第13話 EP04-03 賑やかな日
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。『内地』では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
◇
オレは、ビル街の端のボクシングジムから、住宅地のマンションにある自宅へと帰ってきた。
羞恥プレイの繰り返しの果てにボクシンググローブを獲得できて、上機嫌だ。……いや、やっぱりちょっと複雑な気分だ。
でも、今は、そんなことは些事! どうでもいい! 今まさに、オレの眼前にいらっしゃいますのは!
◇
秋の休日の穏やかな午後に、オレは超緊張して、我が家のリビングルームのソファに座る。
廊下側の外開きの戸から入って、部屋の手前側にはローテーブルと五脚のソファがある。奥側には、絨毯敷きの広めの空間を挟んで、テレビと数台の棚がある。
絨毯には、愛妹と静妹が仲睦まじく遊ぶ。ファンシーショップで買ったシールを、二人で相談しながらシール帳に貼って、かわいい。
美月もいる。優等生の本能がそうさせるのか、ネコみたいな体勢で、妹二人の手元を覗き込む。
ローテーブルを挟んで、オレの対面のソファには、ユーナベルム王国のユーナ王女様が!、鎮座される! にこやかに微笑んでいらっしゃる! 眩しいほどに!、尊い!
「ちょっとちょっとリカちゃん。本当に本物のユーナ王女様よ。新実君って、凄い人だったりするの?」
オレの弁明の正当性を証明したくて招待した燕もいる。絨毯の端の方で正座してる。
「リカちゃんはやめてくれ、燕。ドーナツを差し入れたからと、感謝されこそすれ、何が不満だ?」
成り行きで付いてきた鴉羽が、ボーイッシュに嫌がった。
鴉羽も、絨毯の端の方で正座してる。
◇
「今回、新実 健二『心剣士』殿に依頼したい内容であるが」
壮年のユーナベルム騎士が、ユーナ王女様の隣に座った体勢から、オレの方へと身を乗り出す。
やめて! 分かってたけど、ユーナ王女様が隠れちゃう! 見えなくなっちゃう!
いつもの、顔も体格もオーラも怖い。黒のスーツでビシッと決めて、肩幅の圧も凄い。
「戦場は『魔城の前庭』。『人間サイズの四つ角の魔物』の討伐を、ユーナベルム騎士団が仰せつかった」
圧の凄い低音で、ローテーブルに置かれた資料をゴツい手指で捲る。
オレは、『ついに来たか!』と思った。予想より早かった。
オレの隣のソファに座るロゼリアが、長身の身を乗り出して、オレの頭上からローテーブルを見おろす。
赤髪ロング縦巻きロールだし厚化粧だし赤いドレスだし、ロゼリアの圧も凄い。
「前回作戦の報告書を受け、上層部が『魔将軍に匹敵する危険度と認定し早急に討伐すべき』と判断したようです」
壮年の騎士が、オレの方へと、さらに身を乗り出す。
近い! 近いっす!
「多くは語るまい。新実 健二『心剣士』殿に、御協力をお願いしたい」
「わたくしからも、お願いいたします」
ユーナ王女様からもお願いされて、光栄至極にございます!
「今回は、わたくしが『伝家の宝剣』を手に、最前線にて『人間サイズの四つ角の魔物』と相対します。新実 健二『心剣士』様には、そのサポートを」
ユーナ王女様の尊い御声を、壮年の騎士が遮る。
「ユーナ王女様は、安全な後方から皆を応援していただければ、皆の士気も最高潮に高まりましょう」
「オレも、その方が善い結果になると思うっす」
ユーナ王女様は少し前まで、最強クラスの超強力魔法品『伝家の宝剣』と合体した奇跡の『超強力魔法品人間』だった。超常にして超人だった。
でも今は、普通の人間に戻って、畏れ多くも、ハサミもまともに扱えない可憐で儚い王女様である。
「わ、わたくしも、最近は戦闘の訓練を受けて」
「後方でお願いいたします」
「後方でお願いするっす」
壮年の騎士の後方から、ユーナ王女様がシュンと肩を落とす気配がする。申し訳ないが、ここは心を鬼にしてスルーしよう。
◇
問題は、ある。
巨体の四つ角の魔物は、巨体ゆえに、攻撃力が圧倒的な暴威となる。
巨体の一暴れは、百人以上の騎士兵士を弾き飛ばす。ときに数百人を薙ぎ倒し、陣形そのものを曲げ、崩す。
反比例して、防御は低下する。
巨体は鈍重で、大きさゆえに大軍による一斉攻撃、集中攻撃が有効だ。例えば、弓兵千で一斉射とか。
他の魔物から分断、孤立させられれば、大軍での討伐は現実性が高い。
これが、人間サイズの四つ角の魔物となると、状況が変わる。
人間サイズだと、肉体そのものの攻撃範囲は狭い。前回の作戦でそうだったように、圧倒的な強さの割には人間の軍の被害が少なかった。
反して、防御はヤバい。
的が小さすぎて、大軍による一斉攻撃、集中攻撃が通用しない。弓兵千で一斉に矢を放ったとしても当たるのは精々数本、そんなんではダメージにもならないだろう。
じゃぁ、どうやって討伐するのか?
◇
オレが、その超難問の結論を出すまで、僅か0.1秒!
「不肖このオレでよろしければ! 喜んで! 協力させていただくっす!」
オレは躊躇なく快諾した。ユーナ王女様のお願いを断るなんて、在り得なかった。
超難問の答え? 知らん!
いつもの慎重で賢明なオレなら、少しは迷ったかも知れない。
しかし、今のオレには、『燕が強い思いを長期間籠め続けたボクシンググローブ』がある。
試したい。どれ程の強さなのか。オレが用意できるトップクラスの武器で、四つ角の魔物を討てるのか。
ユーナ王女様のためとか、静妹の件の恩義とか、今だけは建前だ。
不安を、好奇心が上回った。それが本音だった。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第13話 EP04-03 賑やかな日/END
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