⑪お天道
「957、958、959……まだまだですわ!」
「67、68、69……こんじょう〜」
ここは冒険者ギルドのトレーニングルーム。
お互いに顔を睨みあい、腕立て伏せで競い合う二人の女性。
ルナに特訓をさせるために、最近何度も訪れているのだが、この二人は顔を合わせる度に、こうして競い合うようになってしまった。
「……1000! 終わりました。 わたくしの方が先でしたわね」
「……100……く、くやしぃぃ! ルナは負けてない」
先に終わったのは向こう、それに回数でも圧倒的にルナが負けている。
『綺麗』のステータス値が低いルナは物理攻撃力が弱く、こういった筋トレは苦手とする。
それでも負けじと、対抗してるだけ偉い。
「「次!」」
お次はお絵描きで勝負するみたいだ。
『可愛さ』である特殊攻撃を上げるトレーニング。
うーん
率直な疑問だが……こんな事してステータス上がるのか?
『綺麗』とか『可愛さ』って、まず鍛えれるものなのかな?
「美とは努力の結晶! たゆまぬ努力こそが、真の美に繋がります」
「あ、ウィークリーさん!」
この人は冒険者ギルドのギルドマスター、ウィークリー・ロドリゲス。
顔に出てたのかな……俺の疑問を感じ取ったようだ。
「筋トレは『綺麗』、ランニングは『格好良い』、お絵描きは『可愛さ』、瞑想は『セクシー』を鍛える大事なトレーニング。 他にも食事や読者などの趣味や生活態度でステータスを上げることが出来るわ」
続けざまに語る……
「そう【究極の美】とは追求するもの……何が美に繋がるか分からないものなのよ」
美に対して、非常に厳しい見解を示すウィークリーさん。
言うだけあって、かなりの美人。
香水の匂いなのか、漂う色気なのか、判断が付かないが、とてもいい香りがする。
綺麗なお顔から目が離せない。
「あまり見られると恥ずかしいのよ。」
「あっ、す、すみません、つい……」
はぁ〜と溜め息をつき、自分の顔に手を当てるウィークリーさん。
あまりの色気に見惚れてしまう。
「私の美しさは罪。 誰もが振り向いてしまう……イケないのは私なのよ!」
そう言って、この場を去るウィークリーさん。
自信に満ち溢れた美しさをほこる見た目。
この世界、やたら美人が多いが、この人とシンラさんは軍を抜いてる。
「できましたわ! いざ勝負ですわ」
「お兄様〜! どっちが上手いか見てください」
二人のお絵描きが終わり、判定を要求される。
ルナが描いたのは天使。
天使が人に祝福を与えているような絵。
イメージ力が強く、鮮明に描かれている作品。
まるで芸術家が描いたかのようだ。
一方でライバルの方は……
化け物……おびただしい、その姿は、まるで魔王か悪魔を連想させる
化け物が血を人に与えて、同じ化け物に姿を変えている。
そんな作品に見える。
「えっと、化け物?」
「失礼な! これは姫と英雄ですのよ! センスがない人には分からないのですわ!」
めっちゃ怒ってる!
どう頑張って見ても化け物にしか見えない。
この勝負はルナの圧勝。
『可愛さ』でルナに適うものなし……
「ふんっ! いいですわ。 今度会ったら戦闘で決着をつけましょう」
「のぼむところ! ですわ」
「真似しないでもらえるかしら!」
仲の良い二人だ。
見てると楽しくなる。
勝負を終え約束を交わす二人に、ヒーリングをかける。
「なっ、わたくしまで回復させるなんて……どうかしてますわ!」
ルナの友達になってくれたのが嬉しかったのだ。
初めての友達、それも二人は同い年。
「変わった人ね。 ソルティよ!」
「え?」
「わたくしの名前! 覚えておきなさい」
そう言って暗い表情でギルドを去っていく、ソルティの左手には赤い呪印が刻まれていた。
そうか、彼女も奴隷だったのか。
「お兄様! そろそろ冒険に行きたいです」
「ドレスアーマーも治ってる頃だろうし、依頼を受けてみようか」
「はい!」
Bランクの女ハンター、アイナとの戦闘で半壊したドレスアーマー。
今日が丁度、修理が終わる日だ。
生身で戦うとなると怖ろしいが、ドレスアーマーがあるなら心配要らないだろう。
ルナはトレーニングも順調で、模擬戦では、あのクラリスさんの弟子のリーシェさんにお墨付きを貰える程だ。
ルナと共にクエストボードの前に立ち、依頼を選ぶ。
Fランクの依頼しかまだ受けられないが、何かいいのが有るだろうか。
探してはいるが、どれも採取やお使い系の比較的安全そうな仕事ばかり……
「これっ! お兄様。 これがいいです」
ルナが指差す方を見ると……【薬草採取】
……薬草を5束収集するだけのベタな依頼。
地味だが基本中の基本といえるだろう。
どうせ、どれも同じ様なのばかりだし、これでいいだろう。
「よし、それにしよう」
受付で依頼書とギルドカードを提示して依頼を受ける。
「森の奥には、なるべく立ち寄らないで下さい。 今は危険な状態ですので」
不穏な事を言う受付女。
戦う気はないから、森の奥には行かないようにしないと。
ルナにもしっかりと言い聞かせる。
用心するに越したことはない。
ギルドを出て修理屋に行き、ドレスアーマーを回収する。
「また、一緒にがんばろうね、うさぎちゃん♡」
久しぶりにドレスアーマーと会えて喜んでるようだ。
ルナは物を大事にする良い子ちゃんだ。




