運命の婚約
秋の月、14日。
王弟ジョンの婚約者として王国に足を踏み入れた帝国の皇女、イザベル・アジャーニとの婚約式が開かれる事となった。
両国の王族のみで内密に開かれた婚約式の会場に、小さなイザベルの手を握り締めながら入場する。
教会の神父による宣誓、婚約による両国の恒久的な和平の証たる祝福、列席者の賛辞。
ジョンは何処か心あらずと言った様子だった。
(本当に、神竜の血を色濃く引く為に幼い姿をしているのか?実は皇女と言う事実は間違いなくとも、見た目通りの幼子ではないのか?)
その様な事を考えながら、婚約証明書にサインをする。
ジョンのサインが終わると、イザベルが王国語で証明書にサインをした。
―――一瞬、だった。
イザベルの小さな体に風が吹き抜けたかと思うと、3歳程の幼女の姿から13歳程の少女の姿へと成長したのである。
額には、神竜の血を引く証である刻印がはっきりと現れていた。
呆気にとられているジョンの手を取り、イザベルは僅かにむっとした様な様子で微笑んだ。
「王国に迎え入れられてから2年、ジョン様から愛情を頂いた結果、生まれて初めて人間らしい成長を迎える事が出来た事は、とても喜ばしい事、なのですが...」
わたくしを疑っておりましたわね?とイザベルは言った。
「夢で何度も、本来の姿をお見せしておりましたのに。ただの夢、神竜の血の真偽を疑っておりましたでしょう?」
神竜は、とうのむかしに滅びたとされている伝説の種族だ。現実主義者のジョンは兄王が嬉々として語るイザベルの血筋を受け流していた。
「構いませんわ、わたくしがジョン様の立場でしたら、到底信じられませんもの」
「...すまない」
イザベルは参列者の中にいる両親の顔を見て「わたくし、成長が著しく遅いとはいえ、何時までも赤子のままではありませんのよ」と呟いた。
「君は、これからもっと成長するのだろうか?」
「そうですわね、ジョン様がわたくしを愛して下さるのであるならば」
30年以上幼子の姿だった為に、ジョンの子を孕めるかどうかが不安だとイザベルは口にした。
月のモノの知識は知ってはいても、自分の身体に月のモノがきちんと訪れるのだろうか、と言う不安を抱くイザベルに、直ぐに侍医に身体の検査をして貰おう、とジョンは言った。
成長したとはいえ、まだまだ自分よりも遥かに小さなイザベルを護ってやらねば、とジョンは誓った。




