第03話 EP01-02 対人武器
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
中学校の放課後に、ビル街の端にやってきた。
「ここ?」
古いビルの中程にある薄汚れた看板を見あげて聞いた。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
「そうだ。聖高潔騎士団の同期だった燕がいる」
鴉羽がボーイッシュな声で答えた。
鴉羽 梨華は、クラスメートの女子で、美月の友だちである。黒髪のボーイッシュなショートヘアで、意識高そうな、大人びた感じがある。
聖高潔騎士団所属の、エリート候補の軍人でもある。
オレも鴉羽も、男女の差はあれど、中学校の制服のまま来た。
鴉羽との親密度を上げたい美月が一緒に来たがったのは、オレの事情で拝み倒して遠慮してもらった。超不機嫌な顔で睨まれた。
「送別会以来か」
先行する鴉羽が、『会うのが楽しみ』と顔に隠さず微笑する。
「一緒に先輩に鍛えられた姉妹弟子だ。ジブンなんかより実戦向きで、先輩に気に入られていた」
先輩ってのは、名前は『キョウ』、超戦闘狂の少女である。不良軍人で、生きるか死ぬか紙一重みたいな戦い方ばかりして、強い魔物とも渡り合う。
あの戦闘狂のお気に入りの後輩って、やっぱりキョウ擬きみたいな感じなのだろうか。オレンジ色のボサボサの長い髪をして、歯がギザギザしてたりするのだろうか。
「連絡はしておいたが、会うのは久しぶりだ」
鴉羽が、軽い足取りで歩を進める。
オレは追いながら、また看板を見あげる。
薄汚れた看板には、『山之上ボクシングジム』と、経年劣化で角の欠けたペンキ文字で書かれていた。
◇
フロアの中央にボクシングのリング、壁際に並ぶサンドバッグや姿見鏡や筋トレ器具。一目でボクシングジムと分かるフロアに入った。
革を鋭く打つパァンッと高い音と、床を強く踏むキュキュッって高音が、幾つも鳴り響く。
広いフィットネスジムみたいなフロアに、二十人くらい。女の人しかいないし、女性専門のボクシングジムっぽい。本格的な動きで縄跳びする人もいれば、サンドバッグを緩く叩くフィットネス感覚な人もいる。
男がオレだけって、ちょっと気まずい! しかぁし、問題ない!
オレがここに来たのは、ボクシングを習うためじゃない。対人の武器を調達するためだ。
鴉羽には、以前にも武器の調達を頼んだことがある。
結果、キョウを紹介されて、キョウの武器のお世話になった。
今回は、強靭凶悪な魔物を倒す強力な武器じゃなくて、人間を無力化するための低火力の武器が欲しい。と頼んで、ここに案内された。
「おっ?! ちょうど、スパーリングをするようだ。運が好い」
鴉羽が、フロアの中央を指さした。
ボクシングのリングがある。シンプルで、古く薄汚れ、もとい、使い込まれた年季がある。汚れの一つ一つが、あの上でトレーニングを積んだ人たちの血と汗と涙の跡に違いない。
リング上には、ボクシンググローブとヘッドギアを装着けた黒ジャージの女の人が二人いる。
一人は、ゴリラ!、ゴリラだ! 凄い体格のマッチョ! 女の人だから!、念のため女の人だから!
見た目が文句なく強い。『強そう』をすっ飛ばして『強い』。戦闘狂のお気に入りの後輩か!?
もう一人は、淡い水色髪のツインテールの少女だ。中学生かな? やや小柄で線が細い感じか。
体格差が強烈だ。ゴリラと子供、もとい、大人と子供だ。ワンパンで吹っ飛びそうだ。
あ、スパーリングが始まった。ツインテールの少女が、ダンスみたいな素早いステップを踏んだ。キュキュキュッ、と高い靴音を鳴らして、残像が残りそうなスピードで細い上体を振った。
ツインテ少女はそのまま、キュキュッと軽いフットワークでゴリの人の側面へと回り込む。ゴリの人の重そうなパンチが追うけれど、すでにツインテ少女は、パンチが追いつけない位置にいる。
重そうなパンチの通過に合わせて、ゴリの人の腹へとカウンターパンチ! パァンッ!、と軽快に鳴った。
ツインテ少女は間を置かず、キュキュキュッと素早いステップを踏む。追ってくる重そうなパンチを軽々と置き去りにして、軽いフットワークでゴリの人を翻弄する。
分かった。『燕』って人がどっちか、分かった。
「戦場でも通用する強さだ。軍を辞めたとて、磨きがかかっている」
鴉羽のボーイッシュな言葉に納得する。人間より強靭な魔物に対抗するなら、パワーよりスピードが好ましい。
ツインテ少女のスピードパンチが、パパパァンッ!と連続ヒットする。ヘッドギアや腹にパンチを何発も受けて、しかしゴリの人はビクともしない。
強い! 強いけど、おかしい。練習だからって、体格差があるからって、パンチが効かなすぎる。
ボクシンググローブの鋭いパンチが当たれば、頭なら脳が、腹なら内臓が揺れる。体格差があろうと揺れはゼロにはならない。揺れれば、顔色とか膝に、何かしらの変化が現れる。
その『変化』が無い。ゴリの人は平然と、重そうな、でもツインテ少女のスピードと比べるとスロー過ぎるパンチを、カウンター上等で大振りし続ける。
理由は、何となく分かる。
ツインテ少女の、踏み込みが浅い。フットワークは素晴らしいのに、警戒ゆえか、チャンスにも相手の懐深くに飛び込むことをしない。
「燕は、強かった。だが、死の恐怖を乗り越えられなかった。だから、軍を辞めてボクサーを目指した」
鴉羽が、少し寂しげに答え合わせをした。
珍しいことではない。死ぬのが怖い、なんて当たり前だ。
それでも戦う理由があるヤツは戦場に出る。戦う理由がないヤツは別の道を模索する。
燕って人が後者だっただけである。
「では、そろそろ」
鴉羽が、喉に手を当てた。音を調節するように、幾音かを声にした。
声真似するとき、って感じだ。
「ちんたら逃げ回ってんじゃねぇぞぉぉぉ!、燕ぇぇぇっ!」
キョウの声真似だ。戦場にあっても何処か楽しげな、荒っぽい声音だ。思わず笑いが噴き出すくらいに似ていた。
燕が露骨に驚いて、背筋をビックーンと伸ばした。ゴリの人の重そうなパンチが、……オレは思わず目を覆った。
◇
リングを下りた燕と対面する。
「鴉羽! 二度とやらないでよ! 次やったら、『リカちゃん』って呼ぶわよ!」
かわいい声だ。鼻に絆創膏を貼った燕が、鴉羽に食ってかかった。
「それは嫌だな。分かった。二度としない」
鴉羽がボーイッシュな真顔で同意した。
仲良いな~。
燕は、かわいい系の少女だ。かわいいけど別要素の混入著しい美月やレサリアとは違う、純粋に『かわいい系』だ。
中学生くらいの女子で、淡い水色髪のツインテールで、やや小柄で線が細い。服は、黒いジャージに、履き込まれた練習用シューズ。
「こっちは、クラスメートで『心剣士』の新実だ」
「新実っす。よろしくお願いするっす」
鴉羽から紹介されて、オレは腰低く挨拶した。
「同い年だから、もっと気安くていいわよ。よろしくね、新実君」
燕は、かわいい系の少女だ。性格はフレンドリーそうだ。
オレの歳の近い知り合いって、人見知りの優等生と、自信家の御嬢様と、意識高いボーイッシュと、引き籠もり歴女だから。普通っぽい女子は新鮮だ。
「お、おう。よろしく、燕さん」
オレは気後れして、ちょっとキョドりながら、握手を交わした。普通の女子っぽい、小さくて柔らかい手だった。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第03話 EP01-02 対人武器/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




