聖夜祭の騒動
今年の聖夜祭では、北の魔道王国に留学していた第2王子ウィリアムが帰還するらしい。
ウィリアムは兄であるエドワード王太子と同じく、今時点では婚約者の座は空席だ。
ウィリアムと同世代の令嬢達は「我こそは」と色めきたっている。
だからこそ、かもしれない。
「アンタみたいなちんちくりん、ウィリアム様の帰還の祝いも兼ねたこの場には相応しくないわ!」
私のイザベルにあろうことか暴言を吐き、頭から果実酒をかける様な不届き者が現れたのは。
「まあ、キティ伯爵家では客人に果実酒を頭から浴びせると言う風習がありますのね。存じ上げませんでしたわ」
イザベルは魔法で手際よく身綺麗に整えながら、そう返した。
「シルベスター伯爵家の令嬢を騙る娘には丁度良いのではないか?」
あれは、謹慎が空けたばかりのカティア若子爵か。
確かに、シルベスター伯爵家の当代の当主に娘はいないが、末の娘がいると言うのは親の世代であれば知っていようものを、愚かな。
「そうですよね、シルベスター伯爵閣下」
希望に満ちた目で語るカティア若子爵の横をすり抜けてイザベルの手を取ったのは、此度の聖夜祭のもう1人の主役であるイザベルの母方の祖母であるシルベスター老伯爵婦人である。
「貴方、見て頂戴。この妖精の様に愛らしい姿!!あの時の赤ん坊がこんなに愛らしく成長するだなんて!」
「なんと、ジェーンと瓜二つではないか。ふむ、果実酒を浴びたのか。控え室に向かいなさい、新しいドレスを用意させよう」
「ありがとうございます、御祖父様、御祖母様」
カティア若子爵の顔が歪んだ。
話題を振られたシルベスター伯爵家当主は呆れた様に口を開いた。
「我が叔母上が、どちらに嫁いだかを知らぬ訳でもあるまい」
「では、シルベスター伯爵家の末の娘、と言うのは...」
「帝国の側妃のひとり、ジェーン妃の娘だと言う事です。大恩ある帝国の皇族が内密に動く時には母親の姓を名乗る事も知らないのかしら」
可哀想な頭ですこと、とカティア若子爵を制したのはマルシィ侯爵令嬢である。
「―――少々早いですが、この様な騒ぎとなっては隠し遂せる事でもありませんわね。
シルベスター伯爵家の末の娘、イザベル・シルベスター。...真の名を、イザベル・アジャーニ。
帝国第8皇女にして、王弟ジョン殿下の婚約者ですわ」
シルベスター伯爵家の娘を騙る者が断罪されるらしい、と聞き耳を立てていた貴族共の顔が強ばった。
此度の聖夜祭の会場に帝国の皇帝陛下の姿がある理由を察したらしい。
「ジョン様、戴いたドレスに掛かる費用はキティ伯爵家に請求しても宜しいかしら?」
「今日の為に誂えた一点物だ、それを汚した報いは受けて貰おう」
騒ぎを起こした令嬢の父親は見る見る青ざめている。
イザベルの為だけの、王室御用達の商会で仕立て上げた一点物の価値がどれ程のものであるのか、商人としての顔も持つキティ伯爵には良く理解出来ている様だ。
「いつまでも君を濡れ鼠にしている訳にはいかない、シルベスター老伯爵夫妻の厚意に甘えよう」
「...こんなこともあろうかと、と言わんばかりに御祖母様が侍女に持たせていらっしゃるドレスの量が少々恐ろしいですわ」
ちらり、と視線を向ける。
「...聖夜祭が始まる前に、着せ替え人形から脱する事が出来たら良いな...」
山積みのドレスを横目に、そう呟くのだった。




