悪役令嬢と聖女
第3王子セドリックのクラスにはセドリックの婚約者であるマルシィ侯爵令嬢と、教会から聖女であると言う認定を受けたアスタリア子爵令嬢が在籍している。
マルシィ侯爵令嬢は王子妃としての教育と学業を並列して行う事が出来る程の淑女であるが、言葉選びが絶望的であり、慣れている者でなければ発言の真意を察する事が出来ない、と言う。
それは、氷姫の二つ名を取る程のものだ。
マルシィ侯爵令嬢の内心は誰よりも繊細で、乙女回路全開の14歳なのに、勿体無い。
アスタリア子爵令嬢はアスタリア子爵の第二夫人を母に持つである。
アスタリア子爵が前夫人が帰天して、喪の明けないうちに第二夫人を迎えた経歴があり、その為に社交界において第二夫人とアスタリア子爵令嬢への風当たりは強い。
アスタリア子爵の前夫人の御子息は夫人の親戚を頼り、現在はカティア子爵家に養子入りしている。
婚姻を急いだ理由を
「当時ジェフリーがまだ4歳でしたから。母親の温もりが必要だろう、と考えて再婚を急いでしまいました」
そう、アスタリア子爵は語った。
アスタリア第二夫人とアスタリア子爵令嬢の風当たりが変わったのは、貴族の子女が10歳で教会で受ける魔力鑑定を受けた結果、アスタリア子爵令嬢が聖女であると認定を受けたからである。
伝承に拠れば、聖女の誕生は王国の益々の繁栄を齎すものとされている。
今のうちにアスタリア子爵令嬢に取り入ろうと考えた貴族達の接触により、セドリックのクラスの空気は非常に重たいものとなっている。
何でも、マルシィ侯爵令嬢は第3王子セドリックを縛る悪役令嬢だ、等と言う話が流れている。
マルシィ侯爵令嬢がアスタリア子爵令嬢の教本を使い物にならなくした。
マルシィ侯爵令嬢がアスタリア子爵令嬢の私物を盗んだ。
マルシィ侯爵令嬢がアスタリア子爵令嬢を茶会に招かない―――
イザベルがほんの少し学園に忍び込んで耳を澄ませているだけで、様々な噂話が飛び込んできた。
「貴女、学園の生徒ではありませんわね」
凛とした、鋭い声が飛んできた。
渦中の人物であるマルシィ侯爵令嬢である。
「貴族は元より、王族の皆様も在籍する由緒正しい学舎に素性の知れない鼠が紛れ込む等と……本日の守衛は無能なのかしら?」
厳しい口調でありながら、魔力の流れからイザベルが只者では無い事を悟っているらしいマルシィ侯爵令嬢はそれ以上は口を閉ざした。
「認識阻害に惑わされる事が無いとは、噂に違わぬ才媛ですわね。
―――わたくしは、イザベル・シルベスター。
シルベスター伯爵家の末の娘ですわ」
マルシィ侯爵令嬢の氷の顔に、ピシリ、と言う音が走った気がした。
「この頸を刎ねて下さいませ!」
「学園内を見たい、と言う我儘を学園に通したのはわたくしですもの。学園を護りたい貴女の心意気は感服致します」
もし宜しければ、学園を案内して下さる?と言うと是非に!と食いつかん勢いで返答がされたのだった。




