリアが言った。


レオンは部屋を見た。


「そうか?」


「うん」


エルネが言った。


「四人掛けだからじゃない?」


「ああ」


ミリアは納得した。


それだけだった。


料理が来る。


三人で食べる。


ミリアが豆を残す。


エルネが香草を避ける。


レオンはパンを追加で頼む。


普通の食事だった。


しばらくして。


ミリアが言った。


「この煮込み、前にも食べたよね」


「あるな」


レオンが答える。


「誰か、すごい塩かけてなかった?」


レオンは料理を見る。


「お前じゃないの」


「私、薄味好きだよ」


「じゃあエルネ」


「私も」


「じゃあ俺か」


ミリアが笑った。


「レオンもそんなにかけないでしょ」


少し黙った。


「誰だっけ」


ミリアが言った。


レオンは首をかしげた。


「店の人じゃない?」


「料理に?」


「知らん」


三人とも少し笑った。


話題は変わった。


昔の依頼。


雨の中で道に迷ったこと。


橋が流されて遠回りしたこと。


北の砦で一晩明かしたこと。


「砦の時」


エルネが言った。


「夜、ずっと寒い寒いって言ってた人いたよね」


ミリアがすぐ答えた。


「いた」


「レオン?」


「俺じゃない」


「私も違う」


「私も」


三人とも黙った。


レオンが言った。


「護衛対象とかじゃないか」


「そうだっけ」


「いたんじゃない?」


「そうかも」


また話は流れた。


食事を終える。


会計。


外へ出る。


夜の通り。


ミリアが伸びをした。


「明日はどうする?」


「近場でいいだろ」


レオンが言う。


エルネもうなずいた。


「そうしよう」


分かれ道。


「じゃあまた明日」


「うん」


ミリアとエルネが去る。


レオンも宿へ向かった。


数歩歩いたところで。


ふと。


誰かなら、


「明日は朝早いぞ」


と言いそうだと思った。


レオンは足を止めた。


誰が。


分からない。


でも。


声の調子だけ。


少し分かる。


低い。


ぶっきらぼう。


レオンはしばらく考えた。


それから。


また歩き出した。


翌朝。


ギルドへ行く。


ミリアとエルネがいた。


「おはよう」


「おう」


三人で掲示板を見る。


討伐。


採取。


護衛。


レオンは一枚の依頼書を見て。


何となく言った。


「ガルドなら、これ嫌がりそうだな」


二人が振り向いた。


「……誰?」


ミリアが聞いた。


レオンは固まった。


「何」


「今、何て言った?」


「ガルド」


口にした瞬間。


その名前が。


妙に馴染んだ。


長く呼んできた名前。


そんな感じがした。


「ガルドって誰?」


エルネが聞いた。


レオンは二人を見る。


冗談を言っている顔ではない。


「いや」


喉が乾いた。


「ガルド」


もう一度。


名前。


その先に。


少しずつ。


何かが浮かぶ。


大きな体。


大盾。


酒。


笑い声。


「……仲間だろ」


ミリアの顔が変わった。


「私たちの?」


「ああ」


「三人だよ」


「違う」


レオンはすぐに言った。


「四人だ」


言ってから。


昨日のことを思い出した。


三人で護衛へ行った。


三人で酒場に座った。


全部。


自然だった。


なのに。


四人。


その方が。


正しい気がした。


「記録」


レオンが言った。


古いパーティー登録を見せてもらった。


《暁の剣》


レオン。


ミリア。


エルネ。


三名。


結成時から。


ずっと。


レオンは帳簿を見た。


昨日まで。


そこには。


四つ名前があった。


そう思った。


でも。


その記憶自体が。


もう。


少し曖昧だった。


「ガルド」


レオンが言う。


受付嬢が首をかしげた。


「どなたです?」


「《暁の剣》の重戦士」


「重戦士?」


「大盾を使う」


「うちの登録にはいませんね」


「昨日までいた」


言ってから。


自信がなくなった。


昨日。


いた。


どこに。


護衛には。


いなかった。


酒場にも。


いなかった。


では。


いつまで。


「レオン」


ミリアが小さく呼んだ。


「うん」


「大丈夫?」


レオンは答えなかった。


帳簿を見る。


レオン。


ミリア。


エルネ。


三名。


「どんな人だったの?」


エルネが聞いた。


レオンは答えようとした。


大きな体。


大盾。


酒。


笑い声。


でも。


言葉にしようとするたび。


少しずつ。


薄くなる。


「重戦士」


そう言った。


「たぶん」


「顔は?」


レオンは止まった。


「……分からない」


「声は?」


「分からない」


「いつから一緒だった?」


「分からない」


ミリアが少し困った顔をした。


「誰かと勘違いしてるんじゃない?」


レオンは。


答えられなかった。


その日の夜。


宿に戻っても。


名前だけは消えなかった。


ガルド。


何度も。


頭の中に浮かぶ。


人の名前。


たぶん。


誰か。


たぶん。


仲間。


たぶん。


それ以上は。


うまくつながらなかった。


レオンはしばらく。


暗い部屋の中で。


その名前だけを。


何度も。


繰り返していた。

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