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四獣神〈改訂版〉  作者: 亜衣
6/9

朱殺





「…ハハッ!おんしも大変じゃのう!!」


「笑い事じゃねーっスよ!タイガさん!」




ヒーヒーと涙を浮かべて笑うタイガに、レイジは頬を膨らませた。

その横では、そんな二人を見て笑っているトキ。




「何であんなに食うんだよ、ユクモの奴!一ヶ月のお菓子代であんなに金かかる奴、絶対アイツだけだ!」


「アイツの主食が菓子みたいなもんやからのう…。シイとそんなベットをした己を恨みんしゃい、レイジ」


「はぁ…、確かにベットしたのは俺ですけど…」



レイジはぶつぶつと文句を言いながら、目の前にあった飲み物を一気に飲み干した。


タイガはそんなレイジを見てまたハッハ!と笑うと、二人を傍観していたトキに話し掛けた。



「…さて、今日は折角四獣神の会議を開くんじゃ。お遊びは程々にして、そろそろ本題に入るか」



神龍のアジトに、トップが集まる。

…普通では、ありえないこの光景。



それ程までに重要な問題が、あるという証拠である。



「…まぁ、四獣神のって言っても当の朱殺はおらんがのう」


「当たり前っスよ、居たら俺が真っ先に蹴り掛かってるし」




レイジは、苛立ちを含んだ声でそう吐き捨てた。


それをタイガは慰めると、真剣な瞳でトキを見据えた。




「…んで、これからどうするんじゃ?」


「…ウキョウの情報だと、いま朱殺に潰されたチームは約30チーム…。

殆どが弱小チームだけど、3つ程大型チームも潰されている。…みんな、いまは入院しているらしい」



トキは溜息を吐くと、机に肘を付き両手の指を絡ませた。



「…それはそれは、関心せんのう」


「殆どは、センリじゃなくてナンバー2がベットを行っているらしいんだ」




センリは、シイと同じく女性。


赤茶前下がりヘアーが印象的で、愛らしい容姿をしている。



…だが、考えは誰よりも残虐冷酷。




「…センリ自体は、そんなに強くはない」


「問題は、そのナンバー2って事っスよね」




レイジの言葉に、頷く。


そう、問題は実質チームを潰しているナンバー2にあるのだ。



神龍、武勇、虎徹のトップ3は夜に生きる若者の間では知らない者はいないと言われる程有名である。


だが、朱殺はトップの名は知られていてもナンバー2やナンバー3は誰も知らないのである。



男性か、女性か。





それすらも、分からないのである。





何も情報がない今、むやみやたらと動くのがどれ程危険かは、トップである三人が一番知っている。

だが、レイジはその情報を得るのを待っている程寛大な男ではなかった。



「相手が男だろうが女だろうが、叩き潰すだけっスよ」


「…確かに、ウキョウの情報をただ待っとるだけやったら、その間に被害が甚大するかも知れんしのう…」




情報はない、しかし情報を得る時間もない…。


トキは暫く考えるような素振りを見せたあと、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。



「…そうだね、三日後。三日後、朱殺のアジトに総攻撃を仕掛けよう。

…もちろん目的は朱殺の抑圧であり、戦うことじゃないよ。

それと、出来るだけメンバーは少ない方が良い。大きな騒ぎを起こして四獣神が荒れているのを悟られたら困るからね」



トキの言葉に、二人も頷いた。



「…じゃあ俺は、カンナと二人で出向こうかのう…。レイジ、おんしはどうする?」


「そーっスね…。とりあえずナンバー2のタスクとアラタを連れてくっス。ナンバー3のイッキはいまちと訳アリで入院しちゃったもんで」


「おーおー、そりゃ可哀想に」



レイジの苦笑いに、タイガはレイジの肩を叩くことによってそれを慰めた。

そして、黙りこくっているトキに視線を移した。



「トキ、おんしはどうするんじゃ?ユクモも連れて行くんか?」


「俺はいつも通りだよ、シイとユクモを連れて行く。…あ、あと今回はウキョウにも着いて来てもらう」


「ウキョウが?珍しいのう、ウキョウが前線に出るなんて」


「本人たっての要望だからね、今回は」



トキは弱弱しく微笑み、タイガ達を見た。

様子の可笑しいトキに、レイジとタイガは首を傾げる。



「どーしたんスか?なんか元気ないっスね…」


「本当じゃ、どうした?」





二人の言葉に、トキは切なげな表情を浮かべた。




「…ううん、何でもないんだ。

……ただ、嫌な予感がするだけだから」



これは、本音であった。

なぜか、胸騒ぎがしている。



嫌な予感が胸を渦巻いていてトキは気味が悪かったのだ。





「おんしは優しいから、どこかで気が引けてるんじゃろう。大丈夫じゃ、そんな予感すぐに吹き飛ぶ。」


「そーっスよ!俺等も付いてんだし、トキさんも安心して下さいって!」




二人の心強い言葉に、ようやくトキも少しだけ表情を緩めた。

そして、少しトイレに行くと言って席を立った。



「…最近のトキ、どう思う?」

「…へっ?」



…トキが去ると、その後姿を見ていたタイガがレイジに話しかけた。

レイジは質問の意味が分からず、素っ頓狂な声を上げた。

タイガはそんなレイジを見ずに、ただトキが座っていた椅子を見つめていた。





「最近の、トキさんっスか?」


「ああ。」


「別に、いつもと変わんないっスけど…?」



レイジの答えに、タイガは笑った。



「そうじゃったのう、おんしがトキと会ったのは去年じゃったからのう…」


「…そーっスけど、トキさんって昔からあーだったんスか?」




優しく、微笑を絶やさない男。


絶対的な信頼をもたれていて、カリスマ性を維持し続けているトキ。




タイガはその質問に、少し寂しそうに笑った。




「…俺とトキが出会ったのは、俺達が10歳の頃じゃった」


「へぇ、ずいぶん前っスね」


「腐れ縁みたいなもんじゃ」




当時、トキとタイガは10歳。

ユクモは、まだ8歳だった。




「俺の年の離れた兄貴が当時の虎徹のトップじゃった。俺もよく遊んでもらっとったんじゃが、そん時に初めてアイツと会った…。」


「トキさん、昔からあんな性格だったんスか?」



タイガは首を横に振った。



「ユクモと手を繋いで立っていたアイツは、はっきり言って狂犬じゃ。トキの生い立ちなんて知らんが、アイツは当時のトップに拾ってもらったらしい」


「へ?そうなんスか?」


「ああ、昔酔った勢いでアイツが言っとった。自分の家は崩壊して、トップに拾ってもらった、と」




タイガは懐かしげに瞳を細めると、机に置いていたビールを一口飲んだ。



「…俺と会ったときのアイツは、本当に手の付けれんくらいの狂犬でのう…。実際、今は生意気なユクモが兄にビビッて泣いとったくらいじゃ。」


「ぷっ、あの生意気なユクモが?何か、信じられないっスね」


「…10歳にして、既に桁外れの実力をアイツは持っとった。そんなトキが変わったのは、3年程前じゃ。…そう、アイツは変わった」



…纏う空気、流れる穏やかな雰囲気。


狂犬だったアイツが、変わった瞬間でもあった。




「…まぁ、それはアイツにとって良いことじゃったけどな」


「…タイガさんは、何が言いたいんスか?」


「アイツの優しい性格を見てたら、何か変な違和感を感じてのう」

「トキさんがシイさんのこと溺愛してるからじゃないんスか?」


「…まぁ、アイツを変えたのは間違いなくシイじゃろう」




タイガは、此方に戻ってくるトキを見て微笑んだ。


…トキの胸騒ぎと同じく、タイガも何か胸騒ぎを感じていたのだ。



「…まあ、アイツ等なら大丈夫かのう……」

「?」


「何でもない、こっちの話じゃ」



不思議がるレイジの頭をグシャグシャに撫でると、うわっ!?とレイジが身を捩った。


その様子を、タイガと戻ってきたトキが笑う。


…コイツの幸せが、いつまでも続くと良いんじゃがのう。




タイガは、何も言わずただただ微笑んでいた……。






------------






「………はい…」




神龍のアジト内にある、小さな倉庫の様な部屋。

此処はエンブレム室になっていて、今までベットで勝ち取った他チームのエンブレム達が眠っている。



その部屋に、ウキョウは居た。



神妙な面持ちで、携帯を片手に誰かと話している。




「…はい、大丈夫です」


『………』


「ええ…」




何か考える様に、話しているウキョウ。



その表情は、暗い。





「はい、今後も西園寺椎の監視を続けます」


『…………』


「了解致しました…、失礼します」





携帯を切り、深い溜息を吐き出すウキョウ。


その顔は、苦渋に満ち溢れていた。





「…シイの幸せって、何なんだろうな」





小さくそう呟くと、遠くからユクモが己を呼ぶ声が聞こえた。



ウキョウは携帯をしまうと、己を呼ぶほうへと歩き出した。


***



…それから、あっという間に時は過ぎ行き…。

気がつけば、あの話し合いから3日が過ぎていた。



場所は、神龍のアジト。



其処に、四獣神のトップ達が集っていた。




「シイなんて居なくても、私とタイガ様で朱殺なんてやっつけちゃうのにぃ!」


「カンナ、シイは頼もしい戦力なんじゃ。そんなこと言わんでよか」



今日もばっちりメイクと、金色の髪を綺麗に巻いたカンナ。

そのカンナに引っ付かれているタイガも、ドレットヘアーは健在である。




「ふわぁぁ…、昨日徹夜で仕事だったから眠い……」


「しっかりして下さい、レイジさん」


「タスクさんの言う通りだぞ、レイジ!」




此方は、武勇。


どうやら仕事で寝ていないレイジは、しきりに欠伸を零している。



それを注意するのは、武勇ナンバー2であるタスク。

タスクは黒髪を少し遊ばせていて、眼鏡をきっちりと付けている。

容姿だけで言うと、まさしくエリートといった姿である。



そんなタスクに同意するのは、レイジの幼馴染であるヒカル。


レイジはそんな二人に責められ、やれやれと肩を竦めていた。




「…いつ見ても、武勇は良い男ばっかりだな」

「女子に大人気のチームだからねぇ…」




そんな騒がしい武勇を見て、呟いたのはウキョウ。


ユクモはその問いに答えると、不思議そうにウキョウを見つめた。




「それにしても、ウキョウがアジトから出るのは久々だね。なんで今回は出る気になったわけ?」


「…別に、今回は重大な内容だからな。加勢した方が良いと思っただけだ」


「ふーん…。まっ、心強いのは確かだけどね」




そう言うと、噛んでいた飴を噛み砕いたユクモ。


相変わらずのその姿に、ウキョウはただただ苦笑いを浮かべていた。





「…それは良いとして、あの二人ちょっと遅くない?」


「そうだな…、まあもう直ぐ出てくるだろう」





ユクモの言う、あの二人とはもちろんトキとシイの事である。



ちなみに、いまユクモ達がいるのはアジトの前。




トキ達は、未だアジトから出て来ない。




「…トキ、行かなくて良いの?」


「ん、もうちょっと……」




アジトの中、シイの呆れた声が響き渡る。


トキはシイに抱きついてまま、離れない。



「…トキのもうちょっとは一体いつまで掛かるの?みんな、外で待ってるよ?」


「…分かってる」


「分かってるなら、早く…」


「分かってるけど、どうしても嫌な予感がして…」





トキは、シイを抱きしめる力を強くした。


その姿は弱弱しい子供のようで、シイは思わずトキを抱きしめ返した。




「…大丈夫だよ、トキ」


「…シイ?」


「大丈夫」




ゆっくりとトキの背中を擦るシイ。


そんなシイを見て安心したのか、今まで強張らせていた身体を解すトキを感じてシイは安堵の息を吐いた。



「…じゃあ、行こうか。」


「うん…、シイ?」




シイがトキから身体を離し、外へと向かう。



そんなシイの腕をパシッと掴んだトキ。


それに気付きゆっくりと振り向いたシイの唇に感じる、確かな熱。




「んっ……」


「…大好きだよ、シイ」




暫くして、そっとトキが離れる。

離れるなり、視界一面に見える蕩けるような極上の笑み。



シイは、己の頬が赤くなっていくのに気付いた。




「…私も、だよ」


「うん、ありがとう」



顔が赤くなりならがも必死に言葉を紡ぐシイを見て、トキは心が温まるのを感じた。


俯くシイの手を取り、扉へと向かう。




その心は、晴れ渡っていた。








「…遅かったね」


「ごめんね、ユクモ」


「…全く、良いご身分だね」




外に出ると、全員がトキ達に呆れた視線を向けた。

それをサラッと交わし、トキは笑顔でみんなに近づいた。




「…トキ、あんまりボヤッとしとれん。ウキョウの情報では、いまセンリはアジトにおるらしいが…ナンバー2がセンリの傍におる確立は、そう多くはないからのう。」


「…そうだね、じゃあ行こうか」





トキの言葉を皮切りに、全員が歩き出した。



「…お、おい……!」


「どうなってんだ、こりゃあ…」


「何が起きるんだ…?」



街にいた若者達は、みな驚き言葉を失った。

四獣神、それは憧れの的である。


その四獣神のトキ、タイガ、レイジが共に歩いているのだ。

そして、その後ろにはチームの幹部達を従えている。


歩いている姿は、まさしく辺りを圧巻している。

若者達は、頭を垂れ口々に囁きあう。



…四獣神が、動き出したと。








「ウキョウ、まだセンリはアジトに居る時間帯?」


「ああ。情報では今日この時間はセンリはアジトにいるらしい。最も、ナンバー2は分からないが…」


「いや、センリだけの方がありがたいね。事は穏便に運びたいから…」



朱殺のアジトが近づいてくるにつれて、人影が少なくなっていく。

どのチームも、朱殺に怯えているのだから無理はない。




そんな道を、トキ達は堂々と進んでいく。


やがて、朱殺がアジトにしている建物が見えてきた。





「…久しぶりじゃのう、ここに来るのは」


「え?タイガさん来たことあるんスか?」





…朱殺のアジトは、潰れたゲームセンターであった。


一度は解体作業が行われていたのだが、どういった訳が不良の溜まり場となってしまい作業が進まず終いになってしまった建物である。



薄暗い建物を見てポツリと呟いたタイガの言葉にレイジが反応する。

そんなレイジに、タイガは頷いた。



「センリが朱殺のトップになったときに、トキと一度挨拶に来たんじゃが…。思えば、どうもあの頃からいけ好かん奴じゃったのう…」



タイガは苦渋を飲んだ様な表情を見せ、忌々しげに建物を見つめた。

トキも同じように建物を見ていたが、やがて全員を見つめて言い放った。



「…じゃあ、行こうか」






各々が様々な思いを抱きながら、アジトへと足を踏み入れた。




入り口付近には誰もおらず、ただ辺りは薄暗い。





「…誰もいないわけ?」


「そんなわけないだろ、バカ」


「なっ!アンタよくも私にそんな口を……っ!」


「はいはい、言い合いは止めとけって」




ユクモとカンナが言い争いになりそうになった所を、レイジが止めに入る。


そんな二人を見て、ウキョウは溜息を吐いた。




「お前達、こんなときに喧嘩なんてするなよ」


「「だって、コイツが!!」」



「あー、もう分かったから」




息ピッタリな二人に、ウキョウはまたもや重い息を吐くのであった……。




「騒がしい来訪者な事で……」




…全員が、動きを止めた。

クスクスと、響き渡る笑い声。



バッと奥を見ると、誰かが居る。




「…お久しぶりですね?トキさん、タイガさん」


「…センリ…」





其処に居たのは、一人の女性。

前下がりの髪型に、美しい笑み。

少々幼い顔立ちであるが、レイジやシイよりは年上だと分かる。



センリは、UFOキャッチャーに凭れ掛かり此方を見つめていた。





「…っ、お前がセンリか…!」


「あら?武勇のトップのレイジくん?ごめんなさい、挨拶に行かなくて。センリです、どうぞよろしく。」



といっても。

そう言って、センリは嘲笑を浮かべた。



「どうせ潰すチームだし、挨拶なんていらないわよね?」



センリのこの言葉に、レイジはカッと目を見開いた。




「お、まえ…っ!!」

「こら、レイジっ!!」



ヒカルの制止も空しく、レイジはセンリの方へと駆け出した。


…が、それは誰かに止められる事となる。



「っ…!?」


「駄目よレイジくん、感情のままに動いちゃ直ぐに相手に殺されちゃうわよ?」




レイジの蹴りは、確かにセンリに届いたのだが。


“誰か”が、レイジの蹴りを腕で防いでいた。




「……あ………」





その姿に、シイは小さく声を零した。


黒のキャスケットに、黒のロングコート。

ズボンも靴も真っ黒で、サングラスをかけている。





…そう、それはレイジと会ったときにシイに殺気を飛ばしていた男であった。




「っ、お前が例のナンバー2ってか?」


「…………」




レイジも思い出したらしく、苛立ちを込めた声で男に問う。


男は黙ったままレイジの蹴りを受け止めていた腕を下ろし、さっとセンリの後ろへ下がった。




「…そう、彼は私の優秀な僕。

……そうだわ、彼の事はヒソカと呼んであげてくれる?

彼、自分の名前が嫌いらしいから」



クスクス、センリが笑う。

その間にも、ヒソカと名づけられた男は微動だにしない。



「…センリ、おんしは一体何を考えちょる?

辺りのチームを虱潰しに倒していって、何がしたいんじゃ?」


「…そうね、貴方達からしたら私の考えなんて分からないんだろうけど。私はね、夜の街すべてを手に入れたいの」



恍惚な笑みを携えて笑うセンリ。

ヒカルは、ゾクッと背筋が凍るのを感じた。



「…四獣神のたった一つのトップだけじゃ、満足出来ない。私は、全てにおいてトップになりたいの。

…私がトップになるんだから他のチームなんていらないでしょ?」


「……アナタ、頭おかしいんじゃないの?」




センリの言葉を聴き、カンナが呟く。


カンナの言葉を聞き取ったセンリが、ゆっくりとカンナの方へと向き直る。




「…そうね、おかしいのかも知れない。

でも、そう言っていられるのも今のうちよ?」


「はぁ?」


「みんな、そう言って反抗してきたけど。最後には、私にひれ伏して従ってくれているもの」



…頭、イっちゃってるわね。

カンナは、内心毒吐いた。



そんなカンナと同じ気持ちだったらしいユクモも、口を開いた。



「…それは、アンタに忠誠を誓ったからじゃないだろ?ただ、アンタに潰されるのがイヤだからに決まってんじゃん」


「それでも、私に従うのには変わりはないわ」


「あー、ほんとこんな奴ほどストーカーとかになるんだよなぁ」




レイジの嫌味にも、嫌そうな顔を見せないセンリ。

そんなセンリに、スッと近づくトキ。



「…センリ」


「あら、トキさん。私にあまり近づくのは、どうかと思いますよ?

…ヒソカ、アナタの事大嫌いみたいだから。」





センリの言葉が聞こえたと思った瞬間、シュッと何かが切れる音がトキの耳元で聞こえた。




「トキ!」


「大丈夫だよ、シイ」




トキは、目の前にいるヒソカを見つめた。


ヒソカの放ったパンチはトキの頬を掠めており、トキの頬からは擦り傷から滲み出た血が見えた。




「…早いっスね」


「ああ、センリの後ろにおったんがあっという間にトキの前に現れてパンチを放ちよった」




レイジとタイガも、冷静にヒソカを観察している。


そんな中、遂に黙っていたヒソカがゆっくりと口を開いた。




「…トキ」


「…………」


「…いや、相模朱鷺」





…その言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。


「…どうして、トキ兄ぃの名前を……!」


「…相模朱鷺、そして相模行雲……」



ヒソカは、じっとトキを睨みつける。



「…俺は、お前達を許さない」

「っ……!」



ゆっくりと、ヒソカがサングラスを外す。

そしてキャスケットを脱いだその瞬間、辺りは静まり返った…。


驚きで、声が出ないのであろう。





「…俺から、椎を奪ったお前達を……!」


「……あなた…風真?」




ポツリ、シイの声だけがその場に響き渡った…。


……シイが風真と呼んだ彼を見て、トキは声が出なかった。


タイガが、ポツリと言葉を落とす。




「…シイ?」


「……似てるだろうね、俺達は一精卵双生児なんだから」




…ヒソカ、いや風真の顔はシイと瓜二つなのである。


違うのは、風真は髪は短いがシイはボブカットという点だけだろう。



それ程までに、二人は似ていたのである。




「…ふふ、怖くなった?」


「っ……?」


「俺が、椎を奪いに来たから」




トキはただ黙って、風真を見つめた。


そんなトキの視線に臆することなく、風真はチラリとウキョウに視線を向けた。



「…今まで椎の監視ご苦労だったね、右京」


「……なっ!なんでお前がウキョウのこと知ってんだよ!?」




ウキョウの横に居たユクモが声を荒げる。



「…そんなの、決まってるだろ?」


なぁ、右京?


「………はい、風真様」



ウキョウは暫く黙った後、ゆっくりと風真に視線を合わせ深く礼をした。

それを見たシイは、はっと大きく目を見開いた。



「…ウキョウ、あなた……」


「……シイ、いや椎様。私は今まで椎様の監視を勤めさせて頂きました、近衛右京と申します。」



近衛という名前に、聞き覚えは御座いますね?



「そ、んな……」

「今日、センリが此処にいるという情報を流したのは俺さ。

…分かったでしょ、椎?

君は、西園寺家から逃げられはしないんだ」




…ふらりと、地面が揺れる。


シイは、ただ黙ってウキョウを見つめていた。





「…ウキョウ、今まで私のこと……」


「…奥様の、ご命令でしたので」


「っ、ウキョウ……!」


「ご理解下さいませ、椎様」





ウキョウは、子供を諭すような声音で言い放った。





「お、おい。どうなってんだ?」

「さ、さぁ……」



レイジやヒカル達は、この状況に一向についていけなかった。

ただ、目の前で起こることを眺めるだけ…。



そんなレイジ達を見たセンリが、クスッと笑った。




「…其処にいるお嬢様は、」


「っ、やめて!」




センリが口を開こうとしたとき、シイがその言葉を遮ろうとした。

だが、センリはそんなシイを気にすることもなく言い放った。




「そこのお嬢様は、華道界のトップである西園寺家の時期ご当主様…。

西園寺風真の双子の姉である、西園寺椎様よ?」


「っ……!」


「ねぇ、椎様?」



唇をかみ締めるシイに、優雅に笑みを向けるセンリ。

シイはただ、黙って唇を噛み締めることしか出来なかった。




「……ねぇ、椎」


「………っ!」





風真がシイに近づこうとする。


だが、その瞬間トキが目にも留まらぬ速さでシイの元まで進みその身を己の背に隠した。




「……っ!?」


「シイは、渡さない」




そんなトキを見て、先ほどまで笑っていた風真の表情が変わった。


鬼の様な形相で、トキをにらみつけたのだ。





「いい加減にしときなよ、相模朱鷺。

君は、俺から椎をいつも奪おうとする。

そう、あの日もそんな風に俺から椎を奪った…っ!!」




今にも噛み付きそうな形相を見せる風真を見据えながら、トキはその言葉の意味をゆっくりと思い出していた。






「…お前さえ居なければっ!椎はずっと俺の傍にいたのに!!」


「っ、風真!!」


「憎い憎い憎い…!俺の愛しい椎を奪ったお前が!俺は憎い!!」





…トキは、その言葉にゆっくりと瞳を伏せた。






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