鏡。
「さぁ、入って。」
「お邪魔します.....」
ひどく、小春が緊張している。
彼氏の家にくるとは、そういうものなのだろうか。
「じゃあ、二階が僕の部屋だから。」
「案内するね。」
「うん....」
僕は音を立てて階段を上がるのに反して、
小春は足音を立てずに階段を上った。
「はい。ここが僕の部屋だよ~。」
ゲームにしようか。
いや、漫画かな....
「案外綺麗っていうより、ほとんど何もないじゃない。」
「そうだよ。あんまり物欲ないしね。」
「こんな場所じゃ、本当にやることなんて、ひとつしか.....」
小春の顔が赤くなる。
体調でも悪いのだろうか。
「夕日....ゴムは持ってるよね?」
あ~。それがあったか。
一度、小春の髪を結ってみたかったんだ。
「もちろん。持っているけど。」
「小春は持ってないの?」
「純粋な女の子がそんなの、持ってるわけないでしょ....」
「うん?ゴムくらい女の子なら持ち歩くと思うけど。」
「ばか////」
さっきから、小春の様子が少しおかしい....
「じゃあ、今から何個か持ってくるよ。」
「何個か!?」
「夕日って、結構そっちの方の体力あったんだ。」
「その前に……シャワーくらい浴びたいかな……。」
確かに。もうすぐ夏で、今日は気温が高い方だったか。
「あ~確かにね。ごめんごめん。」
「じゃあ、案内するね。」
小春と一緒に一階に降りる。
「ここが洗面所ね。」
「あと、タオルはこれ使ってね。別に、ゆっくり浴びてていいからね。」
「こっちも色々準備しないとだし。」
「.....期待していいの?」
「あ!それなら、色々小道具とかも持ってくるね。」
リボンと、ヘアピンと、あとシュシュがあったかな。
「!?」
「なんで、そんなの持っているのよ...」
「うん?だって毎日使うでしょ?」
「いや。そうだけど.....」
「初めてでそんな.....」
「ちゃんと、優しく触るから大丈夫だよ。」
「////じゃあ、入ってくるね。」
「うん。」
「飲み物と、ヘアゴムと、アクセと、コテと、あとドライヤーかな~。」
「よし。後は、部屋に戻ってっと。」
う~ん。小春をどうアレンジしようか。
やっぱり、小春の顔の雰囲気的に...
「お待たせ。夕日////」
小春が部屋の入口から、こっちを覗いている。
「って何それ。」
「ん?飲み物とヘアゴムと、ブラシと、その他ヘアアレンジ用品だけど。」
「そうそう。小春はハーフアップとか似合いそう!」
小春が顔を覆いしゃがみ込んだ。
「大丈夫!?いまそっちに。」
「来ないで!絶対に.....」
「うん?分かった....」
「絶対にこっち覗いたらダメだからね。」
部屋に入ってきた小春は少し怒っていた。
「はい。いいよ。好きにして。」
「うん!」
「じゃあ、初めに、髪をブラシでとかして。」
「凄い!小春の髪、さらさらだね。」
「何か、使ってるの?」
「別に。」
「なんか素っ気ない。」
「じゃあ、僕のオイル使っていい?」
「ダメ。」
「え?どうして?」
「もう!なんでもよ!」
「てか、なんでこんな上手いのよ。」
「う~ん。昔からやってたからかな。」
「じゃあ、この部分を三つ編みにして...」
「あとは、リボンで止めて。」
「はい!できたよ~。」
「......」
「なんで無言?」
「次は私が夕日の髪をやる番ね。」
「はい。座って。」
「え?椅子くらい座らせてくれても。」
「座りなさい。」
「はい.....すみません」
小春に言われるまま、床に正座した。
「なんか希望は?」
「おまかせで....」
「なら、ツインテールね。」
「まって!さすがに恥ずかしいよ。」
「じゃあ、ハイツインテールね。」
「もっと恥ずかしいじゃん!」
「うるさい。」
「......」
「はい。できたよ。」
「仕上げに前髪をピンで留めて....」
「ごめん。それだけはやめて.....」
「え?どうしてよ?」
「一重で目が細いから、あんまり好きじゃないというか....」
「パパとママにも汚いって言われてるし。」
「.....」
「ねぇ、一回見せて。」
「いやだ...」
「.....」
「.....」
「....夕日?」
「.....うん。」
「私が、何で夕日のこと好きになったか覚えてる?」
僕が可愛いから。
じゃなくて、僕の性格を好きになってくれたんだ。
「うん。」
「大丈夫だよ。私は、それで嫌いになったりしない。」
僕は無言で前髪をずらした。
「......」
やっぱり、何も言わない。
「ごめん。変だったよね。すぐにまた戻すから。」
「綺麗だよ。」
「え?」
「綺麗。確かに目は細いけどさ。」
「瞳はカラコン入れてるみたいに綺麗だよ。」
おかしい。
パパとママも、ずっと汚いって言ってたのに。
.....変だ。
視界が霞んだ。
そっか、涙ってこんな勝手に出る物なんだ。
「夕日。」
「うん。小春。」
小春に強く抱き着かれた。
「私は、夕日になにも要求しない。」
「ただ、」
「一緒にいよう。」
「温っかいね。小春は。」
「夕日の体温が低いんだよ。」
「え?僕の体、冷たいの?」
じゃあ、あの時のパパとママは嘘をついたってこと?
いや違う。今日はたまたま体温が低いだけだ。
きっとそうだ.....
「夕日。」
「うん。」
「私が温めるから安心して。」
「......ありがとう。」
僕も小春を抱き返した。
改めて、小春の温もりを感じた。
「.....小春。」
「なに?」
「ねぇ、もっと強く抱きしめて。」
「怪我しちゃうよ?」
「うん。壊れてもいいの.....」
「分かった。」
小春が僕を徐々に強く抱きしめる。
それに比例して、涙の出る速度も上がった。
そして、何分か抱き合ったあと。
「ガチャ。」
玄関の鍵を開ける音がした。




