第08話 EP03-01 人間サイズの四つ角
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
秋の日曜日の穏やかな午後に、我が家のリビングルームのソファに座る。
廊下側の外開きの戸から入って、部屋の手前側にはローテーブルと五脚のソファがある。奥側には、絨毯敷きの広めの空間を挟んで、テレビと数台の棚がある。
絨毯には、愛妹と静妹が仲睦まじく遊ぶ。今日も、かわいい髪型に、かわいい服で、かわいい。
さらに、休日に、美月が遊びにきている。静妹を隠す必要が無くなったので、気が楽である。
傍目には、静妹を狙う美月と、静妹を庇う愛妹が、威嚇し合うようにも見えるけど。仲良くて好い。愛妹の周りに人が集まるのは、偏に、愛妹はかわいい、もとい、愛妹の人徳だろう。
オレの名は『新実 健二』。『内地』では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子。『外地』なら、『人が武器に残した強い思い』で戦う魔法使い『心剣士』だ。
◇
肝心のオレはと言うと、休日なのに中学校の制服を着る。ローテーブルを挟んで対面のソファには、座るユーナベルム王国のユーナ王女様が、にこやかに微笑む。
オレは、超緊張している。
「今回、新実 健二『心剣士』殿に依頼したい内容であるが」
壮年のユーナベルム騎士が、ユーナ王女様の隣に座った体勢から、オレの方へと身を乗り出す。
やめて! ユーナ王女様が隠れちゃう! 見えなくなっちゃう!
しかも、顔も体格もオーラも怖いのに、黒のスーツでビシッと決めて、肩幅の圧も凄い。
「軍関係者には協力を求めないように忠告いたしましたが、ユーナベルムに関しては英断でしたと評価しましょう」
オレの隣のソファに座るロゼリアが、長身の身を乗り出して、オレの頭上からローテーブルを見おろす。
赤髪ロング縦巻きロールだし厚化粧だし赤いドレスだし、ロゼリアの圧も凄い。
「ですが、ゲシュペンストに協力を求めたのは、失策でした!」
ロゼリアが、凄まじい威圧感の双眸で、クワッッッ!!!っと美月を睨んだ。
今や互いに最強の騎士団の一つに数えられる、『ゲシュペンスト騎士団』と『赤薔薇騎士団』。ライバル関係にあるし、騎士団長同士の対抗心も激しい。ゲシュペンスト騎士団長の養女の美月に対し、ロゼリアは友好的にはなれないのだろう。
「戦場は『魔城の前庭』。四つ角の魔物の討伐作戦にて、四体いる四つ角の内の一体の足止めが、ユーナベルム騎士団の任務となる」
壮年の騎士が圧の凄い低音で、ローテーブルに置かれた資料をゴツい手指で捲った。
◇
立体的な圧のダブルクロスが息苦しいので、現実逃避の情報整理でもしておこう。
外地には、人間を全力で殺しにくる魔物がいる。
魔物の見た目は、人外のモンスターである。頭に角が一本ある。角に分岐の無い一本角から、二股分かれ~六股分かれの六段階に分類される。
角の股数が多い方が、強い。
四股までは、角の股数が多い方が大きい。一本角は人間のオッサンサイズで、四股は五階建てのビルくらいに巨大だ。
五つ角は、人間サイズに戻る。恐ろしく強く、知能が高く人語を解し、いつの時代も外地に四体いるとされて、『魔将軍』と呼ばれる。
六つ角は、数多いる魔物の中でも『魔王』一体のみである。でも、人前に現れることは無く、見たという記録も無いらしい。
ってことで、さらっと出てきた『四つ角が四体いる』という情報は、ヤバい。『激しく暴れる五階建ての殺人ビルが四棟いる』くらいにヤバい。
◇
オレは、頭上に厚化粧BB……、顔面も堅守のロゼリアの圧を感じながら、資料に目を通す。
戦場は『魔城の前庭』。『魔界』と『外地』の境界、『左右に果てなく天にも届く闇の壁』の手前にある。魔王の居城と目される岩山の麓に広がる、広大な平地である。
魔物の大軍勢と、魔物の角から無尽蔵に土人形を作る魔将軍『冒涜者』に守護され、長年の難攻不落で軍を苦しめていた。
冒涜者をオレが討伐してから、戦線の押しあげが進んでいる。とは聞いている。
冒涜者を討伐したときは、四つ角が三体いた。暴れまわられて、かなりヤバかった。
そして、『魔将軍を一体討伐したら四つ角が一体増えた』って現状は、一つの仮説を思い出させる。
「本隊は、聖高潔騎士団四万である」
凄味のある低音で解説が入る。
「本隊四万の総攻撃で、四つ角の一体『触手樹』の討伐を試みる。他の隊で、それ以外の四つ角三体と魔物どもを足止めする」
四つ角の魔物を討つには、緻密な作戦と、優秀な指揮官が率いる大軍、のセットが基本だ。
討伐目標の四つ角と他の魔物は分断する。孤立した四つ角を総力で攻撃する。
となると当然、分断を担当する部隊は最小限の戦力で、死ぬ気でやらざるを得ない。
「聖高潔騎士団の直々の要請により、ユーナベルム騎士団が招集される運びとなった。我らとしても、実績を積み評価を得る好機と、受けるに異存は無い」
ここで、壮年の騎士が話を区切った。この先が、いよいよ本題ってことだ。
「ユーナベルム騎士団が足止めを担当するのは、戦場に新たに現れた、人間サイズの四つ角である」
本題に、オレは驚いた。
◇
人間は、魔物をほとんど知らない。魔界から侵攻してくる、くらいしか知らない。
遥か昔から戦争していて、千年以上前の記録が残っている。なのに、詳しいことは何も分かっていない。
千年分の記録には、もちろん、魔将軍の討伐情報だってある。いつの時代も四体いて、討伐されれば目に見えて数が減り、それでも、いつの時代も四体いる。
じゃぁ、減った魔将軍は、どこから補充されるのか?
仮説の域なら諸説あるけれど、道理に適った一つ。『魔物も、人間同様に成長する』。言われてみれば、それもそうか、となるもの。
強い一つ角が二つ角になって、強い二つ角が三つ角になって、飛び抜けて強い三つ角が四つ角に、最も強い四つ角が五つ角になる。
四つ角が五つ角になる途中が『人間サイズの四つ角』と考えると、それもそうか、となるわけだ。
壮年の騎士が、凄味のある低音で続ける。
「恥ずかしながら、今のユーナベルム騎士団は戦力の低下が否めぬ。かつての栄華も虚しく、並の騎士団と大差ない程度に、である」
オレの知る『並の騎士団』は、そんなに強くないっす。
「我らの未来を見据え、今回の被害を抑えるためにも、新実 健二『心剣士』殿に御協力をお願いしたい」
凄味のある頭を、前のめりにさげられた。
「わたくしからも、お願いいたします」
ユーナ王女様からも、お願いされた。光栄至極にございます! でも!、壮年の騎士に隠れて御尊顔を拝謁できない!
「不肖このオレでよろしければ! 喜んで! 協力させていただくっす!」
オレはフライング気味に快諾した。ユーナ王女様のお願いを断るなんて、在り得なかった。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第08話 EP03-01 人間サイズの四つ角/END
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