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第四話 記録

翌日は休みにした。


誰が言い出したわけでもない。


ギルドへは行った。


掲示板も見た。


依頼もいくつかあった。


ただ。


誰も手を伸ばさなかった。


「今日はいいか」


レオンが言った。


ガルドも、ミリアも、エルネも反対しなかった。


しばらくギルドの休憩スペースで時間を潰していた時。


ガルドが言った。


「昨日の薬草の話」


ミリアが顔を上げる。


「まだ気にしてるの?」


「いや」


ガルドは笑った。


「誰が選り分けたんだろうなと思って」


エルネが言った。


「記録、残ってるんじゃない?」


「そこまで書くか?」


「依頼自体は残ってるでしょ」


暇だった。


四人は古い記録を見せてもらうことにした。


記録庫には、《暁の剣》がこれまで受けてきた依頼が年ごとにまとめられていた。


最初に探したのは、昨日話していた薬草採取だった。


四年前。


《薬草採取》


参加者。


レオン。


ガルド。


ミリア。


エルネ。


四名。


納品量。


規定量達成。


依頼完了。


それだけ。


「誰が選り分けたかなんて書いてねえな」


ガルドが言った。


「普通は書かないでしょ」


ミリアが答える。


「じゃあ分からんか」


記録を戻そうとして。


レオンは隣の束に目を止めた。


「灰の森」


ガルドが振り向く。


「ああ」


全員。


覚えていた。


《暁の剣》がまだAランクだった頃。


森の奥に棲みついた黒爪獣を討伐した。


かなり危険な依頼だった。


「これ、やばかったよな」


ガルドが言った。


「あなた肩やられたでしょう」


ミリアが答える。


「そうそう」


「エルネも魔力切れてた」


「途中でね」


レオンにも記憶があった。


雨。


倒木。


黒爪獣。


折れた剣。


ガルドの肩から流れる血。


エルネが膝をつく。


ミリアが治癒術を使っている。


そこまでは。


はっきりしている。


記録を開く。


参加者。


レオン。


ガルド。


ミリア。


エルネ。


四名。


討伐対象。


黒爪獣一体。


依頼達成。


ガルドが言った。


「ちゃんと四人だな」


レオンもうなずいた。


何もおかしくない。


エルネが記録を読みながら言った。


「ねえ」


「何」


「どうやって倒したんだっけ」


少し。


静かになった。


ガルドが答えた。


「普通に倒したんだろ」


「だから、どうやって」


「俺が前で押さえて」


ガルドはそこで止まった。


「……いや」


「肩をやられてた」


ミリアが言った。


「そうだった」


エルネが言う。


「私はもう魔力がほとんどなかった」


三人がレオンを見る。


「俺は剣が折れてた」


また。


静かになった。


ミリアが言った。


「私が治して、そのあと立て直したんじゃない?」


「たぶん」


レオンが答える。


「それから?」


誰も答えなかった。


黒爪獣は死んだ。


それは覚えている。


倒れた巨体。


雨に濡れた黒い毛。


森の土に広がる血。


そこも。


ある。


ただ。


追い詰められていた四人と。


死んだ黒爪獣。


その間だけ。


ない。


ガルドが笑った。


「まあ、何とかしたんだろ」


「何とかって」


「三年前だぞ」


「そうだけど」


「倒したんだから倒したんだよ」


その通りだった。


記録にも。


依頼達成。


そう書いてある。


レオンは紙を戻した。


エルネがもう一度、参加者欄を見た。


レオン。


ガルド。


ミリア。


エルネ。


四名。


「ほら」


ガルドが言った。


「何も変じゃねえだろ」


「うん」


ミリアも言った。


レオンも。


少し安心した。


記憶は曖昧でも。


記録には残っている。


四人。


ずっと。


それでいい。


記録庫を出る。


廊下を歩きながら。


エルネが言った。


「私たち、昔の依頼の話ってあんまりしないよね」


ガルドが答えた。


「そうか?」


「うん」


「昔話なんて年寄りになってからすりゃいいだろ」


ミリアが笑った。


「ガルドはもう始めてるけどね」


「誰が年寄りだ」


四人は笑った。


その日はそれで終わった。


夕方。


酒場で食事をして。


別れた。


宿へ戻る途中。


レオンは灰の森のことを考えた。


雨。


折れた剣。


負傷したガルド。


魔力の尽きたエルネ。


治療しているミリア。


そして。


死んだ黒爪獣。


前と後は。


覚えている。


間だけが。


ない。


レオンはしばらく歩いた。


やがて。


考えるのをやめた。


昔のことだ。


忘れているだけ。


そういうことにした。

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