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四獣神〈改訂版〉  作者: 亜衣
8/9

決着








--------------




「……あれから、椎は家に帰って来なくなった…!

「………」


「憎かったよ、そりゃあとても!!

わざわざあのクソ両親を動かしてまでお前から椎を遠ざけたって言うのに、お前はまた僕の椎を奪っていった!!

椎は電話にも出ようとしないし、会いに行ってもお前にしか優しい笑みを見せやしない!!


許せない、お前だけは絶対にぃい!!!」




トキは興奮して捲くし立てる様に話す風真をただただ見つめていた。

シイはそんな弟に、ただただ哀れんだ表情を見せる。




「風真……」

「っ、うるさい!お前が気安く僕の名前を呼ぶな!」



ギラッとしたその瞳に、トキは押し黙る。

そんなトキに視線を移すこともなく、風真はシイだけに優しい笑みを見せた。



「シイ、僕と一緒に家に帰ろう…?

これからは、僕と一緒に暮らそう?」



優しい笑みを見せ、シイに近寄る風真。

そんな風真を、シイはただただ見つめる。



「…シイ、」


「私の居場所は、トキの隣よ」




風真の己を呼ぶ声に、シイはゆっくりと、だが堂々と言い放った。




「私の居場所は、彼の隣だけ…。

再会したあの日から、私は彼だけに生きていくって決めたの。


…だから、いくら弟のアナタでも、トキに歯向かうのなら容赦はしない」





…シイの言葉に、うっすら笑みを見せていた風真の表情が凍りつく。

そして、次の瞬間には物凄い殺気を込めてトキを睨みつけた。




「……やる………」

「……」

「こ…や…。」



睨みつけながら、空ろに何かを呟いている。



「っ、トキ!」



それに気付いたタイガが慌ててトキに駆け寄ろうとするのよりも早く、風真はトキに殴り掛かっていた。



「殺してやるっ!!!」


「トキ!」





トキの後ろにいたシイが慌てて庇おうとするが、それよりも先に風真の拳がトキの顔に入った方が先だった。


トキは軽くよろめいたが、倒れはせず風真を見つめた。




「…今ので、満足かい?」


「はぁ?」


「……今のは、君から椎を奪った償いだ…。

…だけど、次からはもう殴らせはしないよ?」




俺も、シイが必要だから。


そう言って風真を見つめるトキを見て、ずっと傍観していたセンリは高らかに笑った。



「ははっ!トキさんってば真面目ねぇ。そういうトコ、私は好きよ」




でも、とセンリは妖艶に笑った。





「好きだけど、サヨウナラ」




センリが言い放ったと同時に、遠くから物凄い数の足音が聞こえてきた。

レイジは舌打ちをし、カンナはやれやれと肩を竦めた。




「数は百に満たないくらい、じゃのう」

「タイガ様のお手をわずらわせる程のものじゃありません!」



タイガとカンナはニヤリと笑って、ポキポキと拳の骨をならす。



「ヒカル、あんまり無茶しない様にな」

「はい、俺はレイジみたいに暴れたりしないんで大丈夫です!」


「俺、トップの威厳ないよなぁ」



タスクとヒカル、そしてレイジは戦いの場だと言うのにマイペースに談笑を続けている。


四獣神達に、朱殺が差し向けた刺客達は徐々に間合いを詰めていく。




「お前の知り合いなんて、みんな死んじゃえば良いんだ!!早く、早く僕の椎を返せっ!!!!」



そう言って絶叫した風真の言葉を皮切りに、男達の雄叫びと共に戦いが始まった。




「雑魚の面倒をみる程、面倒な事はないのう…」


虎徹、武勇の面々は着実に相手を気絶させていく。


そして、トキと風真が戦っているのを横目に見ながら、ユクモは己の前に立つ人物に目を向けた。




「…裏切り者は、排除するのがルールだからね」


「俺はやられたりしない」




ユクモの言葉に、ウキョウはあざ笑ったような笑みを見せた。

ユクモは小さくウキョウを睨みつけ、そしてウキョウとの戦いを開始した。




「はっ!!」


「…遅い」




ユクモのパンチを軽やかに交わす。


ウキョウは黙って攻撃してくるユクモを見ていたが、やがて小さく言葉を吐き出した。




「…諦めろ、俺には適わない」


「さっきからうるさいなぁ…っ!やってみなきゃ分からないだろ?」




舐めていた飴をガリッと噛み砕き、なおも攻撃を続けるユクモ。


だが、その攻撃はあまりにも決定打になりにくいジャブだけ。

その攻撃に、ウキョウは呆れ返る。




「…ユクモ」


「アンタの言葉なんて聞きたくないね。シイを傷つけた奴は、全て俺の敵になっちゃうんだから」




敵。



ユクモのその言葉に、ウキョウは少しだけ怯んだ。

その隙を見逃さず、ユクモは目を見開きウキョウの懐に詰めた。




そして、強烈なアッパーカットを繰り出した。






「ぐっ……!」


「まだまだ!!!」




顎を打たれ、脳が麻痺して身体が動かないウキョウに、追撃とばかりに裏拳打ちを決めたユクモ。

倒れゆくウキョウを見て、小さく笑った。




「左を制する者は世界を制する、って言うからね。俺のジャブを甘く見ていたのが運の尽きって奴だよ」


ユクモは悪戯気に笑って、ウキョウを見下ろした。



「…ウキョウ、俺はどうしてもアンタがただ風真の命令で動いてたとは思えない。だって、俺等といる時のアンタは偽りなんてない笑顔だったから」



その言葉に、ウキョウは目を見開いた。

バッとユクモを見ると、ユクモは悲しげな瞳で見下ろしていた。




「ウキョウ…」


「……俺の一家は、代々西園寺家に仕えている。」




ウキョウはユクモの搾り出す様な声を聞き、ゆっくりとその真意を話し出した。














……俺の家系は、代々西園寺家に仕えていた。



「俺の父、近衛泰三も例に漏れず西園寺の執事をしていた。」



俺が産まれたときから、父はずっと同じことばかり俺に言い聞かせていた。


『右京、お前も大きくなったら西園寺家に仕えるんだぞ』


…当時の俺は、ただ父の言葉に無邪気に頷いていた。

小さい頃からそればかり刷り込まれていたから、俺にとってはその命令が生きる使命の様なものだったからだ。



そして、俺が10歳になったとき。

一度だけ、父に連れられ西園寺家に尋ねたコトがあった。



『初めまして、右京さん。貴方のお父様には、いつもお世話になっているのよ。』


『いえいえ、奥様…。そんな滅相もない』


『ほら、貴方達もご挨拶なさい』




正直、怖かった。



なんていうか、西園寺家の独特の雰囲気が。


そして、その母親の横で此方を見つめる二つの視線。



『始めまして、僕の名前は西園寺風真だよ』

『………』



風真、そう言った男の子は隣に立つ女の子の手をギュッと掴み離そうとしない。女の子はそんな男の子を気にも留める素振りも見せず、ただ此方を見ている。


…否、彼女は此方を見ていない


何処も、見ていない。




『…あ、こっちは椎だよ。僕の双子のお姉ちゃんなの!』



話そうとしない椎を見かねたのか、風真が右京にそう説明する。

俺もその言葉に我に返り、慌てて挨拶する。



『あ、近衛右京です。もう少ししたら、貴方達の世話役をさせて頂きます。

どうぞ、宜しくお願いします』



形ばかりの礼をすると、ニコニコと風真は頷いた。

だが、椎はフッと小さく嘲笑を浮かべて俺を見た。




『…世話役って言うのなら、私のお願いを聞いてくれるの?』


『え?』


『私のお願いはただ一つ。


…彼に、会いたいだけよ』






…一瞬で、全身に鳥肌が立った。

なんでだか分からない。




ただ、椎の力強い視線に惹かれた。




『椎!またそんなコト言って…!』




ごめんなさいね、母親はそう言って曖昧に笑う。

そんな親を気にすることなく、椎はクルリと踵を返し部屋から出て行った。


風真も姉を慌てて追いかける。

子供の態度に憤慨している母親なんて、もう気にしていられなかった。



俺の心には、あの鋭い眼差しだけが渦巻いていた。



『…そうだったんだ』

『どうした、右京?』



分かったんだ、この時。



『俺は、椎を守るために生まれたんだ』


正直、西園寺家とかはどうでも良かった。

ただ、椎のあの視線が忘れられない。


俺はアイツの為に生まれたんだ。

本気で、そう思った。







それから、8年。


俺は18歳になってから、西園寺に仕え始めた。


当時、風真と椎は16歳。

俺が西園寺家に訪れた時、屋敷に椎は居なかった。




『あんな娘、知らないわ』

どこかで男でも作ってるんじゃない?


西園寺家の汚点だわ、そう吐き捨てる母親。

椎の父親は寡黙な人で、ずっと黙って花を生けている。




だが、風真は違った。



『右京、椎が居ないんだ…!

きっと、きっとあの男が椎を浚っちゃったんだ!!』



椎を、椎を助けて!

風真の言葉に、正直俺は乗り気じゃなかった。



俺が此処に来たのは、椎を守りたいから。

そんな椎が決めたことなら、それでよかった。



だが、風真も俺の主人。


主の命令は、下のモノにとって絶対的。



そうして、俺は椎を追って神龍に入った。





「…シイを見たとき、感動したよ」

右京は、自分に向けて嘲笑を浮かべた。



「…シイは、トキの横で幸せそうに笑ってた。俺は、そんなシイの傍に入れて幸せだった。だが、俺はあくまで西園寺家の執事だ。

西園寺家の命令には、逆らえない」




ウキョウの言葉に、ユクモはギュッと唇を噛み締め己の気持ちをぶつけた。



「俺はそう思わないね!」

「…何だと?」


「シイの幸せを自分の喜びだって言える位、シイのこと好きなんだろっ!?

じゃあ、その時点で西園寺家なんて関係ないじゃん!!

俺なら、絶対そんな関係引き千切ってでもシイの傍に居る…

シイの悲しい顔なんて見たくないし、これからも幸せそうな顔を傍で見てたいから。」




ウキョウは、大きく目を開いた。

ユクモの言葉が、奥深くに突き刺さった。




「…俺、は……」


「俺さ、見てて思ったけど。

シイ、すっげーウキョウのコト信じてたよ。」



だから、今からでも遅くないんじゃない?

ユクモの言葉を聞いた瞬間、ウキョウの瞳から一筋の涙が流れた。



そんなウキョウを見て、ユクモは苦笑いを浮かべた。




「…不器用な奴」






遠くで、ウキョウとユクモの会話が聞こえる。


シイはその会話を聞きながら、ジッとセンリを見据えた。




「……こうなる事を知ってたのね、センリ」


「…ええ、素敵なシナリオでしょう?貴女とトキさんの愛情によって、ヒソカ…、風真が壊れて。貴女を思うあまり、ウキョウが苦しむ…。」



なんて素敵なんでしょうね?

微笑みそう口にするセンリに、シイは顔を歪めた。



「性格歪んでるよ、気持ち悪い」

「そんな気持ち悪い私に、貴方達は負けるのよ」



センリの言葉を聞いた瞬間、シイは目を見開きバッと横に飛びのいた。




ガキィィン!!



シイが先程まで居た場所に、シイの後ろから忍び込んだ男が鉄パイプを振り下ろしていた。











「あら、流石は日本で一番有名とされる武道家、柩家のご令嬢!華道家のお父様より、お母様の血を多く受け継いだみたいね?」


「…黙れ、貴女ともう話をするつもりはない」


シイは己のコートに付けてあるエンブレムを取り外し、近くの椅子に置いた。

それを見たセンリも、同じように椅子に置く。




「…ベットの対象は?」


「…私の、命を賭ける」




シイはそう言うと、鉄パイプを振り下ろしてきた男に回し蹴りを入れる。

回し蹴りを直に受けた男は、小さくうめき声を上げたかと思うとそのまま気絶し地面にひれ伏した。




「…センリ、貴女が私に勝てる筈ない」


「……確かに、シイさんの言う通り私は戦えない。力もないし、貴女みたいに天性の才能もない。…だからこそ、私はココを使うのよ」




センリは己の頭を指差し、妖艶に笑った。

シイは顔を顰めたが、後ろから感じた殺気にすぐさま振り向いた。



すると、そこには風真が己を睨み付けている姿があった。




「…風真………」


「……椎は僕をからかい過ぎた。少しくらい反省させないと、またこの男の下に逃げてしまいそうだからね」



トキはその言葉を顔を歪める。

そんなトキの周りには、何十人もの男がトキを囲むように立っている。


中には獲物を手にしている男も居て、その様子を見てトキは溜息を吐いた。





「シイ、この人達を倒してから助けるから、少し待ってて」

「…大丈夫、風真は私が倒すから」




シイの言葉に、カッと風真の顔が赤く染まる。




「シイ、僕だって西園寺家の長男だ!

シイよりも強い、強いんだぁぁあ!!!」




そう叫ぶと、近くに転がっていた木刀を手にする。

その姿に、シイは内心小さく舌打ちを零した。



「…剣術、お母様の最も得意とされていた武術…。」


「そう!僕は椎が居なくなってからずーっと母に剣術を教えてもらっていた!

僕の剣は最強!素手で戦えるわけない!」



風真の興奮しきった声にもシイは動揺を見せず、ただ冷静を風真を見据える。



風真はその勢いをもって、シイに木刀を振り下ろした。




「…気が乱れているのに私に刀を向けるなんて、未熟者ね…」




シイはその木刀を軽やかに避けると、風真に足払いを掛けた。

風真はその足払いでバランスを崩し、思わず舌打ちを零した。


その隙をシイが見逃すはずもなく、バランスを崩した風真の懐に潜り込み腹に強烈な膝蹴りを入れた。




「うっ……!」

「…諦めなさい、風真」



呻き声を上げた風真だが、シイの言葉を聞いた瞬間目を見開いて木刀を持つ手に力を込めた。


「っ、シイにだけは負けない!」



素早くシイから身体を離し、体制を整える。

そんな弟に、シイは目を細めた。



「…まだ、やると言うの?風真、貴方は身体が弱いんだから、あんまり無茶しない方が……」


「っ!うるさい!!!」



風真は目にも留まらぬ速さで、シイに詰め寄った。

その速さに、シイは目を見開いた。



「僕は椎よりも強い!強い強い強い!!!」



油断していたシイは、風真の突きを直に受けてしまった。

だが風真の気が乱れていた為か、その突きは急所に当たる事無くシイの右腕に直撃した。




「っ……!」

「!ほら、僕だって椎に勝てるんだ!!」



右腕が麻痺した様で、動かない…。

シイは己の腕を見て溜息を吐いた。



ズキンズキン、右腕が燃えるように熱い。



いくら気が乱れていたといっても、あの突きをマトモに食らってしまったのだ。

折れて、使い物にもならないな…。




利き腕を負傷してしまったシイにとって、今や攻撃出来る種類は限られている。




風真は何が楽しいのか、高らかに笑った。






「あははははっ!!


もう僕の勝ちだ!!」


「…何を言ってるの?まだ終わってないわよ」


「いま僕に降参するというのなら、もう許してあげるよ?」





ね、椎?

風真は屈託もなく、微笑む。


しかしシイは風真を睨みつける。



「ふざけないで、まだ終わってないって……」


シイは痛む腕を気にする素振りもなく、風真に詰め寄った。

そしてそのまま風真を蹴ろうとするが、その威力は弱弱しく、思わず風真は笑ってしまう。



「ははっ!そんな蹴りじゃ僕は…」


「終わってないって……、言ってるでしょ?」



だが、その蹴りを交わそうと後ろに退いた風真を追いかけるように、シイは一度蹴った足を下ろした。



そして、その勢いで飛び上がり、反対の足で風真に前蹴りを入れた。

その二段蹴りはシイに先程も食らった腹に再び入り、その痛みに風真は顔をゆがめた。



しかし、素早くシイの足目掛けて木刀を振り下ろす。

それはシイの足に当たり、シイは体制を崩して倒れこんだ。




「っ!!」

「ふふ、あははははああ!!」




この好機を、風真は決して見逃さない。

直ぐに体勢を立て直そうとしたシイの身体に跨り、シイの顔面を渾身の力で殴った。



その反動で反対を向いたシイの顔面を、反対外から再び殴る。



「っ風、真……!」

「椎が悪いんだ!椎が、椎が!!」




口が切れたのか、口端から血を流す椎を風真は笑いながら殴る。


顔だけではなく、全身を痛めつける。

それはまるで、自分の所有物だと印を付けている様だった。




「や、め…!!」

「僕の、椎!椎は僕のモノなんだ!!」



我を忘れた風真の力に成す術もなく、シイはその身体を襲う痛みに耐える。

だが、腹に何発が入れられると意識が朦朧としてきた。




「…ト…キ………」




シイが、ぼんやりとそう呟いたとき。

ふと、身体に感じていた重みが消えた。




「…おい、テメェ覚悟出来てんだろうな?」




その瞬間、聞こえたのは。



愛しい人の、声。





「っ、いったいなぁ…」


「立て」




風真は勢い良く殴られた頬を押さえ、嫌味な笑みを浮かべて声の主を見上げた。



「…へぇ、そんな顔も出来るんだ」

「立てっつってんのが、聞こえねぇのか」




トキは、地を這う様な低い声を発した。

ゆっくりといつもは下ろされている髪を、かき上げる。



その瞳は、凍ったように冷たい。




「シイに、何しやがった」


「…調教だよ、もう僕に逆らわない様に、ね?」



トキは、ゆっくりと倒れているシイを見る。


シイは倒れこみ、ピクリとも動かない。





おそらく、気を失ったのだろう。

トキは視線を風真に戻し、言葉を紡いだ。







「…お前は、俺が殺してやる」






…風真の背に、一筋の汗が流れた。






















「…不味いのう」


「どうしたんですか、タイガ様?」



タイガは、壁に身体を預けながら風真と対峙しようとするトキを見つめて呟いた。

カンナは意味も分からず、首を傾げる。



「……久々に、あんなトキを見た気がするのぅ」


「俺も、もう見ることなんてないって思ってた」





その言葉に同意するように、ユクモのタイガの傍まで歩いてきた。

ユクモの隣には、ウキョウが気まずげに俯きながら立っていた。



その姿を見たタイガは、思わずユクモをマジマジと見つめる。



「…ほんとにおんし等は、人が良い奴等じゃ」


「なんとでも言いなよ、それより…」


「ああ。トキの奴、大分キレとる」




今のトキに、いつも浮かべている笑みはない。

ただ目の前のか弱い獲物を狩ろうとしている、肉食動物の様な瞳。


見ただけで、思わず背筋が凍りそうになる、あの瞳。



「あれは、シイと出会う前のトキそのものじゃ…」




そう、シイと出会う前のトキ。

数年前のトキが、キレた時に見せた表情と全く一緒だったのだ。




「…へぇ、あんだけ居た敵をもう倒したんだ」


「……黙れ、お前の言葉なんて聞きたくもない」



チラリと、風真は先程までトキが居た方を見た。

そこには多数の人間が、地にひれ伏していた。



その中には気絶しているセンリの姿も見え、風真は思わず笑ってしまった。



「うわ、僕等のボスってばホントに弱いんだねぇ…」



風真は暫くセンリを眺めていたが、やがてのろのろと立ち上がり木刀を構えた。



「…僕は、簡単にやられるつもりはないけどね?」




そう言って、トキへと駆け出していった。




…だが、その場に居た誰もが。





次の瞬間、絶句してしまった。







「次は何処を折って欲しい」


「う…、あああああぁ…!!!」



カンナは、思わず目を反らした。

レイジやアラタも、その姿に言葉も出ない。


ただ、タイガやウキョウだけがその姿を見つめていた。




「足、折ってやろうか」

「っ、ああああぁぁああああああ!」




その瞬間、聞こえた骨の折れる音と断末魔のような叫び声。

風真は折れた己の脚を抱えながら、トキをにらみつけた。



コイツ、ヤバすぎる…っ!!!!




己が、トキに向かって駆け出したのは覚えている。



だが次の瞬間、襲ったのは痛みで。

気がつけば、地に身体を付けトキからの攻撃を受けているだけだった。


腕も、足も折られた。

肋骨だって、何本イッたか分からない。


だが、目の前の男は決して攻撃を止めはしない。



「立て、シイを傷つけたこと…

死んで、後悔しろ」




…その言葉を聞いた瞬間、風真は悟った。

この攻撃は、僕が死ぬまで終わらない。


この男は、シイを痛めつけた僕が死ぬまで攻撃を続ける。

苦しみもがきながら、僕をじわじわと死へと誘うのだ。




「はぁ……あ…」




既に、息も絶え絶えな風真。

そんな風真を見下ろす、その瞳は冷たい。



トキは、倒れている風真に向かい足を上げた。




…トキがこの足を振り下ろせば、間違いなく風真は死んでしまう。



「っ、おい!」



タイガは、慌ててトキに駆け寄ろうとした。

だが、隣に居たユクモはそんなタイガを引き止める。



「何で止めるんじゃ!お前さんはトキがこのまま…!」

「無理だよ、トキ兄ぃは俺達の声なんて聞いてない」



ユクモは、決して焦らずただトキを見つめる。


そして、ゆっくりと微笑んだ。



「昔だって、今だって。

…トキ兄ぃを救う事が出来るのは、ただ一人だから」




…トキは、これで最後と言わんばかりに、その長い足を振り下ろした。




その瞬間…




「トキ!!!」



…トキの足は、風真に当たるギリギリ手前でピタッと止まった。



「…シイ………」



トキは、ゆっくりと後ろを振り返った。

そこには、己の背中に抱きつく愛しいシイの姿があった。



「…トキ、やめて…」

「シイ…」


「自分を、見失わないで…!」




トキは暫く先程と同じような無表情でシイを見つめていたが、やがていつもの瞳に戻る。

そして、そっとシイを離して今度は正面からゆっくりと抱きしめた。


シイはそんなトキに気がつき、顔を上げる。

其処にいたのは、紛れもなくいつものトキだった。




「シイ…!」

「トキ、私なら大丈夫だから…」

「……うん」



トキはただ、シイを抱きしめる。

シイも、それに応えるように折れていない方の腕でトキを抱きしめる。




「…トキ、風真……」


「……うん」




暫く経ち、トキはシイを離した。


そして、倒れている風真に近づくシイ。



風真はその気配に気がついたのか、のろのろと視線を動かしシイを見た。

シイは、風真の横に座り込み、弟の手を握った。



そして、痛まないように気を使いながらその上半身を起こさせると、ゆっくりと風真を抱きしめた。




「っ、椎…!?」



驚いた風真がシイを呼ぶが、それを無視してシイは風真の傷だらけの身体を労わるように抱きしめた。



「…風真、私は貴方に嫌われてると思ってた」

「…え…?」


「西園寺家時期当主だった私が、家を出て行って…。

貴方は病弱なのに、その責任を貴方に擦り付けてしまった。

それなのに、風真は私を探してくれてたんだね…。


…正直、凄く嬉しかった」





ありがとう、シイは小さく呟き己の半身を優しく抱きしめる。


そんなシイの言葉に、風真は涙が止まらなかった。




「っ、椎…!」


「…なあに?」


「っ僕、ずっと椎が一緒に居てくれるって思ってたんだ…!

だって、だって椎は僕の半身なんだよ?

それなのに、あの男に着いて行った椎を見て、凄く怖くなった…。


椎は、僕を置いて消えちゃうんだって…!!!」





ごめん、ごめんね。

泣きじゃくりながら必死にシイにしがみ付く風真に、シイは微笑んだ。




「バカだね、風真は。

私達、双子よ?離れたくても、離れられないんだから」




二人は、お互いの片割れを愛しみ合うかのように抱きしめあった。



そんな姿を見てから、トキは既に戦い終わっていたタイガ達に視線を向け、笑った。






「…帰ろう、俺達のアジトへ」






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