Ep.3
時刻はお昼、13時30分を少し回ったあたり。
話し合いが終わったあと有希がふと腹が減ったと言い出した。
「...そいえば、朝から何も食べてなかったね」
「確かに」
言われて初めて気が付く鈴たち。
「琥珀、なんかないの?」
「一応供え物がいくつかあったはず」
「なんでこんなボロボロ神社にお供え物?」
「この地域の農業組合から昔から奉納されているからな」
今でこそこんな有様になっている琥珀神社だが、このあたり一帯では一番規模の大きい神社として知られている。琥珀も神事の時は人に化け、神主をやっているらしい。鈴は神様が神主とかおかしくないか?と思ったが、あえて口にはしない。なるほどね、とだけ呟き、琥珀と一緒に土間のほうへ歩いていく。その後ろを瑠璃と有希ががついてきた。
琥珀が引っ張り出してきたお供え物を前に三人と一匹は顔を見合した。
「これで料理...何作る?」
机の上に並べた食材を前に鈴が二人に聞いた。
ちなみに、この三人それぞれある程度なら料理をすることができる。それぞれ大学で親元を離れ一人暮らしをしているからだ。ただ鈴だけがサバイバル料理じみているのは気のせいではない。
「とりあえず在り物で作ってみるしかない...けど竈とか使ったことないんですが」
「そりゃそうだよね...でも何ができるわけ?鈴ねぇなんか浮かぶ?」
「無理だね。そもそもこれで何が作れると思った?玉ねぎの丸焼き?...いまさらながら、有希ちゃんもなれたね~」
「そりゃね、楽しくなってきたし。........ちゃん、か...ありだな」
どんどんおかしくなっていく有希を鈴は努めてスルーする。そしてそれに動じず順応した鈴に瑠璃はもう絶対に突っ込まない。そう心に強く刻んだ。
三人の前にあるのは米と玉ねぎそしてお神酒のみ。それぞれ保存が効くもので、今まで残っていたのも、うなずける。これらを前に何とかしようとしたが...あっさりとあきらめるほかない。そもそも調理道具すらないのだ。
「琥珀、お金ある?街行ってなんか買ってきたほうが早いや」
「まぁ、今までの賽銭だとか、奉納されたものがあるが、今この場にはないな」
「ん?あるのに今ないのか?」
琥珀の矛盾した答えに鈴が思わず突っ込む。
「すべて銀行に預けてある」
「銀行かよ、神様が銀行に貯金してるのか!ってかどうやって貯金しに!?」
「人に化けて。クレジットカードもある」
琥珀に対して様付する瑠璃が素で突っ込むと、琥珀はさも当たり前に、何言ってんの?、という顔で答えた。
「琥珀、服ある?さすがに巫女服は浮いてると思うから」
鈴としても流石にタンスにあった巫女服を着るわけにもいかない。ところが服を要求した鈴に瑠璃と有希が、えっ!!と信じられないものを見た顔をした。
「あの、睦が服について要求した、だと」
「鈴ねぇが、おしゃれに目覚めた...」
「いやいやいや、さすがに巫女服で外に行くほど無頓着じゃないから」
最早それは無頓着の域ではないと鈴も思う。街中で巫女の恰好をしていればただのコスプレイヤーだ。前の世界で鈴は、その性格と趣味により、機能性重視の服装をしていた。よって基本的に地味な黒や紺色、茶色の服になっていた。大学に入ってからだいぶ収まってきてはいたが、久しく会っていない二人が知る由もない。といっても流行というものに興味がなく、変化といっても毛が生えた程度のものだったが。
「種類は少ないけどあることにはある」
あるんだ、と2人は思ったが、ここは不問にしておくことで一致。問いただしても意味がないのは三人とも理解していた。
「それぞれの箪笥の中に入ってるから」
「それぞれの箪笥の中って、そんなの入ってたかな...まぁいっか着替え終わったら玄関集合で」
鈴の言葉で一度解散しそれぞれの部屋に入っていく。そうそう、とばかりに鈴は琥珀に声をかけた。
「琥珀にもついてきてもらうから、準備宜しく...わかった?」
「はい...」
鈴は若干いやそうな顔をする琥珀に念を押してから部屋に入った。あとに残された琥珀は、もう鈴には逆らえないと悟った表情をしていた。実際人の子の生活を見守ることはいいが、最近の喧噪だけはどうにも慣れない琥珀だった。
「よし、じゃ琥珀道案内宜しく」
「...わかったわかった」
みんな揃ったところで琥珀を先頭に街へ向かって歩き出す一行。なお全員おそろいのジャージ姿である。もれなくサイズぴったりのスニーカーまで用意された。ちなみにそれぞれお気に入りの髪形にしており、有希はサイドアップ。鈴はポニーテール、瑠璃はストレートにしている。といっても瑠璃の場合できなかった、が正しいが。因みになぜ今まで髪などいじったことがない他二人ができるのか疑問に思った瑠璃だが二人は頑なにそのことを語ろうとはしなかった。
先頭を歩く琥珀は30歳くらいの男性に化けている。スラックスにシャツ、その上からセーターを着ている。さながら部活の引率をする先生であるが最初は老人の姿に化け、鈴に注意を受けた。
「お昼何食べようか?」
「何でもいいよ?」
「右に同じく」
「お前らは、相変わらず...」
階段を下りながら昼食のリクエストを取るが他二人は完全にお任せ状態である。三人で出かけるといつもこうなる。そして最終的に某ハンバーガーチェーン店やコンビニおにぎりになるのはもはや自然なことである。
「そして瑠璃ねぇ、いい加減口調直さないと」
「そうそう、おしとやかなイメージで長女っぽく」
「...努力してみる」
これから人にかかわっていくのに瑠璃の今の口調だと危機感を覚えた鈴が忠告するが、瑠璃本人まだ恥ずかしさが抜けていないらしい。鈴と有希はノリノリになっているが。これは瑠璃がおかしいのではなく二人がおかしいだけなのだがあいにくそのことを伝えられる人はいない。ほら、こんな感じ~やらこうやって言ってみてなど、二人そろって瑠璃を玩具にしていた。
そうこうしているうちに参道を抜け、閑静な住宅街に出る。平日の昼時ということもあり、人の姿は見受けられない。立派な家々の間を抜けていき、通りに面したバス停へ。
普通神社の前にもあるよね、と鈴がさり気なく琥珀を責めるが、琥珀が昔はちゃんとあった、などと哀愁の漂う声色で言われれば返す言葉もなく、少し気まずい空気の流れる中、一行はバスを待った。琥珀の向かう先はショッピングモール。大抵のものはそこでそろえることができる商店街の天敵ともいえる場所だ。
琥珀が地鎮祭などに駆り出された際に使っているICカードで人数分払い(少し足りずに僅かにあったお賽銭で対応した)郊外にできたショッピングモールに到着した。
「でかい..な」
鈴が思わず素で呟いた。車の数も多く、これが休日になると行きたくなくなるのは目に見えていた。
「まずは琥珀様のお金を下さないと...ね?...」
「そだね~ATMどこかな?...琥珀ここよく来るでしょ?案内」
「すでに琥珀をナビ代わりにしている...一応神様だよね?」
ちょっとずつだが口調を変えていこうとしている瑠璃だが違和感は抜けきれず、早くも心が折れかけていた。そんな瑠璃を知ってか知らずか適当に受け流し、鈴は自動ドアを通って店内に入っていく。そんな一行に周りの視線が向けられたがそれに気が付いていたのは琥珀だけだった。その視線が何を意味するのか理解したくなかったが、仕方がないとあきらめた様子。鈴に呼ばれATMまで先頭を歩く。その間チラチラと視線を向けられ琥珀は、苦手意識を少しだけ強くした。
「琥珀の貯金っていくらくらいあるの?」
ATMの列に並んでいるときふと鈴が尋ねる。前の世界で『金の亡者』と親戚一同に言われてただけあり、その辺に興味があるのだろう。本人はそれを称号のようにしていたが。デリカシーなどという窘めの言葉が二人から発せられるが鈴はどこ吹く風だ。
「今まであまり気にしていなかったから、わからんな」
「そっか。とりあえずしばらく暮らせるぐらいないと私たちが働かないといけない?」
働くといっても有希の見た目では面接受からないだろうなぁ、と隣でこんこんと鈴に向かって説教を垂れる有希の頭に手を置いた。
これに対し、手を振り払った有希はさらに言葉を続けようとしたタイミングで琥珀たちの番になった。しれっと有希の説教から抜け出した鈴はあっという間に琥珀の隣にいた。琥珀がATMの案内音声が流れそれに沿って操作していく。その手際のよさはかなり現代慣れしていることがうかがえる。琥珀は前もって鈴から提示されていた金額を入力する。その額は一度に引き下ろすことができる最高金額。ちゃっかり暗証番号を盗み見ていた鈴はその番号をしっかり頭に焼き付ける。
当然番号だけではどうにもならないが、鈴は昔から四桁の番号をどうしても覚えてしまいたくなる病に侵されていた。
(こ・5、は・8、く・9、さん・3、か...覚えやす!)
取り出し口から出てきた札束を胸元にしっかりとしまう琥珀。最初琥珀は鈴に持たせようとしたが鈴はこれを拒否。曰く神様なら盗まれんでしょ?とのこと。ただ本当のことを言うと鈴が札束を持つことに腰が引けただけだ。
「さて、ぶらぶらしましょか」
「鈴ねぇ、たこ焼き食べたい。」
「んなら、フードコートかな?琥珀よろしく」
「はいはい...」
「なんかすいません琥珀様」
何度目かの鈴による雑な扱いを受け琥珀はもう考えることをやめた。鈴の中で琥珀はとっくに案内用狐になってしまったようだ。ただ琥珀もフードコートの場所はわからなかった様で案内板で確認していた。
有希の要望に応えフードコートに足を向ける4人。人混みの中、琥珀を先頭に鈴、有希、瑠璃と続く。通り過ぎる人たちからの視線に気が付かないまま、縦に並んでいるのに器用に他愛のない会話をしながら目的の場所まで進んでいった。
「お~意外とおいしいね、これ」
「うん、たこ焼き久しぶりに食べた」
フードコートの一角。4人掛けのテーブルに、たこ焼きを頬張る鈴と有希の二人。琥珀と瑠璃は現在トイレへ。たこ焼きを食べながら、鈴はとある心配をしていた。
「瑠璃ねぇ大丈夫かな?」
「それどっちの意味で?」
「もちろん後者のほう」
有希の質問に迷いなく答える鈴。十数年間の付き合いは伊達ではない。意思疎通はお手の物である。
「んー確かに...瑠璃ねぇ自衛力持ってないしね」
「私はおやじ仕込みの少林寺拳法。有希ちゃんは空手だしね」
「瑠璃ねぇだけだよね。全く自分を守れないの」
鈴は小さいころから父親に少林寺拳法を仕込まれていているがあくまで護身程度の初歩。有希は空手の道場に通っていたことがあり、最低限自分を守ることはできる。
なお実戦経験はないため、ただの妄想でしかない。
「いや、そっちじゃなくて」
おふざけはこの位にして、と鈴は懸念事項を思い浮かべた。あの姿に変わったとはいえ、そんな心配はしていない。
「「....................」」
既にたこ焼き8個入りは食べ終わっていて、だんだんとあることが心配になってくる二人。
「なんかいやな予感がしてきた」
「ちょっ鈴ねぇやめて、フラグになるから」
「あ”っそうだった。っでも琥珀がいるよ?」
「うーん。でもあの琥珀だよ?」
「モフモフナビゲーションシステム」
「今そんなこと言ってる場合?」
「たはは...かといって、ここ動いたら入れ違いになるかもだよ?」
「だったらどっちかが残って片方が探しに行くのは?」
確かにこの場合一番のベストは有希の案かもしれない。問題はどちらが探しに行くか、だ。もし鈴たちが懸念していることが起きれば探しに行った方は途轍もない労力を失うだろう。そしてそれぞれが連絡を取り合う方法も今の鈴たちにはないのだ。
「迷子センターに放送入れてもらう?」
一見冗談に聞こえるが鈴の顔は真剣である。
「私たちの中で一番大人びて見えるいる瑠璃ねぇが呼び出されるの?」
その様子がありありと想像できてしまい思わず有希は笑ってしまった。
「んじゃ、どうする...の?」
突然黙り込みポケットをまさぐる鈴
「なにか妙案が?」
「これ使ってみるか」
鈴が取り出したのは黄金色の毛を輪ゴムで束ねた物。
「それは??」
「ほら最初琥珀に会ったとき二人でもふったじゃん?あの時に少しむしってやった」
ニコニコしながらどこか誇らしげに話す鈴。
そう、この毛の束、琥珀の毛である。鈴は琥珀をいじり倒すとき記念にと、毛を引っこ抜いていた。一般的には動物虐待ともいえるが鈴は「お仕置きです」とのこと。
これには有希も、うわぁ、と引き気味だが。
「そんなことを...それで?どうやってそれ使うの?」
「神の一部なら、何かしらすれば何とかなるでしょ」
「何とかって?」
「さぁ?試行錯誤?」
「おい」
完全に先もわからずいろいろ試してみる。ここは前の世界と違って神やらなんやらが存在する。なら何か特別なことができるかもしれないと根拠のない自信が鈴にはあった。
強く握ってみたり、振ってみたり、おでこに押し当ててみたりetc...傍から見たら何をしているのか全く分からない。
「あぁ~もう!なんか起これ!!バカ狐!!」
<うおっと!!>
思いついたことを色々試したものの特に何も起きず、思わず強く握りしめ言葉を発したとき鈴の頭に声が響いた。
「ん?」
「なんかきこえた」
<え!!なんで!?なんで念話が!?>
「琥珀。瑠璃ねぇは?」
琥珀のかなり狼狽えた声が響いてくるが鈴はそれどころではない。返答次第では本当に探しに行かないといけなくなるからだ。
「え?あーずっと待ってるが一向に出てこないんだが」
はい、捜索決定。鈴の中ですぐに判断が下された。有希がどうだった?と聞いてきたので鈴は捜索開始とだけ短く伝えた。
「わかった。琥珀もういいわ。そこにいても意味ないから」
鈴は琥珀に一度こっちに戻ってくるよう伝える。
「捜索開始ってことは...やっぱり?」
「うん、間違いなくいつものだろうね」
二人の長い間に確立された共通認識。瑠璃が驚くほど方向音痴であること。しかし、それだけならまだよかった。
「なんで消えるのかな?」
鈴はそう嘆息せずにはいられない。瑠璃は消える。それはもう一瞬で。さっきまでいたのに振り向いたらもういない。しかも探し回って見つかるのがはぐれた場所から遠いのだ。
「方向音痴の人は自信を持って突き進むけど...」
「あいつの場合自信ないくせに進んでいくからな」
だから余計に、たちが悪い。迷ったらその場所から動くなと、何度言っても聞かないのだ。
「でも今回は琥珀がいたじゃない?なんで迷子になるかな~?」
「さすがに迷わないと思ったんじゃない?距離もそんなに離れていないし、一人でも大丈夫、戻れるっていう自信があったんでしょ」
「あちゃ~変に自信を持っちゃたタイプか。今回は」
「だろうなぁ」
そうこうしているうちに二人のもとに琥珀が戻ってきた。
「待たせた。そこにいても意味ないって、どういうことだ?」
琥珀は心底不思議そうな顔をしている。
「そのままだよ」
鈴の言葉を聞いても琥珀はまだポカーンとしている。しかし鈴が言ったのは本当にそのまま。いくら待っても出てくることはない。だってもういないんだから。
「どうする?手分けして探す?」
「いや、迷子センターに行って放送入れてもらおう」
「あ、冗談じゃなかったのね~。んでも怒るんじゃない、さすがに」
「たまにはいいでしょ」
いい薬になる、と鈴は思うが、一生治ることもないんじゃないかとも思う。だから鈴がやるのはちょっとした憂さ晴らしだ。毎度毎度迷子になる友人に対するささやかな反抗である。
「んじゃ、行きますか」
鈴たち三人は迷子センターへ足を向けた。
結局、鈴たちは本当に迷子センターで放送を入れてもらい、受付の人から発せられる目線の意味がありありと感じられるため、瑠璃が顔を真っ赤にしながら走ってくるまで、恥ずかしさに耐えていた。
当然、瑠璃はいかに自分が恥ずかしい思いをしたか、こんこんと語ったが、鈴たちはまったく取り合わなかった。なにせ、自分たちの方がもっと恥ずかしい思いをしたからだ。放送を入れてもらうとき年齢を聞かれ、有希が思わず本当の年齢を答えてしまったのだ。
「俺たちがどれだけ恥ずかしかったか聞きたいか?」
鈴が素で聞くと観念したのか、瑠璃は小さな声で一言。「もういいです...」とだけいった。
そのあとは必要なものを買いそろえるため食品売り場に向かい、今夜食べる分と、常温で1日置いておけるようなもの、簡単な調味料や調理器具を購入した。結果全員大きな袋を両手に持たなければならなず、思わず鈴が琥珀に神様なんだから青い狸のポケットを出してと無茶な願いを唱えていた。
慣れない体を一生懸命使い、来たルートを辿りながらふらふらと帰宅した三人はとりあえず食材たちを土間に置き、帰りがけに決めていた本日の料理当番である瑠璃を残し、茶の間へ向かった。
「はぁぁぁぁ疲れた!」
瑠璃を残しこたつに入った二人は予想以上になってしまった荷物の重みから解放され、やっと一息つくことができた。
「結構な大荷物だったね~」
「ほんとホント、本格的に移動手段を考えないと」
「バス停まで距離あるし、何よりここまでの階段が地味にきついからねぇ」
有希の言う通り、参道もそうだがその後の階段が一番きつかった。その辺どうにかならないの~と隣で横になっていた琥珀に抱きついていると、襖がゆっくりとあいた。
「あの~~夕飯作るの、手伝ってもらえると嬉しい...かな。なんて...」
現れたのは、申し訳なさそうな顔をした、割烹着姿の瑠璃。瑠璃にとって、竈でご飯を炊いたこともなければ、調理をしたこともない。一人でやって食材を無駄にしたくなかった。
「あ~、そっか、なら今日はみんなで作るか」
そのことに気が付いた鈴は、有希と一緒に割烹着を身に着けた。
三人で協力して作った夕飯を出来たそばから茶の間まで運ぶ。
「んじゃ、ご飯食べよか?」
本日のメニューは春告魚の煮つけに、白飯、味噌汁、菜花のお浸しである。水の出ない流し(琥珀が神様ぱわーを発揮した)と使ったことのない竈に四苦八苦しながら作った夕飯はそこそこの出来で完成した。白米は一部焦げたもののご愛嬌である。
「お~こうして並ぶとなんか豪華だね~」
「うん、さすが瑠璃ねぇだね」
「そんなことない。みんな手伝ってくれたし、今日は迷惑かけたから。みんなごめん」
「気にしてないよ。10年以上の付き合いだしね。放送頼むのもお手の物よ」
鈴がもう慣れた、と返すと瑠璃は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「それは...もう、言わないで」
「はいはい、もう食べよ、お腹すいた。いただきます!」
「あっ有希貴様、勝手に」
もう待ってられないとばかりに勝手に夕食を食べ始める有希。注意するも有希の手は止まらない。結局それぞれ、いただきますと口にし料理に舌鼓うつ。因みに琥珀は煮つけではなく塩焼きだったが、わざわざ分ける必要はあったのだろうか?と鈴は疑問に思った。人型で食べればいいのではと考えたが深く考えることでもないと思考を端に寄せ、ワイワイとしたにぎやかな夕飯が過ぎていった。
「あぁ、そうだ。渡しておくものがある」
夕飯を終え片付けをみんなでした後こたつでゴロゴロしていた3人に琥珀が切り出す。
「「「これは???」」」
琥珀がどこからともなく引っ張り出してきたのは金色の毛が編み込んである紐(瑠璃色、藍色、白色)に小さな鈴が付いたネックレスのようなもの。不思議なことに鈴は揺らしてもならない。
「これはそれぞれが念話をできるようにしたものだ。今回のことを踏まえ、これからあったほうが便利かなと。御守りとしてにこれから肌身離さず持っているといい」
「ありがとうございます、琥珀様」
「琥珀、偉いじゃん」
「お~すごいね」
瑠璃に瑠璃色の、鈴に藍色の、有希に、白色の紐を渡していく琥珀。純粋に喜ばれたことがうれしいのか照れを隠すようにしてこたつに入りなおす。
鈴は思う。でもやっぱりと。
「スマホほしいな...」
思わず口をついて出た言葉にしまったと手を当てるがもう遅い。琥珀は衝撃を受けた顔をして、こたつから出て隅っこにフラフラといってしまった。
「あーあ、泣かしちゃった」
「そんなこと今言わなくても」
二人から非難の声が上がるが、正直スマホがあれば今回辱めを受けなくて済んだのだ。
「スマホがあったら瑠璃だって恥ずかしくならなくて済んだんだよ?」
その鈴の言葉に瑠璃は思わず閉口してしまう。しかしよくよく考えればスマホがあった時も呼び出された経験があるため、情けないが大した違いはないことに気が付いた。
恥ずかしさを誤魔化すように責め立てる瑠璃の声を聴き流しながら、鈴はもう一度琥珀から渡されたネックレスを見てみる。丁寧に編み込まれたそれは気持ちがこもっているのがよくわかる。鈴だって人の子のだ。心のこもった手作りのものはやっぱりとてもうれしく思う。一通り眺めてから首に付け、久しぶりのくだらないバカ話で盛り上がっていく。時間は過ぎていき、深夜ともなれば二人ともすっかり寝落ちしていた。気づけば琥珀はこたつに入り込んでおり、寝入っているのかゆっくりとその体を上下させていた。
<ありがとう>
とても面と面向かって直接は言えないが、鈴はこの気持ちだけでも伝えたかった。だから、念話でつないだ。気恥ずかしさを隠すように、こたつにもぐりこんだ鈴の体を大きなモフモフがそっと包み込んだ。