11話:エピローグ
リリアナが亡くなり、オレは強制的に自由にされ、腹立たしい反面解放され、気持ちが楽になったのは事実だ。
あの後、学院長からそもそもオレにかけられた闇ギルドとの契約は基本破棄や解放が出来るものではなく、ほぼ奴隷契約と変わらないものだったらしい。
それを無理やり上書きして破棄したリリアナには脱帽と言うしかないだろう。
腹いせ半分、本命はリリアナを解毒するための情報を得るために組織は半壊どころかほぼ壊滅させた。オレは自分で思っていたよりも組織の中では強い方のようだったみたいで特に苦労もしなかった。
だが、それで唯一心惹かれた女を失ったんじゃ笑えない。
オレよりずっと弱いリリアナは、誰よりも肝の据わった女だった。リリアナが実際どこまでオレについて知っていたのかは結局分からない。聞く前に、この腕から奪われてしまった。
人の体温が急激に失われて行くのがこんなにも恐ろしいものだと初めて知った。崩れ落ちるリリアナを受け止めた自分の腕が動かなくて、こんなにも役に立たない事に、自分に腹が立った。
リリアナが俺のためにいつからあの魔法を準備をしていたのか。リリアナは最初から死ぬことも含めて想定してとしか思えない魔法を構築していた。
学院長が読み解いた内容は、オレを物理的・魔法的両方の理不尽な暴力から護り、リリアナが生きている限り『死なない』魔法。ただしリリアナが亡くなった場合、加護はなくなるがそれ以外のデメリットはないと言う。リリアナには何の効果もない、文字通りオレにしかメリットのないものだった。
例え何を知っていたにせよ、リリアナはたたオレのためだけに備えていてくれた。
その事実がオレを酷く打ちのめし、そんな深い愛情をかけてくれたリリアナが失われた事を受け止める事が出来なかった。独りであることが当たり前だったオレはいつの間にかリリアナと共にある事を当たり前にしたかったのだと、失ってから気付いた。
いや、本当は知っていたんだ。リリアナに惹かれている事も、本当はリリアナが何かを知っている事よりも、それを言い訳に彼女と一緒に居られることが楽しかった。彼女を手放したくなくて言い訳していたんだ。
リリアナはいつも自分の事を平凡だ、たかが男爵家の娘だと言っていた。何故あんなにも自己肯定感が低いのかは分からないか、本人は気付いていないがリリアナはモテる。下は平民から上は上級貴族まで彼女の評価は高かった。容姿も愛らしく、色合いは地味と言っても淡い金髪と新緑のような緑の瞳は上品なリリアナには似合っていた。所作も美しく控えめで勤勉、モテない理由を探す方が難しい。
だからネックレスで、キスマークで、そしてドレスで他の男共を牽制していた。リリアナはオレのものなんだと。
なのに、オレは女一人守れなかった……!
何度も、何度も思い返しては後悔しかない。何故あの時リリアナから離れたのか。何故リリアナを連れて行かなかったのか、何故リリアナから目を離したのか!
分かっていたはずだ、組織がリリアナを見逃してくれる訳がない事くらい。なのに、油断して、そして失った。
オレの唯一の光はこの手にあったのに。
リリアナを失って得た自由は、辛かった。
ああ、リリアナ許さないよ、お前を失うくらいなら一緒に逝きたかった!!
絶望し、自暴自棄になって荒んで閉じこもったオレを助けてくれたのは、面倒だとしか思っていなかったルイーゼと他の補助役の奴等だった。
「リリアナが悲しむ」その一言にオレは少なくとも学院を卒業してから、何をするか考えようと立ち直った。
それから1年、無事卒業を迎えた。オレは結局リリアナよりもいい女なんて見つかる訳もなく、1人で卒業式典に参加していた。
ルイーゼは正式に南の国の王子と婚約したようだ。ルイーゼはその為、必死に努力して無属性から全ての属性魔法を使える全属性の魔法使いとなり、その努力が認められたらしい。
式典も終わり、学生寮に一旦戻ろうかという時、学院長に呼び出された。
それもまさかのリリアナについて、だ。
僅かな、可能性に、希望の灯が仄かにともった。
■□■□■
それから3年の歳月が過ぎた。
アランは南の国の王子に呼び出されて嫌々王宮に来ていた。まだ王子のままだけど、立太子したとの情報が半年ほど前に出回っていたので、今は王太子になったであろう同級生と会うために。
「よう、王子サマからの依頼とはなぁ」
「貴様なら信頼できるからな」
「さあて、ね?あんまり面倒な依頼なら、あのポヤヤンな妃食っちまうぞ?」
「ハッ!できるものならやってみろ、ルイーゼも強くなったぞ。大体貴様はリリアナ嬢以外興味がないだろうに」
「うるせえよ」
「ハハ。貴様は今の方がいいな。それで、リリアナ嬢は?」
「…………」
「そうか、すまん」
人の好い王子が気まずそうに目を逸らすが、無意識に口角があがり、ニヤリと笑っていたアランに王子は怪訝な顔をして何かを言いかける。
「リリ、来い」
アランの言葉と共に小さな魔方陣が浮かび、小柄な女性がどこからともなく空中に現れ、床に落とされる。ほぼ同時に響いた小さな悲鳴とドサッという音と共に落ちた女性は涙目で打ったであろう腰をさすっていた。
「……いったぁ~」
「相変わらずドジだな」
「アランのせいでしょう!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ女性は間違いなく、リリアナだった。数年前に最後に見た頃よりも少し大人びていて、髪も無造作に編んで冒険者のようないで立ちをしていた。
「リ、リリアナ嬢、なのか?」
「えっ……っ!!! 大変失礼しました、王子殿下!!
このような格好のため正式なご挨拶はできませんが、リリアナ・ガーロンドでございます」
「ガーロンド?」
「そ、オレの奥さん」
「アラン!」
「いいだろ。こいつ同卒なのをいい事に無茶な依頼しやがるんだから」
「もうっ!」
最近は仏頂面しか見せる事のなかった賑やかな元同級生は、妻となった女性を揶揄い、幸せそうに目を細めている。依頼人である王太子は呆気に取られた後は、同級生夫婦を微笑ましく見ていた。
リリアナが倒れた後のアランの様子は見てられないくらいに荒れ、普段人を喰ったように飄々としている男が必死の形相でリリアナを抱きかかえて学院長室へと駆け込んだ様子は今も鮮明に覚えている。
既に心臓が止まりかけていたリリアナの顔に生気はなく、学院長の魔法でギリギリ生命維持を行い、アランはその間に属していた闇ギルドを壊滅させ、毒のレシピを入手した。その時に初めて自分を含めて2人だけ内密にアランの立場を聞いたが、アランの実力は半端じゃなく文字通り肝が冷える鬼神のような強さだった。
王子の立場としては、確かにストッパーとして魔法での契約で縛る事は必須だな、と思ったがそれ以上のストッパーがリリアナなのだろう。
リリアナの毒は解毒されたが、受けたダメージが大きく、学院長も手を尽くしてなんとか命だけはつなぎ止めた。リリアナは目を覚ますことなく、余りにアランの憔悴ぶりが酷いため学院長たちはリリアナが死んだとアランを謀った。
学院長が何を言ってもリリアナの死を信じないアランにどうやって諦めさせたのかは不明だが、最後にはアランはリリアナを失ったのだと認め、折れた。その後アランは荒んだがそれを止めたのもやはりリリアナの存在だった。
ルイーゼが「あなたのそんな姿を見たら、リリアナさんが悲しむ」と言うと、初めてアランは泣いた。そして、生活を一変させて勉強と研究に務めかなり優秀な成績で卒業した。
恐らく学院卒業を迎えた時に、アランは初めてリリアナがまだギリギリ生きていると伝えられたんだろう。
自分には詳しい話は何も無かったが、ようやくリリアナは目覚めたのだろう。全力でリリアナの回復に邁進するアランの様子は想像にかたくない。
そんな諸々を乗り越えた今、思い詰め、荒んだ顔をしていた男は……昔と変わらない、いや昔よりも生き生きとした表情で妻となったリリアナとじゃれている。なんとも感慨深いものだが、少々飽きて来たし、五月蠅い。
「アラン、リリアナ嬢、お前たちが元気そうで何よりだ」
「ふん。 リリ帰るぞ」
「ちょっと!申し訳ありません、それでは失礼します!」
察しの良いアランは言うなりさっさと消え、リリアナが慌てて追いかけるのは昔のままだ。
どこまでも賑やかに2人は去って行った。どこまでも仲睦まじい様子に当てられた王子もまた、最愛の妃の元へ行くかと部屋を出て行く。
どうせそつのないアランの事だから、依頼は早めに終えて5日後位にまたリリアナを伴って現れるだろう。
折角だからその時にはルイーゼも同席させてやろう、と考えながら空を見上げれば青く澄み渡っていた。
花開いた運命の2人に魔法の祝福よあれ。
読んでいただきありがとうございます。
これにて本編完結になります。
後日、番外編をいくつか追加したいと思います。




