月の使者
3日程前からイザベルが寝込んでいると聞いた。
『王家の憂いを払うのも、ジョン様の妻となるわたくしの役目ですわ!』
と駆け回っていたのだが、姿が成長したとはいえ30年以上幼女の姿だったのだ、急な変化に肉体が追い付かずに疲労が溜まってしまったのかもしれない。
「これは?」
離宮の出入りの商人の荷物に、見慣れぬ薬瓶が混ざっていた。
贈り主は帝国貴族であるミュンヘ公爵家。
確か、イザベルの父フィリップ16世の正妃、レティシア皇妃陛下の生家だったか。
「公爵領で製造された、月の障りを軽減する薬だそうです」
「―――その薬、内密に処理出来ますかしら?」
気付けば青い顔をしたイザベルが傍らに立っていた。
「―――何か問題があるのか?」
「はい」
立っているのも難しそうなイザベルを抱きかかえる。
商人にはイザベルの指示の通り、ミュンヘ公爵家からの贈り物を処分する様に指示した。
イザベルを室内のソファーに座らせると、イザベルは口を開いた。
「帝国の皇帝は慣例として、帝国貴族の令嬢を正妃に、12の王国から王女や貴族令嬢を側妃として娶るのはご存知でしょうか」
「確実に皇統を次代に遺す為の慣例だろう」
レティシア皇妃陛下は、両親のどちらにも愛人の影が露程にも存在しない環境で育った為に、皇室の慣例であると頭では理解出来てはいても受け入れられなかったのだと言う。
「父上の即位と共に皇妃として政務に取り組まれておられた皇妃陛下には、なかなか子が出来ませんでした。
正妃の男児のみ皇位継承権があるとはいえ、側妃達が次々と懐妊し、子を産む度に皇妃陛下は気が気では無かったと聞きますわ」
結婚から7年、漸く皇妃陛下は懐妊し、男女の双子を産んだ。
「その頃からですわ、皇妃陛下の実家であるミュンヘ公爵家から側妃達へ薬草茶が届けられる様になりました」
曰く、月の障りを和らげる、気持ちを落ち着ける作用のある薬草茶であり、月の障りに悩まされていた側妃達は喜んで口にしていたと言う。
「シルベスター伯爵家にも広大な薬草園がありますわ。母上は公爵家から贈られる薬草茶に覚えがあり、父上に進言したのです。
―――長らく飲用すれば不妊を引き起こす可能性の高いものである、と」
「...それでレティシア皇妃陛下は現在、公務に携わっていないのか」
愛憎や子が絡んでいない限りは正しく帝国の国母である皇妃陛下を廃する訳にも行かず、フィリップ16世の母親の生家であるハウゼン公爵家の領地で病気療養をしている、と言う訳だ。
幸い、薬草茶の危険性をジェーン妃が唱え、早急に回収された事も相まって大きな問題にはならなかった様だ。
「時折、こうして病状がぶり返すのです」
...レティシア皇妃陛下の心情は兎も角、そのテの品が贈られてくる、と言う事は、つまり、イザベルが寝込んでいるのはそういう事か。
「後で、負担の少ない薬草茶を届けさせよう」
「ありがとうございますわ、ジョン様」
イザベルは頬をほんの僅かに紅潮させてそう言った。




