第04話 EP01-03 燕という少女
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
対人武器を調達に、鴉羽の友人『燕』に会いにきた。ボクシングジムで対面した燕は、淡い水色髪のツインテールの、小柄で線が細い、黒ジャージの中学生女子だった。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
◇
燕とスパーリングしていた黒ジャージのゴリの人が、大きなボクシンググローブでリングロープを鷲掴み、上下に大きく引き開いて、リングから下りてくる。ゴリラみたいな体格の超マッチョで、念のため、女の人である。
「うふふふふっ。ゴメンねぇ、燕ちゃぁん。どうせ当たらないと思ってぇ、思いっきり振っちゃったぁ」
ゴリの人も、かわいい声だ。にこやかで、おっとりかわいいお姉さん系の喋りだ。
ギャ、ギャップが、……い、いや、何でもないっす、はい。
「次は当たりませんよ! ゴリさ……、小織さん!」
燕も、かわいい声で明るく強気に言い返した。
燕は、性格の好い、かわいい系の少女だ。
オレは改めて、燕と対面する。
燕が、スポーツバッグから手袋の束を取り出した。
「こんな感じのでいいの? ランニング中に手を怪我しないように嵌めてた、使い古しの手袋なんだけど」
オレは、差し出された手袋を吟味する。拳での殴打の際に拳を守る革のグローブである。武器と防具の中間くらいと位置づける。
へたった黒い合皮で、フィンガーレスで、手首位置をベルトで固定できて、手の甲も四角く露出してる。
見た目がポイント高い。嵌めた自分を想像するだけでテンション上がる。
「最高っす。これ、六セット?、全部買い取らせていただくっす。買値も少し上げとくっす」
横から、鴉羽が覗き込む。
「使えなくなった手袋が六セットとは。燕は相変わらずの貧乏性。物が捨てられないのだな」
鴉羽はデリカシーが無い。
燕が恥ずかしげに赤面する。
「ちょっ、ちょっと、鴉羽。物を大事にする、って言いなさいよ」
オレ的には、僥倖である。『強い思い』を『長期間』籠め続けた品こそ、『心剣士』にとって強力な武器となり得る。物を大事にする人、素晴らしい。
「これ、契約書っす。時間があるときでいいんで、内容の確認と必要事項の記入を」
燕に書類を渡す。
鴉羽に武器の調達を頼めて好かった。
鴉羽も軍人だけど。オレとは学校や戦場でしか面識がないから。
鴉羽は、まだ付き合いが短い。オレの家に来たことがない。オレの家族を知らない。
万が一にも、『対人武器の調達』という限定的な情報から、『滅魔の剣の適合者をオレが匿っている』という結論に辿り着くことは皆無い。
逆に、美月は、そんな断片的な情報から、その結論に辿り着ける。それほどまでに、オレの頼れる相棒で、親交がある。
だから今回は頼れない、というジレンマだ。
◇
「オッケー。後で記入しておくわ。じゃぁ、アタシはまだトレーニングがあるから」
燕が、スポーツバッグに書類を入れる。ボクシンググローブを取り出す。
ボロボロのボクシンググローブだ。ボロボロもボロボロ、革が擦り切れて破れて中身の衝撃吸収材が見えて、その衝撃吸収材まで破れて千切れてボロボロだ。
ボロボロのボクシンググローブを嵌めた燕が、サンドバッグの一つの前に立った。
「それは! もしかして!」
鴉羽が、思い出したように声をあげた。
「送別会に先輩から貰ったグローブか!」
先輩=超戦闘狂少女である。燕と鴉羽に共通する、聖高潔騎士団時代の人間関係である。
鴉羽がボーイッシュに続ける。
「破れてしまってボロボロではないか。貧乏性にもほどがある。そこまでボロボロでは、トレーニングにも差し支えるだろう?」
確かに。
燕が、もっと赤面して、反論する。
「い、いいのよ! これは、キョウ先輩が、アタシがボクサーとして成功するようにって、それまでの心の支えにって、くださったんだから!」
なるほど。尊敬する先輩がくれた大事なものなのだな、とオレは納得した。
「先輩がそこまで考えているわけないだろう」
鴉羽が真顔で反論した。鴉羽はデリカシーが無い。
でも、確かに。キョウは心遣いとは住む世界が違う感じの人だった。
「ここは、キョウさんの心遣い、ってことにしておいた方が好いんじゃないか?」
オレは、さり気なくフォローを入れた。
「いいの! アタシは、キョウ先輩の気持ちを支えにして、プロを目指すの!」
燕が、かわいい声で明るく強気に断言した。同時に、サンドバッグを叩き始めた。
パァンッと軽快な響きに交じって、破れたボクシンググローブのバフバフって気の抜ける音も聞こえる。確かに、トレーニングに差し支えていそうではある。
鴉羽が呆れたように、友の変わらぬ様子を喜ぶように微笑して、肩を竦めた。
◇
凄いものを見てしまった。
心剣士にとって、『強い思い』を『長期間』籠め続けた武器は、超強力魔法品に勝るとも劣らない。
オレにとっては正しく宝剣、護剣、切札レベルの武器が、目の前にある。
擦り切れていようが、破れていようが、武器の状態は関係ない。籠められた思いが力となる。
欲しい! 垂涎の逸品すぎる! でも、由来を聞けば、売ってもらえるものじゃないと分かりきってる。
対人戦で使いやすそうなフィンガーレスグローブが六セットも手に入った。成果は十分以上だ。
オレは割り切って、帰ることにした。キュキュキュッ、と高い靴音と、バフバフと間抜けなパンチの音が、アンバランスに鳴っていた。
燕の背中は、小柄で線が細くて、アンバランスな音も交えて、かわいかった。燕は、性格の好い、かわいい系の少女だ。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第04話 EP01-03 燕という少女/END
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