10話:終話
パーティー当日、寮の玄関でドレスアップした私を迎えに来てくれたアランは本当に眩しいくらいに格好いい。
長い髪は緩く編み込んで横に流し、猫のように光る赤い瞳は笑顔で隠し、スマートに着こなした黒いシックなスーツは均整の取れたプロポーションをこれでもかと見せつけてくる。
この人の隣に立つため、全身アランがコーディネイトしてくれた衣装を纏うために、昨日から肌のコンディションを整えて準備を頑張った!淡い紫~濃い黒にも近い紫へグラデーションのドレスには重くなり過ぎないように金糸で刺繍が入って夜明けの空のような素敵な緩いマーメイドライン。ホルダーネックで胸元は総レースだけど、背中はしっかり開いているからストールをかけている。手にもレースのロンググローブで、ヘアアクセサリーはアメジストがきらめいている。ネックレスはもちろんアランのプレゼントのルビーのネックレス。
久々に令嬢らしい格好をしてから気付いたのだけど、全身アランの色だわ。なんと言うか、うん、アランとの関係を全力でアピールしている事に気付いちゃうと、今更だけど恥ずかしくなる。反面、アランの独占欲が物凄く嬉しい。
そして、私の姿を見つけて嬉しそうに目を細めているアランの反応に、頬が上気していくのを感じる。
「リリアナ。いつも可愛いけど、今日は本当に綺麗だね」
「ありがとう。アランが素敵だから、少し頑張ってみたわ」
「嬉しいけど、そんな可愛いことを言われると攫って隠したくなるよ?」
「ダーメ、もう。アランとのダンス、楽しみにしているのよ?」
そんなバカップルな会話をしつつも、アランは生まれも育ち貴族かのようにそつなくエスコートしてくれる。
こういう時のアランは私に合わせて無理なく歩きやすいように歩幅も、誘導も気を付けてくれる文字通りの紳士ぶりにドキドキしてしまう。
見た目には完璧な紳士で王子様然としているのだから、憧れる女性が多く居るのも仕方ない。中身は色々と問題があるけども、知らなければそんなものは存在しないからね。
パーティーは問題なく進み、ヒロインのルイーゼはどうやら水属性の南の国の王子と親しくなったようだったが、アランは私の隣にずっといた。ダンスは2回踊り、本物の王子にも負けないきらびやかさと色気に女生徒の黄色い歓声をBGMに、踊りながら私に注ぐ視線はどこまでも甘やかで、只管に外行きアランを堪能できて幸せだ。
ひとしきり踊った後は飲み物を手にゆっくりしていて、ふと気付いてしまった。会場の賑やかな一角にアラン以外の攻略対象たちはルイーゼを囲んでいた。気になってアランを見上げるが気にしている様子はない。
「リリ?」
「うん、行かなくていいのかなぁ……って思って」
「別にオレがいなくても問題ないだろ?それにオレはリリを独占していたんだけどな」
「ふふっ、嬉しい。でも、呼んでるから行って来て?」
流石に割り込むのは遠慮があるのか、攻略対象の数人が手招きしていたが、アランは心底面倒そうだった。
あ、こいつ舌打ちしてるわ。
「…………何処にも行くなよ?」
「ええ、あそこのソファで大人しく待っている」
「すぐ戻る」
私にだけ見せる嫌そうな顔は即座に笑顔で隠しギリギリまで私の手を取りながらも、ルイーゼたちの元へと向かったアランを見送り、私は宣言したソファへ向かう途中飲み物を置いているテーブルでノンアルコールである事をスタッフに確認してから手に取って向かった。
そこから記憶がなかった。
「リリ!リリアナ!!」
「あ、らん……」
聞きなれた声に目を開くと、至近距離に初めて見る本気で焦った顔のアラン。アランの背後に広がる夜空と見慣れた裏庭の景色、そして鉄錆のような匂い。瞬時に、私は危険だとアランの闇ギルドが排除しようとしたのかと理解した。
アランは無傷に見えるから、襲撃者を殺したか負傷はさせたんだろうな。私の体は疲労感が強いけど、どこも痛みは無いから問題なさそうだ、と何処か他人事のように状況確認をしていた。
「アラン、私は大丈夫よ」
「大丈夫じゃない!何を飲まされたか分からないんだ!!」
「アラン……貴方は怪我は?」
「リリ!オレは無傷だ。オレの事より、本当にリリが何を飲まされたのかは分からない。けど、何らかの毒なのは間違いない……」
「そう。光魔法でも浄化の治癒もできないものなのでしょうね」
あまり困った様子のない私にアランはいぶかし気な顔になっている。いいえ。ちょっと、怒っているわね、この顔は。
でも、とっくに覚悟はできていたの。
アランは話しながらも私に検査の魔法か何かをかけて、真剣に調べながら私を心配して怒ってくれる。
嬉しい、それが偽らざる私の本音で、思わず微笑んでしまう。
「ふふっ」
「リリ?……お前は!死ぬんだぞ!!分かってるのか!?」
「ええ、誰よりも。この試練を乗り越えられるかどうか、それで私の命の意味は変わるわ」
「試練……?」
「うん。アラン、私を少しでも好きって信じてもいい?」
「何をこんな時に!」
「こんな時だからだわ。アラン、誓約をしましょう?」
「コントラクト……」
その言葉にようやくアランの意識が私へと戻った。
嗚呼、このルビーのような濃いピンクにも見える、赤い瞳が素敵だと思いながら、体を起こしてアランにキスをする。大事な大事な貴女を自由にできる最後のチャンス。
頑張ってくれているアランには申し訳ないけど、この毒は解毒される前に私の命を奪うだろう。それならば、私はやる事をやるだけ。
「貴方を縛る契約を私との誓約で上書きするの」
「はっ!?」
「貴方を勝手に自由にする私を許さないでね?」
「おい、待て!リリアナ!!」
アランの止める声を無視して、ずっと準備していた魔道具に魔力を注いでアランのためだけに組んだ魔法を展開する。
指輪は魔法陣展開、そこへ貯めに貯めた魔力をピアスから解放して流し込む。一瞬で魔法陣は展開され、アランも魔法を中断させるのは危険なのを分かっているので手を引っ込めて複雑そうに私を睨んでる。
ごめんね?
誓約魔法。これは魔法的な契約で結ばれ、自由のないアランの組織との契約を破棄し、私をキーにして寿命以外での殺害を無効化させる私のオリジナル魔法。私が死んでしまえば、アランは不死身にはなれないが、そもそも彼は強いので大抵の人には負けない。
第一の目的はアランを縛る組織との契約の上書きと破棄だから、その先はおまけに過ぎない。アランの解放が出来たなら、大成功。
「あっ……くぅ」
アランの中で書き換えられる魔法の影響で苦しむ姿に申し訳なくなるが、これを完成させなければ彼は一生奴隷のように扱き使われる。そんなの、許せない。
「……!」
光が収まり、私の魔法は無事成功したようだ。良かった。
「リリ!!」
崩れ落ちる私を抱きとめてくれるアランの苦い顔が、昔見たスチルのままで、手を伸ばすと私の手を取ってくれる。
「なんで!!お前知っていたんだったら、なんで!こんな!!」
「言ったでしょう?ずっと、ずっと大好きだったの。
貴方が自由に、時に嫌味っぽく、意地悪に……でも好きに生きて欲しかった」
アランが悔しそうに、歯噛みしているのは申し訳ないけど、私にはこの手しか思いつかなかった。
「お前は!?お前はどうなる!」
「ごめんね」
「ふざけんなっ!こんな我儘は許さない!」
ごめんね、って言いたいけど、声が出ない。指さえも、もう動かせない。こんな即効性の毒だったのは想定外だったなぁ、でもアランを自由にできたからいいかな。
お父様、お母様、親不孝ではあるけど、領地で改善に使えそうなものはもう送ってあるから、それで許してね。
もうアランの声も聞こえない。あの目も見えない。
「………………」
アラン、幸せに。大好きよ。
その日、男爵令嬢であるリリアナ・ローズウッドは18歳でこの世を去った。一般的にはリリアナ嬢は事故で亡くなった事になっているが、リリアナの両親である男爵夫妻は彼女がとある事件に巻き込まれて亡くなった事は伝えられた。
そしてリリアナ嬢が残した魔法薬は土壌に有効な細菌と有害な細菌を識別して浄化を行い、土壌改善を行う画期的なもので、この後様々な地域で有効活用された。
読んでいただきありがとうございます。
もう1話エピローグがありますので、よろしくお願いします。




