残響。
「ぴぴぴ」
朝のアラームが鳴った。
「.......こはる?」
「......」
「小春!」
僕はベッドから飛び起きる。
周りを見ても、小春の姿はない。
「......」
昨日の記憶.....
安心して、そのまま寝てしまったのか。
小春と僕の音が重なった時間......
身支度を整えないといけないのに。
僕は、もう一度ベッドに戻った。
僕は、無意識に胸に手を乗せて、
ずっと、
ずっと、
自分の心音を聞いていた。
自分の音が小春の音のように感じる。
それから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
体が重いような軽いような。
そんな曖昧な感覚に溺れている。
「ガチャ。」
玄関の鍵を閉める音がした。
仕事行ったんだね。
うん。分かっていたよ。
もう。
本当に。
僕が「美月」なんて役を演じなくても、
パパとママは普段通りの生活を送る。
嘘だと思いたかった。
大切にされている。
愛されている。
そう、信じていたのに。
「......」
「......」
僕が男に生まれたから?
それとも、僕の頭が良くないから?
僕の......
僕の......
何がダメだったのかな。
分からない......
分からないまま、時間は過ぎていった。
学校を休むのは.....
小春に怒られちゃうか。
気だるい体を起こして、制服に着替えて一階に降りる。
朝ご飯は.....
やっぱり、作ってないか。
まぁ、いいか。
学校に行こう。
空腹感は確かにあった。
でも、そんなことより、
僕は、早く小春に会いたかった。
だって、小春は僕を必要としてくれるから。
ふらふらと教室まで向かい、ドアを開けると小春の姿が目に入った。
いつもは僕が一番に学校に着く。
でも、今日は、小春に先を越されてしまった。
「あ!夕日。おはよう。」
「昨日は、よく寝れた?」
「......」
「ねぇ、夕日?」
「......」
僕は何も言わず小春に抱き着いた。
「暖かい。」
「もう.....朝からそれなわけ?」
「......」
「なんか、体に力が入らなくて。」
「夕日?朝ごはん食べた?」
「体は冷たいし、顔色も良くないよ?」
「ううん。食べてない。」
「それだと、昨日の夜からなにも食べていない感じね。」
「朝礼までは.....あと30分あるわね。」
「コンビニ行ってなにか買ってくるから。」
「ちょっと待ってて。」
「うん。」
「......」
「抱き着かれたままだと、買いに行けないんだけど?」
「.....」
「独りにしないで......」
「......」
「もう!じゃあ、一緒に行くよ。」
「......」
「うん。」
僕は小春に寄りかかりながら、学校を出て、コンビニに向かった。
校則で登校後に、学校の外に出る事はおろか、
コンビニに行くなんて、以ての外だ。
それなのに。
小春はルールを破ってまで僕のことを気遣ってくれる。
「ねぇ、どうして?」
「ん?なに?」
「どうして。小春は、僕にこんなに優しくしてくれるの?」
「......」
「夕日だって、私のこと、気遣ってくれるでしょ?」
「.....そんなことあった?」
「だから、言ったでしょ?」
「よく、私のことを見てくれるのが嬉しいって。」
「私は自分のことを大切にしてくれる人と一緒にいたい。」
「ただ、それだけだよ。」
「......」
「でも最近は小春に迷惑かけてばっかだよ?」
「それに今だって.....」
「別に、これくらい何ともないわよ。」
「......」
「じゃあ、教室でも、抱き着いていい?」
「え~と。それは......」
「ダメ?」
「ほら!コンビニ着いたよ!」
「何か希望は?」
「特に......」
「じゃあ、イートインで待って。」
「......」
「離してもらえるかな??」
「学校遅刻するし、困るんですけど??」
「一緒にいた」
「一緒にいたいなんか、言わないわよね?」
「.....」
「はい。イートインまでは連れてくから。」
「......うん。」
小春は僕を置いて食べ物を買いに行った。
それでも小春は、すぐに買い物を済ませて戻ってきた。
「はい。ツナマヨとプロテインね。」
「ありがとう....」
「でも、なんでプロテイン?」
「ん?栄養あるからだよ。」
「あと、夕日は細いんだから、少しくらい、筋肉とかつけなさい。」
「.....不味い。なんか、粉っぽい。」
「も~。本当わがままね。」
「いや、普通はお茶とか買ってくると思うけど。」
「じゃあ、いいわよ。貸して。」
「え?」
「なに?私が飲むから。」
「.....間接キス。」
「!!!」
小春が飲むのを躊躇した。
「ちょっと、変な事言わないでよ!」
「.....そうだね。ごめん。」
「もともと、小春のものだしね。」
「.......」
「どうしたの?飲まないの?」
「やっぱ、夕日飲みなさい!」
「え!だって、これ不味いじゃん!」
「うるさい!彼女から貰ったもの飲まないわけ?」
「彼女からでも、こんなの貰っても嬉しくないし!」
「はぁ~?」
「これは、流石に小春に非があると思う!」
「ひどい!私は夕日の体を心配して買ってきたのに。」
「いい?タンパク質とらないと体は元気にならないの。」
「分かった?それなら早く飲んで!」
「......」
「......」
そんなことがあって。
僕たちは学校に遅刻した。




